前回は、登記について学んだわよね。 思いのほか順調だったから、少し民法の話にまで絡めた勉強会が出来て良かったって思っているわ。 |
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光おねーちゃん、ケーキビュッフェご馳走様でした! チイ、あんまり嬉しかったから1つだけケーキ、お土産にしちゃったくらいだよ! 今日、帰ったら、あのケーキ食べるんだぁ。ウフフフ。 あ、オネーちゃんにも少し分けて上げるからね! |
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え? 冷蔵庫にあったケーキ、アレ、チイのだったのかお? あたし昨日、夜中に冷蔵庫開けたら、なんでか知らないけどケーキあったから有難く食べてもぉたお。 |
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えぇぇーーーっ!!! ソレ、チイのケーキだよっ!! なんで、なんで勝手に食べちゃうの!! ヒドいよ、ヒドいよぉっ!! |
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・・・と、出来の悪い妹が騒いでいるので、大変心苦しい御願いなんだけど、光ちゃん、チイに改めてケーキを買ってくらはい、マル。 | ||
出来が悪いのは、チイちゃんじゃなくって、あんただけどね!! 別に構わないけど、お土産にはしないからね! チイちゃんには、お店でケーキを食べて行ってもらうから!! あんたの分までは買うつもりないから、ヨロシクね! |
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うんうん。 ただ、姉としては不出来な妹が心配で、心配で、たまらないんだお。 保護者として、妹に同伴させてもらいたいと思うんだお、マル。 |
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その点なら、どうぞ御心配なく。 御宅まで、私が責任もって御送りさせて頂きますから。 |
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・・・・ドケチめ。 | ||
ちょっとっ! 今、あんた何て言ったのよ!? もう一回言ってごらんなさいよ! |
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藤さん、いくら間違われたとは言え、チイちゃんが楽しみにしていたケーキを食べてしまわれたのは良くないですよ。 | ||
藤先輩の冷蔵庫なんて、モヤシと調味料しか入っていないのに、ナニを、どう間違えたら、他人のケーキを自分の物と思ったのか、はなはだ疑問です・・・。 | ||
チイが、名前を書いておかなかったのが駄目だったんだよね・・・。 そう言えばオネーちゃん、昔っからチイの物でも、名前が書いてないと間違えて食べちゃっていたもんね・・・。 チイ、オネーちゃんが大学生になってから暫く一緒に生活していなかったら、そのことを忘れてたんだよ・・・チイが悪かったと思うよ・・・。 |
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・・・ソレは多分、昔っから名前を書いてないことを口実に、チイちゃんの物を横取りしていただけです。 とんでもないオネーちゃんが、いたものです・・・。 |
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そうかぁ・・・。 冷蔵庫のケーキは、チイのケーキだったのかぁ・・・。 オネーちゃん、気付かずに食べちゃったんだぁ。 チイに悪いことしたなぁ。 |
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白々しい三文芝居まで始めたです。 | ||
オネーちゃん、ゴメンね! 今度からチイも、自分の物には、しっかり名前書くように気をつけるから、あんまり気にしないで! |
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なんでケーキを勝手に食べられたチイちゃんがサルに謝っているのよ。 サルっ! あんたこそ、チイちゃんに謝りなさいよ! |
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間違えて、すまんかった! マヂで反省しとる。 インディアン、嘘つかない。 |
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おそろしく誠意を感じない謝罪です。 | ||
まぁ、今回は物がケーキだから、チイちゃんには私が御馳走してあげるってことで済むから見逃してあげるけど、今度またチイちゃん泣かせるようなことしたら、タダじゃおかないからね! チイちゃんも、ケーキに名前なんて書かなくっていいから。 今度、また同じようなことがあったら、私に言ってね。 そのときは、しっかりサルを懲らしめることにするから! えーっと、のっけから派手に脱線しちゃったけれど、勉強会に戻るわね。 今日学びたい論点は、中間省略登記についてね。 |
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タンマ、タンマっ!! 登記についての知識もないのに、ソレをすっ飛ばしてナニやるって? 登記の説明自体、省略してんじゃないの! |
