今日の勉強会では、代価弁済と抵当権消滅請求という制度について学ぶことにするわね。 | ||
消滅? ふむふむ。・・・ってことはニフラムかぁ。 あの魔法は便利だけど、経験値もお金も取りっぱぐれるというデメリットもあっからなぁ。 |
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またワケのワカラナイこと言って・・・。 真面目に聴いていないと、後からワカラなくなっても知らないからね? 制度の説明にいきなり入る前に、その前提から話すことにするわね。 じゃあ、せっかくだから、ここまでの理解を確認する意味で、質問の形にするわね。 質問! サルが、土地を所有していたとして・・・その土地を担保(抵当権を設定して)に私(=抵当権者)からお金を借りることにしたのね。 さて。 サル(=抵当権設定者)は、その後、この抵当権を設定した土地を、ナカちゃん(=第三取得者)に売却しました。 この場合、抵当権者である私の土地に対する抵当権は、どうなるんでしたっけ? |
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綺麗サッパリ消えてなくなる。 | ||
全然違うです! 明智先輩(抵当権者)の抵当権は消滅することなく、第三取得者である私の所有物となった土地の上に、依然として存続するです! コレは、抵当権の追及力と呼ばれるものです! (抵当権①勉強会参照) |
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流石、ナカちゃん。 そうよね。 この内容については、以前の勉強会で説明済みだものね。 一体ドコから、消滅するなんて話が出てくるのかしら。 |
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ふむふむ。 どうやら綺麗サッパリ消えてなくなっていたのは、あたしの記憶だったということか。 |
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「ふむふむ」じゃないよぉ。 |
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ホントそうよね。 さて。 さっきのナカちゃんの帰結だと、ナカちゃんがサルから買い受けた土地には抵当権が設定されているわけよね。 ということは、ナカちゃんは、この抵当権が実行されてしまうと、せっかくサルから買い受けた土地の所有権を失うことになっちゃうわけよね。 |
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そうなってしまうです・・・。 | ||
だから、実際の取引においては、通常そのような事態を避けるために、抵当不動産を売却するときには、その売却代金で抵当権の被担保債権を弁済して、抵当権を抹消した上で、第三取得者が、その所有権を取得することが多いわ。 そして、それを確実に行うために、第三取得者(=買主であるナカちゃん)の代金支払と、抵当債務の弁済、抵当権の登記の抹消を、三者(サル、光、ナカちゃん)が同時に一堂に会して、これらの手続きを行うような取引方法がとられるわけね。 |
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成程です! ソレなら、第三取得者の私も安心です! |
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でも、ときには抵当権がついたままで抵当不動産の売買が行われてしまうこともあるのよね。 ただ、その場合でも、買主は売買の代価から、抵当債務の額を控除した額を支払い、それを買主が抵当権者に支払って、抵当権を抹消することができれば、それでもいいってことになるわけよね。 |
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ですです。 ソレなら、私も、土地の売主である藤先輩も納得だと思うです! |
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でも、この方法は、抵当不動産の価額が、抵当債務を上回っている場合には可能だけれど、その逆の場合には無理よね。 つまり、ここで考えるべき問題は、抵当不動産の価額が、抵当債務を下回っている場合に、それでもその抵当不動産を譲渡しようとするときには、どのような方法がとり得るのか、っていうことになるわけね。 |
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・・・その場合は、事案のあたしは土地を売ることが出来ないってことで、いいんじゃないの? | ||
うーん。 それはどうかしら。 だって、抵当権は、原則として抵当目的物の利用・処分を、設定者(=問題の事案におけるサル)に許す権利よね。 それなのに、抵当不動産の処分の自由を、設定者から奪い去るというのは、抵当権の効力としては行き過ぎってことになってしまうんじゃない? |
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むむむ・・・そう来たか・・・。 でも言われてみれば、ソレもそうだおね。 |
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ちょっと考え込んでしまうわよね。 でも大丈夫。 このような場面・・・すなわち、抵当不動産が売却されたときに、当該不動産の抵当権の負担から第三取得者を解放する制度を、民法は設けているのよね。 代価弁済(民法378条)という制度。 そして、2003年の民法改正によって、テキ除を変更して設けられた抵当権消滅請求(民法379条)という制度が、そうね。 先ずは、代価弁済という制度から学ぶことにしましょうか。 六法で、民法378条を見てくれる? |
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民法第378条。 『民法第378条 (代価弁済) 抵当不動産について所有権又は地上権を買い受けた第三者が、抵当権者の請求に応じてその抵当権者にその代価を弁済したときは、抵当権は、その第三者のために消滅する。』 |
