法定地上権①

抵当権の勉強において、今回から学ぶことにする法定地上権は少し難しいところになるわ。

というわけで、いきなり法定地上権の内容に入るのではなく、今回の勉強会は、イントロってことにして、次回以降に法定地上権要件等の中身について学んでいくってことにしようと思うわ。
え? ナニナニ?
今日の勉強会では、特に内容には入らないの?
それやったら、やらんでもええってこと!?
・・・どうして、そういう理解になるのかしら、このサルだけは。
藤さんには、勉強会の内容なんて御付き合いでしか、ないですものね。
そんな勉強会に、私達の為を思われて、いつも御参加して下さることには、ホント感謝の気持ちしかないです。
・・・つ、つ、つかさちゃん。
どんだけサルのことを評価しちゃってんのよ・・・。

じゃあ、そんなスっゴク御出来になる木下さんに、是非、法定地上権は御教授願いたいって思っちゃうわ・・・。
うーん、全然構わないんだけど、あたしの理解が、はるか高みにあるからなぁ。
ですよね!!
そうでしょうとも、そうでしょうとも。
じゃあ、説明してみなさいよ!!
法定地上権ってナニよ!!
  条文読めっ!!
至言の御言葉ですっ!!
法律家を目指す私達にとって、最も大切なのは条文ですものね。
仰られるとおりです!
・・・死ねばいいのに。

まぁ、いいわ。
サルに付き合ってると、ちっとも勉強会が進みゃしないんだから、正直許し難い態度だけど、見逃してあげるわよ!
・・・。

(助かったお・・・法定地上権は、どうやら条文があるらしいお。)
・・・。

(・・・まさか、まさかの理解です・・・。
 高みどころか、ものすっごく低い理解・・・いや、もう理解なんて微塵もしてないです・・・。
 藤先輩は、一体いつになったら勉強する姿勢を見せてくれるんでしょうか。)
ソレじゃ、最初にも言ったけれど、今日は先ずは法定地上権の内容に入る前のイントロってことだから、そのつもりでね。

抵当権は、抵当権者(=債権者)に占有を移さない担保よね。

このことは、つまり抵当権設定者(=債務者又は第三者)は、抵当権を設定した目的物を、自由に利用することができることを意味するわ。

この自由な利用は、その目的物を賃貸することも、その目的物が更地である場合には、その上に建物を建てることや、あるいは、抵当権設定者が、その目的物を第三者に売却することだって自由だわ。
え?
抵当権を設定した目的物を、勝手に売り飛ばしちゃってもいいの?
アラアラ?
抵当権には、追及力があることを、まさか木下さんは御存知ないのかしら?

抵当権には、追及力があるのだから、抵当権目的物が売却されたとしても、抵当権者の抵当権はなんら影響を受けないわけじゃなくって?
追及力・・・なんか聞いたような気がするなぁ。
 抵当権①勉強会参照)
もう!
藤さんったら、冗談がお好きですよね!
でも、今の光ちゃんの説明は少し誤解を招く言い方かと思いますね。

確かに、抵当権設定者は、抵当権を設定した目的物を、自由に利用することができます

でも、抵当権者は、その抵当権を設定された目的物の交換価値を把握しているわけですから、設定者は、その目的物の価値を減ずるようなことには制限を受けますよね。
例えば、抵当権の目的物が家だったような場合に、その家を叩き壊してしまうなんてことは許されないわけですものね。
だお、だお。
いやぁ、にわかは怖いよね。
おい、そこの金満っ!!
適当な与太こいてんじゃねぇお!
・・・ここぞとばかりに責めているです。
く・・・。
た、たしかに、ちょっと言葉足らずな説明だったな・・・とは思うけれど・・・なんでサルに、そこまで言われないと、いけないのよ。

ま、まぁ、少し言葉足らずなとこはあったけれど、抵当権を設定しても、設定者は、その抵当権を設定した目的物を自由に利用することができる、ってことを伝えたかったのね。

ところが!

