最高裁平成6年2月8日第三小法廷判決
例によって事案は少しだけ簡略化するわね。
それじゃ、判例検討の配役から。

紛争の起きた土地に関係して・・・
土地の上にあった建物の登記名義人を、サル
建物の登記名義人であるサルから建物を譲り受けた人を、チイちゃん
その建物の建つ土地を買い受けた土地所有者を、ナカちゃん
私は、ナレーターってことで行くわね。

建物登記名義人
旦那が死んじゃって、相続が起きたわ。
あの人(=夫)の所有だった建物は、妻である、あたしが相続することになるわけよね。
まぁ、とは言え、あの人の居ない家なんて要らないし、欲しい人に売ることにしましょ。

建物登記名義人
ねぇねぇ。
あたしの持っている建物だけど、貴方買わないかしら?
買うよ! 

建物新所有者

建物登記名義人
え?
もう建物は、売ってしまったというのに、今更、相続を原因とする建物所有権の移転登記
まぁ、相続自体はしたことだし、所有権移転登記は、しておくわね。 

ナレーター
ところが、この建物登記名義人
自分の元への相続を原因とする建物所有権移転登記はしたものの、建物売却相手への所有権移転登記はしないままに、してしまったのです。
その結果、建物の真実の所有者と、建物の所有名義人(登記名義人)とが、異なるものとなってしまいました。
競売で土地を買えたです!
欲しい土地を手に入れることが出来て、私は嬉しいです!

土地所有者
・・・と思ったら、私の取得した土地の上には、建物が建っているです!
コレでは、私が土地を使用することが出来ないです!
建物所有者の方には、建物を収去(シュウキョ)して、私の土地を返還してもらうです!
えーっと、建物の所有名義は、あの人ですね・・・です!

土地所有者

建物登記名義人
え? ナニ? 建物を収去して、土地を返せ
いやいやいや、無茶言わないで欲しいんですけどぉ~。
あたしは、もう建物は売り払ってしまって、建物も持っていないわけだし、当然、あんたの土地も占有していないわけでしょ?
その、あたし相手にナニ訴えているのよ、いまさら建物収去しろとか言われても困るわよ!
訴えるなら、建物の所有者を訴えなさいよね!
でもでも、建物の登記名義は、あなたになっているです!
だから、登記名義人であるあなたを相手に訴えているんです!
いいから、私の土地の上の建物を収去して、私の土地を返して下さいです!

土地所有者

建物登記名義人
収去する建物も持っていないし、だから、占有もしていないっていうのに、なんで、そんなこと言われないといけないのよ!
いいわ、それなら裁判でも何でもすればいいじゃないの!

ナレーター
一審、二審は共に、建物登記名義人の主張を容れました
ソコには、土地所有者物権的請求権の相手方は、現に目的物を占有している者(又は、現に妨害状態を生じさせている者)とする原則があったからです。
   





 
はい、ソコまでねー。
・・・チイ、すっごいやる気一杯だったのに「買うよ!」しか言ってないよ。正直、もっとやり甲斐のある役がしたかったよ!
・・・・。
(この流れだと言い出しにくいんだけど、私なんか配役さえ振られていないのよねぇ。
 うーん、次回の判例検討の際には、ナレーター役を光ちゃんから横取りしちゃおうかなぁ。)
つかさおねーちゃんも、やっぱりチイが「買うよ」しか言ってないから不満そうだよ!
違うよ、違うよ! チイは、やる気一杯だったけれど台詞がなかっただけだからね!
え? そ、そ、そうですよね。
だ、大丈夫です、私には、チイちゃんのやる気は伝わってましたよ。
(・・・す、す、鋭い・・・ようで鈍いのね・・・。
 不満げな空気は察してくれているけれど、肝心の不満の内容が明後日の方にいっちゃってるわ。)
つかさおねーちゃん、チイは次こそは、つかさおねーちゃんが不満を残さないようガンバルからね!!
それじゃ次回の配役は、気をつけるようにするわね。
ハイ、それじゃ、本件の争点ね。

今回の事案のように、所有権に基づく物権的請求権を行使する際、土地の上の建物所有者と、建物の登記名義人とが異なるような場合において、登記名義人に対して、物権的請求権に基づく建物収去、土地返還請求が認められるか
って問題よね。
うーん、無理じゃないかなぁ?
だって、登記名義人のあたしは、実際には建物を所有してないんだから、土地も占有してないわけでしょ?
そんなことは、実際に占有している人に言って、って思うもんねぇ。
最高裁は、次のように述べているわ。

土地所有権に基づく物上請求権を行使して建物収去・土地明渡しを請求するには、現実に建物を所有することによってその土地を占拠し、土地所有権を侵害している者を相手方とすべきである。

 したがって、未登記建物の所有者が未登記のままこれを第三者に譲渡した場合には、これにより確定的に所有権を失うことになるから、その後、その意思に基づかずに譲渡人名義に所有権取得の登記がされても、右譲渡人は、土地所有者による建物収去・土地明渡しの請求につき、建物の所有権の喪失により土地を占有していないことを主張することができるものというべきであり、また、建物の所有名義人が実際には建物を所有したことがなく、単に自己名義の所有権取得の登記を有するにすぎない場合も、土地所有者に対し、建物収去・土地明渡しの義務を負わないものというべきである。


 もっとも、他人の土地上の建物の所有権を取得した者が自らの意思に基づいて所有権取得の登記を経由した場合には、たとい建物を他に譲渡したとしても、引き続き右登記名義を保有する限り、土地所有者に対し、右譲渡による建物所有権の喪失を主張して建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできないものと解するのが相当である。