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代価弁済という制度については、条文をしっかり読んでもらう方がいいかもね。 今回の事案に則して説明するならば・・・。 サルから抵当権付の土地(=『抵当不動産』)を買い受けて、その土地の所有権を取得したナカちゃん(=『第三者』)は『抵当権者』である私(光ちゃん)からの請求があれば、取得した土地の代価(売買代金)を、売主のサルではなく、抵当権者である私に支払うことによって、取得した土地の抵当権を消滅させることができる、というのが代価弁済という制度なのね。 |
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成程です! コレはいい制度だと思うです! |
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代価弁済制度について、幾つか注意点を述べておくわね。 この代価弁済制度の要件だけど 『抵当権者からの請求』 が要件となるわ。 ということは、抵当権者である私からの請求もないのに、土地の第三取得者であるナカちゃんが、私に売買代金相当額を提供したとしても、ソレは(被担保債権額の限度での)第三者弁済(民法474条)ということになってしまうだけなのよね。 |
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・・・ちょっと第三者弁済が、よくワカラナイので条文を確認させてもらっていいですか? 民法第474条。 『民法第474条 (第三者の弁済) 1項 債務の弁済は、第三者もすることができる。ただし、その債務の性質がこれを許さないとき、又は当事者が反対の意思表示をしたときは、この限りでない。 2項 利害関係を有しない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。』 |
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えーっと、つまり第三者弁済って、チビッ子が、あたしの債務を代わりに払ってくれたってこと? | ||
まぁ、簡単に言うと、そういうことね。 | ||
でも、債務が支払われたのなら、抵当権も消滅するから、結果的には代価弁済と同じことになるんじゃないの? | ||
ナカちゃんの支払いによって、抵当権者である私の被担保債権の全額が満足させられるのであれば、債権の消滅によって、抵当権も消滅することになるわ。 その場合は、確かにサルのいうとおりよね。 でも、ナカちゃんの支払った売買代金相当額が、私の被担保債権の全額に満たない場合だって考えられるわけでしょ? その場合は、債権が残っている以上、抵当権も消滅しないってことになるわよね。 ところが代価弁済の制度は、そのような場合であっても、土地(=不動産)に設定された抵当権が消滅するのよね。 だからこそ、抵当権者の請求が要件になっているって理解して欲しいわ。 |
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成程、成程だよぉ。 ということは、代価弁済をした場合は、抵当権者の光おねーちゃんの被担保債権の全額が満足させられなかったとしても、抵当権は消滅しちゃうわけだよね。 でも、その場合、ナカちゃんの代価弁済によって被担保債権が満足させられなかったってことは、光おねーちゃんには、まだ債権が残っているわけだよね? その債権は、どうなるの? |
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抵当権が消滅したんだから、残った債権も綺麗サッパリ消えてなくなるんじゃね? | ||
なんで、そうなるのよ! 抵当権のついていない一般債権になるだけでしょ!! |
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あ、そっか。 そかそか。 そう言われてみれば、そうだお。 |
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・・・あんた、抵当権を全然理解していないんじゃないの? | ||
ちょっ!! ソレなら、こんな質問をしているチイだって、理解していないってことになるんじゃないの!? |
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チイは、確認の意味で聴いたんだよぉ。 残額の債権は、一般債権になるんだろうなぁ、って思ったけど、せっかくの勉強会なんだし、確認しておきたかったんだよぉ。 |
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やれやれ。 言い訳だけは一人前なんだから、イヤんなっちゃうよねぇ。 |
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・・・どの口が、そんなこと言うのかしら。 まぁ、この代価弁済制度の存在によって、抵当不動産が売却された場合に、抵当権者がとりうる手段としては 最初にも述べた①抵当権の追及力。 そして、以前の勉強会でも学んだ②売却代金への物上代位。 今、学んだところの③代価弁済。 という選択肢があるってことよね。 |
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ナニがなんでも貸したお金を取り返そうとする凄まじい執念めいたものを感じるお・・・。 | ||
まぁ、抵当権自体が債権回収強化の手段だからね。 それじゃ、次は抵当権消滅請求について学ぶわね。 六法で、民法379条、そして、その手続を規定した民法383条を見てくれる? |
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民法第379条。 『民法第379条 (抵当権消滅請求) 抵当不動産の第三取得者は、第383条の定めるところにより、抵当権消滅請求をすることができる。』 民法第383条。 『民法第383条 (抵当権消滅請求の手続) 抵当不動産の第三取得者は、抵当権消滅請求をするときは、登記をした各債権者に対し、次に掲げる書面を送付しなければならない。 1号 取得の原因及び年月日、譲渡人及び取得者の氏名及び住所並びに抵当不動産の性質、住所及び代価その他取得者の負担を記載した書面 2号 抵当不動産に関する登記事項証明書(現に効力を有する登記事項のすべてを証明したものに限る。) 3号 債権者が二箇月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないときは、抵当不動産の第三取得者が第1号に規定する代価又は特に指定した金額を債権の順位に従って弁済し又は供託すべき旨を記載した書面』 |
