集合債権譲渡担保

長かった民法物権法の勉強会も、今日が最終回ってことになったわね。
あ、そうなんだ。
よし、ソレじゃこれまでの道程を振り返って、思い出話に華を咲かそうか。
はいはい。
ソレは今日の勉強会を終えてからの打ち上げ会でね。

今日の勉強会では、前回の予告通り、集合債権譲渡担保について学ぶことにするわ。
物権の勉強会なのに、債権の話がきちゃうんだ。
そうね。
私も、今日の勉強会では必然的に、債権が絡んできちゃうから、債権の勉強会に回そうかとも考えたんだけど・・・やっぱり、ここで押えておくべきかな、って思ってね。

必要となる前提知識については、勉強会の中で伝えるつもりでいるわ。
もっとも、細かい内容については、また改めて債権の勉強会で・・・って位置付けにはなるんだけどね。
  ・・・後回しでいいと思う・・・。
・・・この際、永遠に・・・。
(無視っ!)

先ず、今日学ぶことになる集合債権譲渡担保意義からね。

集合債権譲渡担保とは、現在債権及び将来債権を一括して、譲渡担保にとる方法をいうわ。

例えば、お店を営業するナカちゃんが、現在有している債権及び将来生じる債権を、譲渡担保に供して融資を受ける・・・といった場合が、そうね。
一個の債権ではなく、多数の債権(現在及び将来債権ということなので)が、一個の譲渡担保権設定契約によって担保されている、というところがポイントよね。
現在有している債権を担保にする・・・ってのはワカルんだけど、将来生ずる債権なんて不確定なもんまで担保にできちゃうわけ?
いい質問をしてくれるじゃないの。

サル?
今日は民法物権法、最後の勉強会ってことで、この後打ち上げを予定しているから期待してくれていいわよ?
おおおおぉぉぉぉ。
ソレ聞いて、俄然みなぎるやる気パワーっ!!
光ちゃん、今日のあたしは一味違うよ?
頼もしいこと言ってくれるわね。
あ、そうそう、質問の答えが、なおざりになっていたわね。

集合債権譲渡担保の有効性については、今、サルが指摘してくれた将来債権は、一定の条件の下、認められているのよね。
判例がありますよね。
最判平成11年1月29日百選Ⅱ 6版7版28事件)ですが。

この判決文では

将来発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約の有効性については、次にように解すべきものと考える。
として、

(一)債権譲渡契約にあっては、譲渡の目的とされる債権がその発生原因や譲渡に係る額等をもって特定される必要があることはいうまでもなく、将来の一定期間内に発生し、又は弁済期が到来すべき幾つかの債権を譲渡の目的とする場合には、適宜の方法により右期間の始期と終期を明確にするなどして譲渡の目的とされる債権が特定されるべきである。
と、しています。

そして、
将来発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約にあっては、契約当事者は、譲渡の目的とされる債権の発生の基礎を成す事情をしんしゃくし、右事情の下における債権発生の可能性の程度を考慮した上、右債権が見込みどおり発生しなかった場合に譲受人に生ずる不利益については譲渡人の契約上の責任の追及により清算することとして、契約を締結するものと見るべきであるから、右契約の締結時において右債権発生の可能性が低かったことは、右契約の効力を当然に左右するものではないと解するのが相当である。
と、し

契約締結時における譲渡人の資産状況、右当時における譲渡人の営業等の推移に関する見込み、契約内容、契約が締結された経緯等を総合的に考慮し、将来の一定期間内に発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約について、右期間の長さ等の契約内容が譲渡人の営業活動等に対して社会通念に照らし相当とされる範囲を著しく逸脱する制限を加え、又は他の債権者に不当な不利益を与えるものであると見られるなどの特段の事情の認められる場合には、右契約は公序良俗に反するなどとして、その効力の全部又は一部が否定されることがあるものというべきである。
と、しています。
  えーっと、つまり、まとめると?
一般に、集合債権譲渡担保の有効性については、将来債権が発生する可能性があり、かつ、目的となる債権の範囲が特定されている限りにおいて、有効であると解されています。

