それじゃ、今日からの勉強会では共同抵当について学ぶことにするわね。 | ||
ほほぉ。 これまで何度か名前だけは出てきていた共同抵当が、ここで来るわけね。 |
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そうね。 共同抵当とは、同一の債権を担保するために、複数(2個以上)の不動産に設定された抵当権のことをいうわ。 まぁ『習うより慣れろ』って言葉もあるし、例示問題を一緒に考えることで、この共同抵当とは、どのようなものか、そして、単一の目的物(不動産)が抵当権の目的となっている場合と比べて、どのような問題があるのか、ということを考えていきたいと思うわね。 |
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なんか楽しみだよぉ。 |
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つかさちゃんが債務者。 サルと、ナカちゃんと、チイちゃんが、つかさちゃんの債権者って設定で次の問題を考えてみることにしましょうか。 つかさちゃんは、2つの不動産を所有していたのね。 ここでは、A土地(評価額600万円)とB土地(評価額400万円)ってことにするわね。 |
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ふむふむ。 2つ合わせると1000万円かぁ。 なかなかにお金持ちだね、クロちゃんは。 |
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ただ、つかさちゃんは、サルとナカちゃん、さらにはチイちゃんにまで借金があるのよね。 ここでは、サルへの債務が600万円。 ナカちゃんへの債務が400万円。 チイちゃんへの債務が200万円ってことにするわね。 |
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・・・つかさおねーちゃんの債務総額は1200万円もあるよぉ。 | ||
前言撤回だお。 クロちゃんは、借金まみれの状態じゃまいか。 |
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まぁ、現実問題として、このような債務状況にあるなんてことは珍しくはないから。 さて。 ここからが問題になるわけなんだけど、サルは、つかさちゃんへの債権600万円を担保するために、つかさちゃんの所有する2つの土地(A土地及びB土地)の両方に、一番抵当権を設定したのね。 そして、A土地については、400万円の債権を有するナカちゃんが二番抵当権を設定して、B土地については、200万円の債権を有するチイちゃんが二番抵当権を設定・・・って状況だったわけ。 ちょっと煩雑だから、図で示すと、下の図になるわね。 |
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ふむふむ。 まぁ、あたし達3人の債権額の合計は1200万円で、クロちゃんの持っとる不動産の評価額の合計は1000万円ってことで、担保割れしちゃってるけど、あたしは一番抵当権をもっとるから安心だね。 |
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そうね。 つかさちゃんのA土地、B土地の両不動産の評価額の合計が1000万円ってことなんだから、その両方に一番抵当権を有するサルが、その債権600万円全額を得ることには問題はないわね。 |
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ニシシシシシシ。 一番抵当権様様だお。 |
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考えて欲しいのは、この先の問題なのね。 つかさちゃんが、債務の弁済を滞った結果、つかさちゃんの土地に設定された抵当権が実行される段階になった場合なんだけど。 その場合、サルとしては、つかさちゃんの土地の評価額は、それぞれあるとしても、競売の結果いくらで売却されるかはワカラナイんだから、A土地(評価額600万円)の競売だけでは、債権全額(600万円)が回収できない可能性があると考えて、A土地だけじゃなくって、B土地を競売することが考えられるわけよね。 (※ 利息は、ここでは考慮しないこととします。) |
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だおだお。 確かに、クロちゃんのA土地の評価額が債権額と同じだからって言っても、競売で、その額面通りに競落してもらえるとは限らないかんね! |
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そうよね。 もっとも、民事執行法188条による民事執行法73条準用があるため、超過売却が許されない場合もあるんだけれど、この場面では、サルの債権額と、つかさちゃんのA土地の評価額はギリギリの額なので、許されるって理解で話を進めるわね。 競売の結果、A土地、B土地、共に評価額通りの金額で売却されたとしましょうか。 (※ 手続費用等は、ここでは考慮しないこととします。) さて、この場合、サル、ナカちゃん、チイちゃんには、それぞれどのように配当されるでしょうか? |
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えーっと・・・。 A土地が600万円、B土地が400万円で、それぞれ売れたわけだよね。 ってことは、1000万円のお金が今あるわけか・・・。 うん、コレは全部あたしが貰うお。 チビッ子共には、こんな大金は必要ないかんね! |