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代価弁済の制度は、民法に従前からある規定なんだけれど、この抵当権消滅請求は、さっきも言ったように、2003年の民法改正によってテキ除に変えて新たに設けられた制度なのね。 抵当権消滅請求とは、抵当不動産の第三取得者(事案における買主であるナカちゃん)が、取得した権利の代価(売買代金)又は特に指定した金額を抵当権者(=事案における光ちゃん)に提供して、抵当権の消滅を請求することができる制度をいうわ。 この抵当権消滅請求ができるのは、抵当不動産について、所有権を取得した第三者に限られるわ(民法378条)。 ちょっと、六法で民法380条を確認してくれる? |
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民法第380条。 『民法第380条 主たる債務者、保証人及びこれらの者の承継人は、抵当権消滅請求をすることができない。』 |
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自ら抵当債務を負担する債務者、保証人、そして、これらの者の承継人は、たとえ抵当不動産の第三取得者となった場合であっても、抵当債務の全額を提供することなく抵当権を消滅させるなんてムシのいいことは許すべきではないから、これらの者については、抵当権消滅請求権者から除外されているわけね。 この抵当権消滅請求権者については、他にも仮登記をした代物弁済予約者のように、将来第三取得者になるかも知れないが、現在のところ、まだ確定していない停止条件付第三取得者も抵当権消滅請求をすることはできないわ。 確認のために、条文も見ておくべきかしらね。 六法で民法381条を見てくれる? |
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民法第381条。 『民法第381条 抵当不動産の停止条件付第三取得者は、その停止条件の成否が未定である間は、抵当権消滅請求をすることができない。』 |
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『停止条件』・・・って、どういう意味だっけ? って、アソコの小人の国の住民が、聞きたそうな顔してるけど。 |
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ソレは誰のことを言っているんですか? | ||
チイは、停止条件はワカッているから違うよぉ。 | ||
私も、民法総則での勉強会で学んだのでワカッているから違うです。 | ||
え? 民法総則でやってんの? マヂ!? |
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そうよねぇ。 民法総則の勉強会(※ 条件及び期限①勉強会参照)で学習済みだものねぇ。 サルは、誰の心配をしているのかしらねぇ。 |
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・・・そっか。 じゃあ、アソコに見える小人は妖精なのかぁ。 |
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え? え? 藤さんには、妖精の姿が見えているのですか? す、スゴいです!! きっと、藤さんの心が清いから、妖精が見えてしまわれるんですね! |
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・・・ナ、ナニを言い出すですか。 言うに事欠いて、妖精なんて・・・。 またそんな藤先輩の出鱈目を真に受けてしまわれる黒田先輩が、悲しいです・・・。 |
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え? え? 妖精さんがいるの!? 何処、何処ぉ!? |
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・・・・・。 | ||
チ、チイちゃん? 居ないからね? 妖精さんは、あなたのオネーちゃんのデマカセだからね? |
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私は、心の綺麗な藤さんには妖精の姿が映ってみえるんだと思いますけどね。 あ、そう言えば、テキ除(改正前民法の制度)制度の判例ですけれど、譲渡担保権を取得した者はテキ除できない、とされていますよね(最判平成7年11月10日)。 また、一個の不動産の全体を目的とする抵当権が設定されている場合に、その抵当不動産について共有持分を取得したに過ぎない者もテキ除できない、とされていますよね(最判平9年6月5日)。 これらの考え方は、抵当権消滅請求の制度の下でも同様に解されるべき、とされていますから、これらの者についても抵当権消滅請求権者とはなり得ない、という理解でいいと思いますね。 |
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その理解で、いいと私も思うわね。 最後に、代価弁済と抵当権消滅請求という両者の制度は、いずれも抵当権付不動産を買い受けた第三取得者を、抵当権の負担から解放する制度という点で共通するわけだけど、両者の一番大きな違いを述べておくと、代価弁済は、抵当権者からの請求によってなし得るもの、抵当権消滅請求は、第三取得者からの請求によってなし得るもの、という違いがあるわね。 再度条文を、しっかり読んでおくといいと思うわ。 |
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だってさ、妖精さん。 | ||
ふ、藤さん!! 妖精が見えるだけでなくって、会話することも出来るんですか? |
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だおだお。 | ||
スゴォーーいっ! オネーちゃん、スゴいよ、スゴいよぉ!! いいなぁ、いいなぁ、オネーちゃんは、いいなぁ。 |
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・・・春先でもないのに、おかしな人達ばっかりです(グスン)。 |