この点については、本判決でも言及されています。
債権譲渡契約にあっては、譲渡の目的とされる債権がその発生原因や譲渡に係る額等をもって特定される必要があることはいうまでもなく、将来の一定期間内に発生し、又は弁済期が到来すべき幾つかの債権を譲渡の目的とする場合には、適宜の方法により右期間の始期と終期を明確にするなどして譲渡の目的とされる債権が特定されるべき
と述べられている部分ですよね。

もっとも、本判決百選解説を担当されてみえる潮見先生によれば、本判決重要な意義
「債権発生の可能性」・「債権発生の確実性」という規準でなく、「将来債権を取引対象とすることに伴うリスクを契約当事者間でどのように考慮したのか」を規準としてこの問題をとらえるべきであるとして、この問題に臨む基本的な視点を明らかにした。

 これは、将来債権の譲渡の有効性にとって決定的なのは譲渡「契約」の内容確定、そして、そこに込められた将来債権不発生・回収不能のリスク分配の探求であるという姿勢を、最高裁として鮮明にあらわしたものである。

 裏返せば、この判決は、債権発生の可能性・確実性の観点も、法律関係の発生原因の確定の観点も、この意味での契約内容確定にあたっての二次的要因にすぎず、衡量スキームの基本構造を構成しないことを明らかにしたものと言える

(『民法判例百選Ⅱ債権 第7版』有斐閣 2015年 59頁)
と解説されてみえますね。
 本判決重要な意義は、つ挙げられていますので、御興味ある方は同解説を御一読下さい。)
い、いや・・・まとめて・・・って言うたやないの。
なんか議論が、さらに煮詰まってないかや?
いえ、せっかくの勉強会の機会なので、藤さんに御教授願えたらって気持ちから、つい・・・。
いつも知ったかしているから、そんな話になるのよ!
サルの自業自得よ! 

まぁ、百選解説は難解な議論も多いから、そこまで踏み込んで理解する必要があるのかなぁって気持ちが、なくはないんだけれどね。

さて。
それじゃ、今日の勉強会では、この集合債権譲渡担保について扱った百選掲載判例を検討したいと思っているわ。
最判平成13年11月22日
百選Ⅰ 6版7版 99事件
ですね。
そうね。
判例検討のページに移動する前に、前提となる知識を、軽く説明しておくわね。

債権が譲渡された場合に、どういう法律関係を生ずるのか
という話になるわ。

詳しくは、冒頭でも伝えたように債権総論で学ぶことになるわけなんだけれど、今日の判例を見る上で、ある程度の知識が必要になるから、先に説明しておくわね。
  こくこく(相づち)。
事例で理解してもらおうと思うわ。

先ず、前提となる条文の確認からね。
六法で、民法466条を見てくれる?
民法第466条

『第466条 (債権の譲渡性)
1項 債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2項 前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。
債権は譲渡可能だわ(466条1項)。

この理解を前提として、
債権者をナカちゃん
債務者をサル
債権の譲受人をチイちゃんってことで事案で説明するわね。
はいはい。
あたしは、債務者ってことね。
債権の譲渡が、債権者のナカちゃんと、債権の譲受人となるチイちゃんとの間の契約でなされたのね。
この契約には、債務者であるサルは関与していないわ。
ふえ?
ソレやったら、あたし、ワカンナイじゃないの!
そうよね。
債権の譲渡にサルは関与していないわけだから、当然、債務者であるサルは、債権者が代わったことを知り得ない・・・ってことになるわよね。
ただ、ソレでは債務者であるサルだって困ることになるわ。

だから、債権譲渡(つまり、債権者がナカちゃんからチイちゃんに交代したこと)債務者であるサルに対して知らせる手立てが、とられなければならないってことになるわけよね。