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ソレはどういう法律構成に基づく判断なのよ! 真面目に考えなさいよ!! |
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えーっと、えーーっと。 藤先輩が、一番抵当権を持っているわけですから、600万円を先ず1000万円から取得すると思うです・・・。 そうなると残りは400万円ですから、同じ二番抵当権の私と、チイちゃんとで、コレを折半にするってことになるのではないですか? |
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え? ソレは、おかしくない? だって、ナカたんの債権は400万円だけど、チイの債権は200万円なんでしょ? ソレなのに半分こって、全然公平な気がしないよ? |
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うーん、ナカちゃんの考え方は、少しズレているわね。 抵当権は『目的物からの債権回収を図る手段』なんだから、果たして、売却された1000万円全額を前提に話を進めていいのかしらね。 |
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ふえ? ・・・ちょっと、よくワカラナイです・・・。 |
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『目的物から債権回収を図る手段』・・・? あっ! 成程ね、そういうことか! 一番抵当権者のあたしが、A土地から債権を回収するか、B土地から債権を回収するかで結論が変わってくるってことじゃね? |
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ふえ? ど、どういうことです? |
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つまりさ、あたしはA土地、B土地の両方に一番抵当権があるけれど、ナカたんはA土地だけ、チイはB土地だけでしょ。 さらに、2人の抵当権は、あたしの抵当権に劣後する二番抵当権なわけでしょ? 例えば、あたしがA土地から、あたしの債権の600万円の全額を回収したとしてみてよ。 そうなると、ナカたんは、A土地の二番抵当権をもっとるわけだけど、あたしの債権回収によってA土地は、もう空っぽになっとるから、二番抵当権者であるナカたんへの配当もナシってことになるんじゃね? その場合、チイはB土地に二番抵当権をもっとるわけだけど、一番抵当権のあたしの抵当権は、A土地からの債権全額回収によって消滅しとるから、二番抵当権でも、B土地の売却代金400万円から、チイの債権額200万円を全額回収できるってことだよね。 |
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ふえ? 同じ二番抵当権なのに、チイちゃんは200万円を全額回収できて、私には1円も配当されないんですか!? |
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いや、でも逆の場合もあるわけでしょ、これ。 あたしはB土地にも一番抵当権をもっとるわけだから、B土地の売却代金である400万円を、先ず全額もらっておいて・・・。 でも、あたしの債権額は600万円だから、まだ200万円足りないってことで、A土地の売却代金の600万円から、200万円を回収するって場合もあるわけっしょ? その場合は、チイが配当0円で、ナカたんは、A土地の売却代金の残額から400万円が配当されて、ウマァーってことになるんじゃね? |
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あ、その場合も確かにあるです・・・。 | ||
ってことは、アレじゃね? お前ら、チビッ子共を生かすも殺すも、あたし次第ってことだおね。 ニシシシシシシ。 |
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ぐぬぬぬぬぬぬ・・・。 なんだか納得いかないです! 藤先輩次第で、私とチイちゃんの地位が逆転することになるなんて、すっごく不公平だと思うです! |
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仕方ないね。 コレも法の定めるところだかんね。 マヂざまぁっ!! |
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ぐぬぬぬぬぬぬ・・・。 | ||
流石、藤さんです。 不公平な結果の招来という問題を、敢えて自らが嫌な役回りを演じられることによって、竹中さんに伝えて下さってみえるんですね。 |
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ほえ? どういうこと? |
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・・・知らずに言ってるだけよ、どうせ。 ホント、性格悪いんだから、困ったサルよねぇ。 今、サルが述べてくれたように、競売代金の配当の仕方によって、二番抵当権者の地位が逆転するという、はなはだ不公平な結果が生じてしまうことになるわけよね。 そこに、今から学ぶ民法392条1項の規定の意味があるのよね。 ナカちゃん、泣いてないで、民法392条1項を読んでみてくれる? |