債務者が、その被担保債権の弁済をすることができず、抵当権が実行されるという段階になってしまうと、抵当目的物の利用関係は、それまでとは様相が一変することとなるわ。
例えば、抵当権が実行されて、その目的物が競売されて買受人が登場すれば、その買受人は自ら買い受けた目的物を利用したいって思うわけよね。
うんうん。
だって、利用意思があってこそ、競売で買い受けているんだもんね。
そう考えるのが普通だよね。
そうね。

ここで確認しておくべきこととしては、競売による買受によって、その抵当目的物の所有権も、買受人に移転しているわけよね。
新たな所有者となった買受人が、所有者として、その目的物を利用することは当然ってことよね。
  こくこく(相づち)。
そうなると、それまでの設定者による自由な利用は覆されることになるわけよね。
被担保債権を担保するために抵当権を設定しておいて、その債務を弁済できなかった債務者としては、それはやむを得ないことかも知れないけれど、その抵当目的物を借りていた賃借人や、売却されていた場合の第三取得者は大きな影響を受けることになるわ。

でも、そうなる可能性を内包している抵当目的物ということを考えると、結局、設定者による利用の自由は、大きな制約を課されたものってことになるわけよね。
ふむふむ・・・。
確かに、そんな面倒な物件が賃貸物件として出ていても、あんまり借りたくないって思うもんね。
そうよね。
他にも考えられるわ。

例えば、更地に抵当権を設定した場合に、抵当権設定者が自由な利用の一環として、その土地上に建物を建てることは、設定者にとっては極めて危険な行為といえるため、事実上、それは断念せざるを得ないってことになるとかね。

そして、日本では、土地と建物は別個の不動産として扱われているわよね。
このために、生ずる独特の問題もあるわ。
抵当権が実行された結果、土地と建物の所有者が異なることになることがあるわ。
その場合において、その建物のための土地利用権を、どうするのか、という問題ね。
  どうするんだお?
まぁ、どうするの? という具体的な内容については、今日の勉強会は最初にも言ったようにイントロだから、踏み込まないんだけれどね。

ただ、そのような場面での抵当権と利用権との衝突に対して、民法は、幾つかの制度を設けていたわ。

抵当権実行により土地と建物の所有者が分離するようになった場合の、法定地上権

抵当権設定後の賃借人といえども一定期間は、その利用を保障することを規定した短期賃貸借

そして、第三取得者が一定の手続を経て、抵当権を消滅させることのできるテキジョの制度などね。
・・・なんか法定地上権以外にも一杯出てきたお。
これらの制度は、抵当権設定者による目的物の利用の自由と、抵当権が実行されることによって抵当権目的物の利用関係が覆されることとの調和を図ろうとする制度だったわ。

ところが・・・
これらの諸制度は、この目的のために利用されるより、むしろ、悪用・濫用されることが多く、結果として、抵当権者を不当に圧迫するものだという非難を浴びるものになってしまったの。
・・・藤先輩みたいな人がいたんですね。
・・・。

(こ、このチビッ子・・・なんたる言い様だお。)
そうなのよね。

そのため、法定地上権を除いて、他の制度については2003年の民法改正によって、その内容を大きく変わることとなったわけ。
その結果、短期賃貸借の制度は廃止され、明渡し猶予の制度(民法395条)変わったし、テキジョも廃止され、抵当権消滅請求制度(民法379条)変わることとなったわ。

まぁ、これらの改正前の制度については、どのようなものだったのかということまで、この勉強会で学ぶことはしないけれど、改正前の制度が、どのようなものであったのか、また、何故改正されることとなったのか、といったことを知っておくと、新制度についての理解が深まることになるかもね。
(以前の制度なんてマンドくせぇお。)
それじゃ、今日は法定地上権の内容にこそ踏み込まないけれど、次回の勉強会から学ぶことになる法定地上権という制度が、何故必要なのか、という点法定地上権の制度趣旨)については話しておくことにするわね。

さっきも言ったけれど、日本の不動産法では、土地と建物とを法律上、別個の不動産として扱っているわ。
このことから、ある土地上に建物が建っている場合に、土地だけに、あるいは、建物だけに、抵当権を設定する、といったこともできるわけよね。
そりゃ、別個の不動産なんだから、当たり前だろう。
常識的に考えて。
じゃあ、ここで一つ質問になるんだけれど。