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前回しっかりやったからねぇ〜。 聴いてなかったのは、あんただけみたいよ? まぁ、基本書読めば済む話だし、ワカラナイなら基本書でも読んでおきなさいよ。 はぁーい。 勉強会に戻りまぁーす。 ちょっと下の図のような場合を考えてみてくれるかしら? |
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私の元にあったA土地の所有権が、私からサル(@売却)、ついでサルからつかさちゃん(A売却)と順次移転したとするわね。 意思主義によれば、A土地の所有権は、現在は、つかさちゃんにあるってことになるわよね。 しかし、移転登記は一切なされておらず、登記名義は、いまだ私のままって状態を考えてみて欲しいわけ。 このような場合に、つかさちゃんは私に直接移転登記を請求することができるのか(黄色矢印)? っていう問題、これが、いわゆる中間省略登記請求の問題なのね。 |
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確か、この問題は勉強したはずです・・・。 えーっと、えーっと・・・。 |
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前回勉強した登記請求権をベースに検討してみると・・・。 私と、つかさちゃんとの間には、直接の契約関係はないわよね。 となると、私は、つかさちゃんからの登記請求に契約上の義務として応じる必要はないわけよね。 じゃあ、そうなると、つかさちゃんはA土地の所有権に基づく物権的請求権としての登記請求権を、私に対して行使することができるのか? って問題になるわ。 ここまでの理解はOK? |
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NGです! まったくワカリマセンっ!! 登記請求権って、ナニよ! |
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藤さん、藤さん。 皆さん、理解されていますから、今日はフリは要らないと思いますよ? |
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そうよねぇ。 つかさちゃんの知ってる木下さんはお出来になりますものねぇ。 結論から言っちゃうわね。 判例は、2つの理由で、このような、つかさちゃんから私への登記請求権の行使、いわゆる中間省略登記については否定しているわ。 1つ目の理由としては、中間省略登記を許すと、事案の場合ならA土地についての権利変動の過程(私からサル、ついでサルからつかさちゃん)が、登記簿上正確に表されないことになってしまうわ。 つかさちゃんからの登記請求権を認めてしまうと、登記簿上は、私から、つかさちゃんに直接、A土地の所有権が移転したように表示されることとなってしまうからね。 2つ目の理由としては、このような中間省略登記を許してしまうと、例えば、サルが、つかさちゃんからA土地の売却代金を受け取っていない場合、本来であれば、サルとしては、つかさちゃんからサルに登記請求がなされた場合に、代金を支払わない限り、登記にも協力しない! という主張が可能なんだけど(同時履行の抗弁権・民法533条)、その登記が、私から直接、つかさちゃんに移されてしまうと、その主張が出来なくなってしまい、中間者であるサルの利益が害されることになってしまうわけよね。 だから、原則として中間省略登記は認められないということになるわ。 |
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光おねーちゃん、ちょっと待ってっ! でも、チイは、中間省略登記を認めた判例を知っているよ! |
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そうね。 判例は原則、中間省略登記は認めない、としているわけだけど、例外的に認める場合もあるわ。 百選T掲載の6版49事件 7版51事件も、その一つよね。 (最判昭和40年9月21日) 同判決では、次のように述べているわよね。 『実体的な権利変動の過程と異なる移転登記を請求する権利は、当然には発生しないと解すべきであるから、甲乙丙と順次に所有権が移転したのに登記名義は依然として甲にあるような場合に、現に所有権を有する丙は、甲に対し直接自己に移転登記すべき旨を請求することは許されないというべきである。』 として、まず原則として、中間省略登記は認めない旨を述べているわ。 でも、その後、例外的な場合として、 『ただし、中間省略登記をするについて登記名義人および中間者の同意ある場合は別である。』 として、例外的に中間省略登記を認める場合を述べているわよね。 これは、つまり、さっき述べた2つの理由のうちの2つ目の理由が、登記名義人と中間者の同意があることから問題とならないからよね。 同判決では、 『登記名義人や中間者の同意がない以上、債権者代位権によつて先ず中間者への移転登記を訴求し、その後中間者から現所有者への移転登記を履践しなければならないのは、物権変動の経過をそのまま登記簿に反映させようとする不動産登記法の建前に照らし当然のことであつて、中間省略登記こそが例外的な便法である。』 と述べているわけなんだけど、つまり、判例は、さっき述べた2つの理由のうち、1つ目の理由については貫徹していないといえるわね。 |
