大審院昭和12年11月19日
事案は少しだけ簡略化するわね。
それじゃ、判例検討の配役から。

紛争の起きた土地に関係して・・・
土地に危険を生じさせた元所有者を、サル
サルから土地を譲り受けた人を、チイちゃん
その土地と隣接する土地の所有者を、ナカちゃん
私は、ナレーターってことで行くわね。

土地元所有者
わしの土地の畑を水田に変更しようっ!
よーし、そうと決めたら、お隣さんとの土地との境界線に沿って、水田に土地を変えるんだから、掘り下げないとならんな!

土地元所有者
あ、それ、それ、それそれっ!
ココ掘れ、ワンワン、ココ掘れ、ワンワンっと!
よしよーし!
お隣さんとの間に断崖が出来てまったけど、コレで水田が作れたぞ!
しかし思いのほか、立派な水田が出来たもんだ。
わしは満足じゃい!

ナレーター
水田を作るために、隣接する土地との境界線に沿って掘り下げた結果、両者の土地の境界には、高さにして約2尺程度の断崖が出来てしまいました。

土地元所有者
もしもし?
わしの水田だけど、あんたに譲ろうと思うんだが買わないかい?
買うよ!
チイも水田は耕した経験あるから、稲作なら出来るしね! 

土地新所有者

土地元所有者
よーし。
売買成立だ。
それじゃ、この水田は、今日から、あんたの物だ。
 

ナレーター
水田の所有権は、元所有者の人から、その所有権を譲り受けた人の元へと移転しました。
しかし、その後、雨などにより、掘り下げた土地の境界線は崩れ始めて、隣接する土地に建っていたナカちゃんの建物には、断崖から崩落する危険が生じてしまったのです。
お隣さんが、私の土地との間の境界線を掘り下げたせいで、砂地の断崖が雨のたびに崩れてしまっているです!
このままでは、私の家は、断崖から崩落して、お隣さんの水田に崩壊してしまう恐れがあるです! 
なんとかしてもらわないと怖くって、たまらないです!

隣接地所有者

土地新所有者
な、な、なんとかしろって言われても、土地の境界線を掘り下げたのは、オネーちゃんで、チイじゃないよ。
チイが買ったときには、既に、この土地は水田だったし、そんなことチイに言われても困るよ・・・。 
でもでも、このままでは私は安心して家に住むことができないです!
あなたには、土留めをするなどして崩落防止の措置をとってもらいたいです! 

隣接地所有者

土地新所有者
そ、そんなことしたら、すっごくお金がかかるよ・・・。
家が崩落するかも知れない不安があるからって言って、そんな多額の費用を、チイに負担させるなんて、公序良俗民法90条に反すると思うよ。
   





 
うんうん、そこまでかな。
チイちゃん、初参加の事案再現お疲れだったね。
すっごい楽しかったよ!
事案再現してみると、なんだか事実経過がよくワカルね!
いや、チイは、一人称も「チイ」にしてたし、なんだか、自分の原体験を勝手に盛り込んでいたし、色々出来ていなかったと思うんだけど。
  あ・・・。
まあまあ。
チイちゃんは初参加ですから、色々ワカラナイこともありますよね。
藤さんは、人一倍事例再現には厳しいところありますから、お気持ちはワカリますけれど、少しずつ慣れていけばいいと思いますよ。
つかさおねーちゃん、ありがとーっ!
チイも次は、しっかりやれるようにガンバルよ!
チイちゃん、頑張ってね!

それじゃ、本件の争点を、まとめるわね。
争点自体は、次のつになるわ。

つは、チイちゃんが事案再現の中で言っているように、境界線付近を掘り下げて危険を作り出したのは、チイちゃんではなくって、土地の元所有者のサルよね。
なのに、ナカちゃんは、サルではなく、チイちゃんに対して、適切な措置をとるよう求めることができるのか? って問題よね。

つ目は、
ナカちゃんの求めるような適切な措置を講じることは、チイちゃんにとっては多額の費用負担を伴うものよね。
物権的請求権に、このような相手方への費用負担までもを認めてしまっていいのか? という問題よね。

じゃあ、この点を判決文から確認することにしましょうか。
判決文見る前に、事案の争点を確認するんだね!
そっか・・・ナニが問題になっているかを確認してから判決文読むと、しっかり大事なとこが拾えそうな気がするよ!
大審院の判断は、次の内容ね。