自分の所有する土地上に建物があったという仮定の上で・・・その土地も建物も、サルの所有物だったとしてよ?
サルは、自分の所有する建物を自分で使うという目的のために、自分のために借地権を設定することはできると思う
・・・えーっと、あたしがあたしの土地の上にある、あたしの建物を使うために、あたしのために借地権・・・?
アレ?
なんで、自分の土地を、あたしは借りる必要があるわけ
チイの物とかなら、あたしが借りるっていうのはワカルけど、あたしがあたしの物を借りるなんて、おかしくない?
そうよね。
自分の土地を、自分が借りる・・・コレを自己借地権というんだけれど、このような自己借地権の設定は認められていないわ。
 例外として借地借家法15条1項があります。同項には
 『借地権を設定する場合においては、他の者と共に有することとなるときに限り、借地権設定者が自らその借地権を有することを妨げない
 とし、他の者と共に借地権者となる場合に限り、自己借地権を認めています
 を挙げますと、サルの土地に、サルとナカちゃんの2人が借地権を取得する場合には、サルは自己借地権をもつことが出来る、ということになります。)

ちょっと六法で、民法179条を見てくれる?
民法第179条

『民法第179条 (混同)
1項 同一物について所有権及び他の物権が同一人に帰属したときは、当該他の物権は、消滅する。ただし、その物又は当該他の物権が第三者の権利の目的であるときは、この限りでない。

2項 所有権以外の物権及びこれを目的とする他の権利が同一人に帰属したときは、当該他の権利は消滅する。この場合においては、前項ただし書の規定を準用する。

3項 前二項の規定は、占有権については、準用しない。
この民法179条の規定からも、自己借地権を仮に設定したとしても、混同によって消滅するってことになるわ。
 この例外として、先に挙げた借地借家法15条2項があります。
 『借地権が借地権設定者に帰した場合であっても、他の者と共にその借地権を有するときは、その借地権は、消滅しない。』)

もっとも、端的には、サルが言ってくれたように、自分の土地を自分が借りるなんてことは意味がないわけなんだから認められないってことなんだけどね。

ということは、サルの所有する土地の上のサルの建物には、法律上の土地利用権はついていない、ということになるわけよね。
ここまでは、OK?
だおだお。
そりゃ、あたしの土地で、あたしの建物なんだから、その建物に、土地利用権なんかいらないかんね。
そうね。
でも、考えて欲しいんだけど・・・。

サルが、サルの建物だけに抵当権を設定したとして、その抵当権が実行され、競売の結果、その建物をナカちゃんが買い受けた、と考えてみてくれるかしら?
そうなると、土地と建物の所有者が異なることとなるわよね。
だおだお。
土地は、あたしのもんだけど、あたしの土地の上の建物はチビッ子のもんってことだよね。
そうなるわよね。
でも、この建物には、土地利用権は設定されていないわよね。
  あ!
ホントだお。
ということは、ナカちゃんが、このサルの土地の上にある建物を、今後も使用するとするならば、その建物のために、なんらかの土地利用権が設定されないといけないわけよね。
・・・でも、抵当権を設定した建物が競売されたってことは、あたしは債務を弁済できんかったから、そんなことになっとるわけだよね。
そのせいで、あたしの家は、チビッ子が競売で取得したわけだよね、そう考えると、なんか面白くないお。
あたしは、チビッ子が土地利用権の設定を求めてきても断ってやりたくなるお。
ぐぬぬぬぬ・・・。
やっぱり藤先輩は、そういう意地悪をしてくると思ったです。
そういう考えをする人もいるわけよね。
ただ、任意譲渡の場合(ナカちゃんが、建物の元所有者のサルから、建物を買い受けたというような場合)と異なり、競売後の当事者間には、任意の土地利用権の設定の合意を期待できない、といった場合も考えられることよね。