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そっか・・・。 中間省略登記が認められない理由の1つは、中間者の利益を害することにあるんだから、その中間者の同意が得られるのなら、その心配もなくなるもんね! チイは、判例は中間省略登記を認めるって理解だったよ・・・あくまでも原則は認めないってことなんだね。うん、納得したよ! |
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一応付け加えておくと、他にも局面は違うけれど、実際の物権変動の過程と異なる登記請求が認められたケースは存在するわね。 例えば・・・。 上の図を再利用するなら、サルから、つかさちゃんに贈与によって、A土地の所有権が移転したんだけど、登記は、無権利者である私の元に移転されて、A土地の名義人が私となっていたようなケースにおいて、つかさちゃんから私への移転登記請求を認めたものがあるわ。 (最判昭和30年7月5日) 他にも、サルから私にA土地が譲渡されて、私名義に登記移転もなされたものの、その譲渡契約が虚偽表示(民法94条)で無効となり、その後、A土地がサルから、つかさちゃんに贈与されたという場合に、登記名義人である私に対して、つかさちゃんの移転登記請求を認めたもの、もあるわね。 (最判昭和34年2月12日) |
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ひぃぃぃぃぃっ!! ワカラナイって言っているのに置いてけぼりぃぃぃ。 ボッチの、あたしを誰か助けてぇーーっ! |
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あ、そうそう! よく混同しやすいんだけれど、中間省略登記が認められるのか、という問題と、既になされた中間省略登記の効力の問題とは、区別して考える問題なのね。 少し言い方がワカリにくいかしら? 中間省略登記が認められるのか? という問題は、ここまで話してきた問題なのね。 コレに対して、既になされた中間省略登記の効力の問題というのは・・・。 例えば、既になされてしまった中間省略登記。 コレを、中間省略登記は、権利変動を忠実に表すものではないから無効だって考えると、既になされた中間省略登記が無効なものとして抹消請求の対象になってしまうわけよね。 |
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何度も再利用してて申し訳ないんだけれど、この上の図を見て欲しいわ。 今からの説明では、つかさちゃんから私への黄色矢印の請求の結果、私から、つかさちゃんに移転登記があった、という前提で聴いてね。 私からサル、ついでサルから、つかさちゃんと順次所有権が移転したところ、登記所には、直接に、私から、つかさちゃんに所有権が移転したとする申請がなされ、この申請を登記所が受理して、つかさちゃん名義の登記がなされてしまったとするわ(既になされた中間省略登記)。 この、つかさちゃんの登記を、サルが後から 「この登記は無効だ!」 って登記の抹消請求ができるのか? というのが、既になされた中間省略登記の効力の問題なの。 では、このサルからの、登記抹消請求は認められると思う? |
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や、や、やったはずなのに・・・。 ちょっと答えが出てこないです・・・。 く、悔しいです・・・。 |
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竹中さん! 誰でも一回やっただけで全部理解できるわけでも、忘れないわけでもないですから。 忘れて、また理解して、を繰り返して、じょじょに定着していくものだから、そんなに気にされなくっていいですよ! |
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あ、ありがとうです! じゃあ今日は、しっかり理解するです! |
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つかさちゃんの言うとおりよ、ナカちゃん! 私も最初の頃は、そうだったから。 でも、考える姿勢は大事にして欲しいわ。 憶えるんじゃなくって、理解するってことかな。 もっとも記憶しないといけないことは、勿論あるわけだけどね。 あ、脱線しちゃったわね。 じゃあ、考えてみてくれるかしら。 サルからの、つかさちゃんの登記の抹消請求は認められるでしょうか? |
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ねぇ、ねぇ・・・。 あたし1人をボッチにしてて平気なの? 考えてみてくれるかしら。 あたし1人をボッチにすることは認められるのでしょうか? |
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つかさおねーちゃん。 さっきから、オネーちゃんはナニを騒いでいるの? |
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難しい勉強会で、みんなが頭を悩ませているから、リラックスさせようと冗談を言って下さっているんですよ。 | ||