其の所有にかかる土地の現状に基き隣地所有者の権利を侵害し若(モシ)くは侵害の危険を発生せしめたる場合に在(ア)りては該侵害又は危険が不可抗力に基因(キイン)する場合若くは被害者自ら右侵害を認容すべき義務を負う場合の外該侵害又は危険が自己の行為に基きたると否とを問わず又自己に故意過失の有無を問わず此の侵害を除去し又は侵害の危険を防止すべき義務を負担するものと解するを相当とす。

と述べて、被告が、地盤崩落のおそれのなきよう適切な措置を構ずる義務があると判断したのよね。
いやぁ、現代仮名遣いにしてもワカリにくいこと、この上ない大審院判決には、ホント参るよねぇ。
えーっと、つまり、端的にまとめると、どういうことなのかな?
あんた、毎回ソレばっかじゃないのよ。

それじゃ、争点について、まとめると・・・。
大審院は、相手方(=チイちゃん)に対して、予防措置費用の全額負担をなさしむという判決を下しているわよね。

確かに、事案からワカルように、チイちゃんは危険を作り出した直接の当事者ではないわ。
でも、土地を譲り受けた後、長年風雨にさらされて脆くなっていく擁壁に対し、なんらの改修もしておらず、その危険な状態を放置してきたという事実は見てとれるわけよね。
従って、相手方(=チイちゃん)には、この違法な状態を阻止できたにもかかわらず、放置してきたという行為責任が認められることから、改修工事費用の全額負担を請求できるという考えをとっているの。
この物権的請求権が、どのような内容の権利か、という問題について、学説つありますよね。

①行為請求権説
②忍容請求権説

説です。

①行為請求権説によれば、物権的請求権者は相手方に対して、侵害行為により生じた侵害状態を除去する行為を求めることができる、とされます。
②忍容請求権説によれば、物権的請求権者は相手方に対して、請求者が相手方の土地に立ち入り、請求者の費用で防止設備を講ずることを妨げることを忍容することを求めることができる、とされます。

本判決は、
侵害又は危険が不可抗力に基因する場合若くは被害者自ら右侵害を認容すべき義務を負う場合の外該侵害又は危険が自己の行為に基きたると否とを問わず又自己に故意過失の有無を問わず此の侵害を除去し又は侵害の危険を防止すべき義務を負担する
とし、第三者(=サル)による侵害であったとしても、相手方(=チイ)の費用での妨害排除妨害予防を請求しえるとしていることから、学説にいう行為請求権説的構成をとっているものといえます。

但し、『侵害又は危険が不可抗力に基因する場合』と『被害者自ら右侵害を認容すべき義務を負う場合については別としている点は注意ですよね。

行為請求権説か、忍容請求権説かは、費用負担が、請求権者なのか、請求の相手方なのか、という大きな違いがあるところですから大事なところになりますよね。
つかさちゃん、丁寧な説明してくれて、ありがとうね。

じゃあ、最後に今更な質問かも知れないけれど、大事なことだから質問させてもらうわね。
質問

物権的請求権には、

①物権的返還請求権
②物権的妨害排除請求権
③物権的妨害予防請求権


3種類があるって話はしたわよね。
では、本件の物権的請求権は、この3種類のうち、ドレにあたると思う? 
物権的妨害予防請求権です!
そうね。
物権的妨害予防請求権というのは、この事案でもワカルように、物に対する権限の行使が第三者によって妨害され、具体的危険が存するときに、物権を根拠として、その第三者を相手方として、妨害の予防を求めることができる権利をいうわけよね。

そして、この物権的妨害予防請求権性格を、判例行為請求権的性格を有するものとしているってことを抑えておいて欲しいわ。
成程ねぇ~。
物権的請求権が、どのようなものか
どのような場合に、誰が、誰に対して、どのように行使することができるかってことが、コレでワカッタってことね。 
そのための判例検討だからね。
でも、伝わったみたいで何よりだわ。 
 
  もっと、やろうっ!
もっと、やろうよ!
  コラっ! チイっ!!
あんまり、はしゃぐんじゃないよ!
よーし、それじゃチイちゃんのリクエストに応えて、もう1つ判例検討しちゃおっかな? 
  ワーイっ!!
やったぁ~っ!!
  うわぁ~いっ!
やりよったぁ~っ!!
・・・ホントに姉妹なの?
チイちゃんとサルは・・・。 
 

新着情報