でも、そうなるとよ?
土地利用権のない建物である以上、土地所有者が立ち退きを求めてきたら、その建物は、結局収去(=建物を取り壊して、土地の返還をすることとなる)せざるを得ない、ということになってしまうわ。
ニッシッシッシ・・・。
あたしの建物が壊されてしまうのは残念だけど、チビッ子を、あたしの土地から追い出すことが出来るわけだお。
待って欲しいです!
そんな結果になるのなら、そもそも、私だって、そんな建物は買い受けないです!
そうよね。

そして、そうなると、そんな抵当権には、そもそも設定の意味さえないってことになっちゃうわけよね。
だって、競売で買い受けても、壊して立ち退きを求められるような建物だったら買受人も出て来ないわけだものね。
  ですです!
あ、そうなっちゃうわけか・・・。
でも、建物は土地とは別個の不動産っていうなら、片方だけに抵当権を設定したっていいわけでしょ?
そうよ。
だから、この抵当権と利用権との衝突が生ずる場面・・・。
もう少し噛み砕いて言うならば、土地と建物が同一人所有で、競売によって、土地と建物の所有が別人になった場面において、法律によって、その建物のために地上権を認めよう、という制度が、次回から学ぶことにする民法388条に規定される法定地上権という制度なのよ。
そかそか・・・。
自己借地権が可能だったら、初めっから土地利用権が設定された建物ってことで、なんも問題ないわけだけど、ソレは認められていないから、違う法律によって不都合を解決しとるわけだね。
そんな制度があるのなら、藤先輩みたいな人が土地の所有者だったとしても、安心して競売で建物を買い受けることができそうです。
ヤダなぁ。
さっきのは冗談じゃないの。
もう、なんでもかんでも真に受けられちゃ、冗談も言えないよねぇ。
・・・オネーちゃんなら、やりそうだから冗談に聞こえないんだよぉ。
  ですです。
私も、そう思っちゃうわね。

そうそう、この法定地上権の制度趣旨は、建物収去による社会経済上の不利益の回避に求められるわ。
抵当権が実行されて、抵当権と利用権との衝突のたびに、建物が取り壊されるというのでは、国民経済上も甚だしく不経済だものね。
類似の規定は、国税滞納による公売の場合国税徴収法127条)、強制競売の場合民事執行法81条)にもありますよね。
あ、あと法定借地権仮登記担保法10条)も挙げられますね。
流石、つかさちゃん。
相変わらず個別法に強いわね。

というわけで、今日は法定地上権とは、どのようなものなのか、何故このような制度が必要なのか、ということについて見たわけね。

次回以降は、この法定地上権の成立要件について学んでいくってことにするわね。
でも、なんか面白くない制度だなぁ。
あたしは、あたしの土地なんだから、あたしの建物を買い取ったチビッ子の家なんてブチ壊して追い出してやりたいって思うんだけどなぁ。
・・・あんた、逆の場合を考えてみなさいよ・・・。
  え?
どういうこと?
さっきの場面は、あんたが土地ではなくって、建物の方に抵当権を設定していたわけよね?

でも、逆の場合も考えられるんじゃない?

つまり、サルが土地だけに抵当権を設定し、その抵当権が実行され競売の結果、土地が別人の所有になってしまい、建物が、あんたの所有という場合よ。
この場合だって、あんたが住み続けようとしている建物には、土地利用権は設定されていないわけよ?
となると、新しい土地の所有者が、建物壊して、土地から立ち退いて下さいって言ってきたら、どうするのよ!
ほげげげげげげっ!!!
え、え、えらいことだお!!
そうよね。
だからこそ法定地上権という制度があるわけ!!
  ・・・むっちゃ大事な制度だお。
  ・・・なんて現金な反応ですか。
なんかチイは、オネーちゃんの場合だけは法定地上権の適用除外でいいって思っちゃうよぉ。
ですです。
私の家は取り壊そうとしたのに、自分の家はダメなんて、藤先輩はとんでもないです・・・。
  いやだなぁ。
だから冗談だって、冗談。
  ・・・。
(ジトォォォ)
  こ、コラっ!!
コッチ見んなっ!!

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