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えっぐえっぐ・・・。 民法第392条1項ですか? 『民法392条 (共同抵当における代価の配当) 1項 債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合において、同時にその代価を配当すべきときは、その各不動産の価額に応じて、その債権の負担を按分する。』 |
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説明を入れるわね。 ここにいう 『同時にその代価を配当すべきとき』 というのは、今の事例のようなA土地、B土地の両不動産を同時に競売して、その代価を配当するというような場合を意味するわ。 これを同時配当というのね。 この場合は 『その各不動産の価額に応じて、その債権の負担を按分する』 (割付主義) と定められているわ。 つまり、今の事例に則して考えてみると、次のような配当がなされるってことになるわね。 |
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ドキドキするです・・・。 | ||
事例では、A土地が600万円、B土地が400万円ってことだったわよね。 ということは、その比は、3:2ってことよね。 『その各不動産の価額に応じて、その債権の負担を按分する』 ってことなんだから、一番抵当権者のサルは債権額600万円を 先ずこの比である3:2で按分して A土地の代金から、 600万円 × 3/5 = 360万円 つまり、360万円を受け取ることになり、 次いで、B土地の代金から 600万円 × 2/5 = 240万円 つまり、240万円の配当を受け、計600万円の配当を得ることとなるわけ。 後は、引き算ね。 A土地の代金の残りは A土地の売却代金600万円 - サルへの配当360万円 = つまり、240万円になるわ。 コレが、二番抵当権者であるナカちゃんに配当されるわけ。 そして、B土地の代金の残りは B土地の売却代金400万円 - サルへの配当240万円 = つまり、160万円よね。 コレが、二番抵当権者であるチイちゃんに配当されるってことになるわけね。 一応、計算の流れを、A土地についてだけ図にして示しておくわね。 |
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あれま・・・。 そうなってまうのか。 まぁ、この規定に従ったところで、一番抵当権者のあたしは1円も損してないんだから、いっか。 |
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・・・どんな目線で、勉強会に参加してんのよ、あんたは。 最初にも言ったように、サルの債権総額と、つかさちゃんの土地の評価額を考慮すれば、一番抵当権者であるサルが債権全額の満足を得ることは最初っからワカッていたでしょ? |
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あ、でも待って欲しいです。 私の債権額は400万円ですよね? 配当が240万円ってことは、まだ私の債権は160万円残っているです。 チイちゃんだって、200万円の債権のうち160万円しか配当されていないから、40万円の債権が残っているです。 この債権は、どうなるですか? |
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ソレは、仕方ないよね。 抵当権の設定された土地は、既に売却されちゃったんだから、チイやナカちゃんの残余部分は、抵当権のない債権(担保のない債権)として残るってことになるよね。 |
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あ・・・言われてみれば、そうでした。 でも、最初に藤先輩の話された場合より、全然いいです! |
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ちょっと計算も必要で面倒なところだから、少し丁寧に説明をすることにしたのよね。 まぁ、一番抵当権者をサルにしとけば、どうせ意地悪なこと言うんだろうなって思って、配役したんだけど、想像以上の嫌がらせっぷりに閉口しちゃったわよ・・・。 |
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聞いた? ナカたん? 全ては、あの金満女に仕組まれた仕打ちだったみたいだお? ヒドい話だよね? |
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明智先輩に、そんな思惑があったのは微妙ですけど、藤先輩が、いつも意地悪されるのが一番悪いって思うです! 他人が嫌がることはして欲しくないです! |
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嫌がることだから、したいんじゃまいか。 ホントお子様は、なんもワカッちゃないんだから、イヤんなっちゃうお。 |
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ぐぬぬぬぬぬ。 「イヤんなっちゃう」は、私の台詞です! |
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ウキっ! | ||
・・・。 (コレは、やっぱり柴田さんに頼んで一度懲らしめてもらわないと ・・・ね。) |