・・・・・。 (ヤバいお・・・。 このメガネ、勘違いっぱねぇっすわ! 下手すると、コイツ、善意であたしを見殺しにしかねねぇーお。) |
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・・・。 (黒田先輩の善意を散々利用しておいて、ナニを言うです! 勘違いを訂正しないままにしていた藤先輩が悪いです! ) |
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・・・あら? 誰も答えてくれないの? じゃあ、私が答えを言っちゃうわよ? この問題は、さっきの中間省略登記が認められるかどうか、という問題とパラレルに考えることが出来ると思うわ。 つまり、中間者であるサルが、まだつかさちゃんからA土地の売却代金を受け取っていない等、私から、つかさちゃんへの中間省略登記によって、サルの権利が害されるのであれば、もちろん、サルからの請求(移転登記の抹消請求)は認められるべきといえるわよね。 でも逆に、中間者であるサルが既に、つかさちゃんからの支払いを受けていて、私から、つかさちゃんへの中間省略登記によって、なんらサルの利益が害されていないのなら、現実問題としてA土地の所有権は、つかさちゃんにあるわけだし、実体関係に符号する、つかさちゃん名義のA土地の登記を、あえて抹消しなければならないものとはいえないわよね。 最高裁も、そのことは認めているわ。 (最判昭和35年4月21日) |
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あぁぁぁっ! オネーちゃんが気になっちゃって、質問を考えてなかったよ! くぅぅぅ。答えたかったなぁ。 |
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まぁ、サルはいつもナニかと騒々しいからね。 気になるのは無理もないわよね。 中間省略登記については、これくらいかな。 あ、チイちゃん、それじゃ、一緒にケーキ食べに行きましょうか。 |
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え、遠慮するよ。 だって、光おねーちゃんには、いつも御馳走になっているし、ケーキが食べられちゃったのは、ケーキに名前を書いておかなかったチイが悪いんだし。 |
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そんなこと気にしなくっていいわよ。 私が、チイちゃんにケーキを食べて欲しいって思っているから誘っているんだもん。一緒に食べに来てよ! |
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え? え? そうなの!? じゃあ、行く、行くっ!! チイもケーキ大好きだもんっ! |
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光ちゃん、光ちゃん・・・ちょっと、いいかな? | ||
ナニ? | ||
ちょっと、コッチ来て。 御願い、御願いっ! |
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ちょっとっ! あんまり引っ張らないでよ! |
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いやぁ、登記の勉強会、ちっとも聞いてなくってさぁ。 お陰で、今日の勉強会も、ちっともワカラナカッタんだよねぇ・・・。 で・・・ちょっと言い難いんだけど、チイ連れて、ネージュ・ブロンシュ行くんなら、お店で、あたしにもう一度教えてもらえないかな、って。 |
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・・・別にいいけれど。 一言、言うことがあるんじゃない? |
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なんだろ・・・。 | ||
前回の勉強会でも、再三念押ししたわけだし。 真面目に聴かなかったのも、サル自身の責任でしょ? だったら、私に言う事があるんじゃないかって話よ。 |
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ごめんなさい。 真面目に聴いてなかった、あたしが悪かったから、改めて教えて下さい。 |
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今度は、ちゃんと聴いてよ? |
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ウキッ!! (頭一つ下げるだけで、勉強会の遅れを取り戻す機会を得て、かつ、チイだけが御馳走されるはずのネージュ・ブロンシュへの同行を勝ち得たお! くっくっく・・・。 『この、あたしはナニからナニまで計算づくだぜぇーッっ!』) |
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ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!! (ど、ど、どこからか、とんでもなく邪悪な気配を感じるですぅっ! 『こいつはくせぇゲロ以下のにおいがプンプンするぜッーーーッ』な雰囲気が漂いまくっているですぅーっ!! ) |