このことについて規定した条文があるわ。
六法で、民法467条1項を確認してくれる?
民法第467条1項

『民法第467条 (指名債権の譲渡の対抗要件)
1項 指名債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。
物権法の最初に勉強したように、土地や建物といった不動産も二重譲渡されることがあったわよね。

ということは、債権だって二重に譲渡されることはあり得る話といえるわ。
例えば、債権者のナカちゃんが、チイちゃんに売ったサルに対する債権を、つかさちゃんにも売る・・・といった具合にね。
この場合、チイちゃんとつかさちゃんの優劣は、どうなるのか・・・つまり、177条178条と同じ問題が、ここでもあるってことになるわ。

ソレについて定めたのが、467条2項になるわ。
ナカちゃん、見てくれる?
民法第467条2項

『民法第467条 (指名債権の譲渡の対抗要件)
2項 前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。
詳しくは触れないけれど、ザックリ言ってしまえば、この467条2項にいう確定日付のある証書による通知、または承諾が先に債務者に届いた方が、優先するとされているのね。

事案でいうならば、ナカちゃんから債権の二重譲渡を受けたチイちゃんと、つかさちゃんとのサルに対する債権の優劣は、債務者であるサルに、ドッチが先に確定日付のある証書による通知、または承諾を先に得たかによって決するってことになるわけね。

今日の判例を検討する前に、この点は知識として知っておく必要があったから、債権総論の論点だけれど、ここで説明しちゃったわ。
  うんうん。
大丈夫だよぉ。
   ・・・オマエはなぁー。
ソレじゃ、準備もできたことだし、民法物権法最後の検討判例に行きましょうか!

検討判例
最判平成13年11月22日ね!
百選Ⅰ 6版7版 99事件
いやぁ、難しい判例だった・・・。
最後ってことで、まさにラスボス級の判例だったよね。
でも、判決文をしっかり読んで討伐したいって思えるです!
まぁ、勇者のあたしにかかれば余裕だけどね!
・・・。

(藤先輩の職業(『DQ3』参照)は、間違いなく「遊び人」だと思うです・・・。
 あ、でも「盗賊」の可能性も、なくはないですか・・・。)
でもでも、なんか久々にガッツリ判決文と向き合えた気がしたお!
久々・・・って、ソレ、どうなのよ、あんた。 
いやいや、言うじゃないの。
終わりよければ全て良し』ってさぁ。
まぁ、つまり最後に完全燃焼できたのであれば、ソレは言うことなしってことなんだお。
・・・ナニ、その屁理屈は。

まぁ、サルの御託はさておき、民法物権法の勉強会も、今日が最終回ってことで、みんなで打ち上げ会に行きましょうか。
わーい、わーいっ!!
チイは、勉強会を最後まで参加出来たのは初めてだったから、すっごく嬉しいよぉ。
しかも、打ち上げって、なんか花火みたいな響きだし、ソッチもすっごい楽しみな感じしてきちゃうよぉ!!
いやいや、花火なんて音と光だけじゃないの!
あんなお腹も膨れないもんとは比較になんないから!!

よーーしっ!!
今日は思う存分食べるよぉぉぉぉぉっ!!
・・・あんたは、いつもじゃないのよ。  
じゃあじゃあ、チイも今日は思う存分食べるよぉぉぉぉ!!
ウフフフ。
今日の打ち上げは、物権法の勉強会最終回ってことで、私も入念に準備させてもらったのよね。
期待してくれていいと思うわ。
・・・。

(何故でしょう。妙な胸騒ぎが既にしているです・・・。)
さ。
ソレじゃ、駐車場に御迎えの車を用意してるから、一緒に駐車場まで行きましょうか。
ワーイっ!
ワーーイッ!
長らくお付き合い頂き、有り難うございました。
民法物権法の勉強会は、今日が最終回となります。
ここまで読んで下さった方、お疲れ様でした。
また、いずれの勉強会でお会いしましょう。

 一応、閑話回をこの後に予定しております。)

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