 けだし、建物は土地を離れては存立し得ず、建物の所有は必然的に土地の占有を伴うものであるから、土地所有者としては、地上建物の所有権の帰属につき重大な利害関係を有するのであって、土地所有者が建物譲渡人に対して所有権に基づき建物収去・土地明渡しを請求する場合の両者の関係は、土地所有者が地上建物の譲渡による所有権の喪失を否定してその帰属を争う点で、あたかも建物についての物権変動における対抗関係にも似た関係というべく、建物所有者は、自らの意思に基づいて自己所有の登記を経由し、これを保有する以上、右土地所有者との関係においては、建物所有権の喪失を主張できないというべきであるからである。

 もし、これを、登記に関わりなく建物の「実質的所有者」をもって建物収去・土地明渡しの義務者を決すべきものとするならば、土地所有者は、その探求の困難を強いられることになり、また、相手方において、たやすく建物の所有権の移転を主張して明渡しの義務を免れることが可能になるという不合理を生ずるおそれがある。

 他方、建物所有者が真実その所有権を他に譲渡したのであれば、その旨の登記を行うことは通常はさほど困難なこととはいえず、不動産取引に関する社会の慣行にも合致するから、登記を自己名義にしておきながら自らの所有権の喪失を主張し、その建物の収去義務を否定することは、信義にもとり、公平の見地に照らして許されないものといわなければならない。


と、しているわけね。
うんうん、微妙に長いんで短く言うと?
判決文、もう一度読んだら?

つまり、最初に述べられているように、原則として、物権的請求権の相手方は、現に目的物を占有している者という原則論があるわけよね。

そして、その上で例外的に、本件事案のような、建物所有者が自己名義で建物所有権の登記をした後に、建物を第三者に譲渡して、建物所有権を失ったにもかかわらず、譲り渡した当人が、いまだ自己の元に建物の登記名義をとどめているような場合には、建物所有権譲渡についての対抗要件を具備していないことを理由に、土地所有者に対して、自己の所有権喪失について対抗することは認められないことから、土地所有者は、建物の登記名義人を物権的請求権の相手方とすることができる、としているのよ。
そうですよね。

ですから、本件事案のような場合においても、原則論は妥当するわけですから、建物所有者(=チイちゃん)に対して、土地所有者(=ナカちゃん)が物権的請求権を行使することは出来ます

但し、本件事案のような事実下においては、例外的に、登記名義人(=サル)も物権的請求権の相手方とすることもできる、としているわけです。

ですから、本件事案のような事実下においても、建物所有者への物権的請求権の行使が否定されるわけではない、という点には注意して下さいね。

具体的に、どのような場合の登記名義人が、例外的に相手方となるかについては、私が述べるよりも、最高裁判決文を、再度確認しておかれるといいと思います。

未登記建物の所有者が未登記のままこれを第三者に譲渡した場合には、これにより確定的に所有権を失うことになるから、その後、その意思に基づかずに譲渡人名義に所有権取得の登記がされても、右譲渡人は、土地所有者による建物収去・土地明渡しの請求につき、建物の所有権の喪失により土地を占有していないことを主張することができるものというべきであり、また、建物の所有名義人が実際には建物を所有したことがなく、単に自己名義の所有権取得の登記を有するにすぎない場合も、土地所有者に対し、建物収去・土地明渡しの義務を負わないものというべきである。

 もっとも、他人の土地上の建物の所有権を取得した者が自らの意思に基づいて所有権取得の登記を経由した場合には、たとい建物を他に譲渡したとしても、引き続き右登記名義を保有する限り、土地所有者に対し、右譲渡による建物所有権の喪失を主張して建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできない


前段部分が、原則どおり、建物の登記名義人が物権的請求権の相手方とはならない場合を、そして後段部分が、例外的に、建物の登記名義人が物権的請求権の相手方となりうる場合を述べていますね。
あらら・・・一審、二審では、建物の登記名義人が勝ってたのに。
そっかぁ。
あたしのしたことは、例外的な扱いを受けちゃうってことね。
少し私の理解が誤っていたことに気付きました。
例外の場合であっても、建物所有者を相手方とする物権的請求権の行使は可能だったんですね。
黒田先輩、説明してくれて、ありがとーです! 
つかさちゃんのナイスフォローって感じね。
じゃあ、最後に今更な質問だけど、大事なことだから聞かせてもらうわね。
質問

物権的請求権には、

①物権的返還請求権
②物権的妨害排除請求権
③物権的妨害予防請求権


3種類があるって話はしたわよね。
では、本件の物権的請求権は、この3種類のうち、ドレでしょうか?
物権的返還請求権です!
そうね。
物権的返還請求権というのは、この事案からもワカルように、物権を有する者に帰属すべき物を、第三者が占有しているときに、請求権者の物権を根拠に、その第三者を相手方として、その物の占有の回復(物の引渡し)を求めることができる権利をいうわけよね。

うん、大丈夫みたいね。
ハイです!
なんだかスッキリしたです!
  みんなでやる判例検討楽しぃー!
もっと、やろう!
もっと、やろうよ!
こ、こ、この小動物め・・・。
食べる量のみならず、勉強意欲まで底無しなのか・・・。
・・・あんた、妹のチイちゃんに完敗じゃないのよ。
唯一と言っていい取り得の大食らいも負けて、勉強姿勢では圧倒的なまでの惨敗っぷり・・・。
オネーちゃんとして、どうなのよ、ソレ。
NO.1にならなくてもいい もともと特別なOnly one
って言うかんね!
別に気にしやしないよ、そんなことは。
あんた、ホントそういう屁理屈だけはナンバーワンよね・・・。 

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