遂にきたわね。 担保物権の大物、抵当権ね。 抵当権については、他の担保物権のような短い勉強会では済まないから、そのつもりでね! |
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なんか仰々しい言い回ししとんね。 ナニナニ? あたしをビビらせようとでもしてんの? 言っとくけど、あたし、チイやナカたんみたいな、お子様じゃないから、ちょっとやそっとのことじゃビビらないよ? |
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あ、藤先輩っ! 後ろに柴田さんがみえたです! |
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ぎょえっ!!!! |
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・・・気のせいだったです(ドヤ | ||
・・・。 (こ、こ、このチビッ子がぁぁぁぁっ!!) |
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サル・・・あんたホント、柴田さんが苦手よねぇ。 背後に人が立ってるくらいで、どんだけ過剰な反応してんのよ、ゴルゴ13じゃないんだから。 |
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・・・。 (例えが渋過ぎんだろ。常識的に考えて。) |
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それじゃ、今日は少し軽目に・・・。 抵当権が、現実の取引社会において、どのような機能を有しているのか、ってことを話すわね。 抵当権は、その目的物の占有を移さない・・・すなわち、担保の目的物の利用を、設定者のもとに留めたままで、担保に供するところに、その特徴があるわ。 |
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質権との、大きな違いが、そこにあるんだよね! | ||
そうね。 そして、だからこそ抵当権は、現代の企業金融を支える担保制度として、その中核に位置づけられるものであるってことは話したわよね。 |
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うんうん! えーっとね、企業金融においては、生産活動を行う企業は、価値の極めて大きな資産をもっているんだけれど、それを生産手段として生産活動をしているんだよぉ。 だけど、生産活動には、多額の資金も必要だよね。 新しい設備投資をするにも、材料の調達をするのにも、労働者の人を雇って仕事してもらうにも、とにかく多額の資金がいるわけだもんね。 そういうときに、必要な資金調達手段として、金融機関からの借入れってことがあると思うんだけど、お金を貸す金融機関だって、融資金の回収は確実にしたいって思うわけだよね。 ソレが担保をとるってことだよね! その有力な方法が、物的担保なんだよぉ。 |
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・・・働いたこともない奴が、生産活動だの、設備投資だのと、どんだけ知ったかしてんだお。 | ||
光おねーちゃんが教えてくれたことを、まとめただけだよぉ。 | ||
そうよね。 チイちゃん、ちゃんと話したことを憶えてくれているのね、嬉しいわ。 |
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えへへへへ。 | ||
金融機関にとって融資金、すなわち、債権の回収を確実にするための手段の一つとして、物的担保という手段があるわけよね。 物的担保をとることで、債務者又は第三者の財産から、自己が優先的に融資の回収を図りうる地位を確保しておくことで、債権の回収が確実になるわけね。 そのために、価値の大きい企業の資産を物的担保にとるわけよね。 でも、企業側からすれば、その資産が生産手段であるという場合には、それを担保に供することで、占有が債権者に移ってしまっては、生産活動を継続することができなくなってしまう・・・。 そこで、占有を移さない担保である抵当権が有用なものとなるってことよね。 |
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こくこく(相づち)。 | ||
ただ、物的担保は、同じ債務者に対して、他の債権者に優先して債権の回収を認めるものよね。 ということは、このような物的担保は、物的担保をとっていない他の債権者にとっては大きな脅威といえるわ。 質権のように、占有を移転するものであれば、その物が担保の目的物となっていることも知り得るものだけれど、占有移転を必要としない抵当権においては、その優先権が認められるためには、公示が必要となるわ。 この公示をするためには、登記という制度を利用することとなるわ。 |
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お、登記。 久し振りに来たね。 |
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でも、登記による公示ということを考えると、担保の目的物は、登記による公示に適合的な物でないとダメって話になるわけよね。 はい、ここで六法で民法369条を確認してくれる? |
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民法第369条。 『(抵当権の内容) 第369条 1項 抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の目的に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。 2項 地上権及び永小作権も、抵当権の目的とすることができる。この場合においては、この章の規定を準用する。』 |
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369条1項の規定にあるように、抵当権の目的物は、原則として『不動産』に限られるわ。 これは、登記による公示という手段に適合的な物であることが求められることからすれば分かるわよね。 動産は、以前も話したように、その種類も数量も極めて多く、また、簡単に移動させられる物であることから、到底、登記によって捕捉することができないわ。勿論、動産登記ファイルという制度はあるけれど、これは特殊な状況においてなされるものだからね。 |
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・・・特殊な状況についても、いずれ勉強するわけだよね? | ||
しなくていいとは思ってないんでしょ? サルだって。 | ||
今、思ったんだけどさぁ・・・ 講義を遅延させて、そこまで講義が進まなかったら、定期試験の範囲から除外されるんじゃないかな? そだっ!! ここは、みんなで一致団結して先生の講義を遅延させて、試験で、そんな難しいことは問われないようにしてはどうかな!? |
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そんなこと考える暇あるなら、勉強に精を出しなさいよ! あら。予定より大分早く終わっちゃったわね。 うーん、ちょっと短過ぎる気がするから、抵当権の成立についても勉強しちゃいましょうか。 |
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賛成、賛せぇーいっ!! | ||
流石、チイちゃん! 二つ返事だものね。相変わらずの、やる気が頼もしいわ! |
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・・・。 (嘘までついて、あたしをビビらせるチビッ子1号。 過剰なテンションで勉強会を終わらせまいとするチビッ子2号。 こりゃ、バルサンでも焚いてコイツら一掃せんと、あたしの穏やかな日々はないんじゃまいか? ) |
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それじゃ、勉強会を延長するわね。 ここでのテーマは、抵当権は、どのようにして成立するのか? ってことを理解して欲しいわ。 抵当権は、質権と同様、約定担保物権だわ。 だから、当事者の設定契約によって設定されるものになるわ。 ここにいう抵当権設定の当事者とは、債権者と抵当権設定者になるわ。 抵当権の設定により、債権者は抵当権者となるわ。 抵当権設定者は、抵当権の目的となる不動産の所有者をいい、債務者である場合と、第三者である場合とがあるわ。 この第三者が、抵当権設定者になるときは、これを物上保証人というんだったわよね。 |
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物上保証人って、なんだったっけ? | ||
質権の勉強会でやったじゃないのよ・・・。 質権について351条に規定があって、この規定は、372条で抵当権にも準用されるのよね。 一応、条文も確認しておく? ナカちゃん、ちょっと民法351条、372条を読んであげてくれる? |
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民法第351条。 『(物上保証人の求償権) 第351条 他人の債務を担保するため質権を設定した者は、その債務を弁済し、又は質権の実行によって質物の所有権を失ったときは、保証債務に関する規定に従い、債務者に対して求償権を有する。』 民法第372条。 『(留置権等の規定の準用) 第372条 第296条(留置権の不可分性)、第304条(物上代位)及び第351条(物上保証人の求償権)の規定は、抵当権について準用する。』 |
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この準用条文によって、抵当権については、第三者が物上保証人として、抵当権設定者になることがわかるわよね。 ここから、抵当権設定者というのは、自己の所有する不動産に抵当権を設定する債務者または第三者ってことになるわね。 |
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物上保証人なんて、やったっけ・・・。 | ||
復習しなさいよね! 一回訊いただけで、全てが自分の知識になっているわけないじゃないのよ! そうそう。 抵当権は物権、それも不動産物権であるため、その対抗要件は登記になるわ(177条)。 登記があれば、その後に、その不動産の所有者が売買等を理由として変わっても、抵当権者は、その抵当権を、その新しい所有者に対して対抗することができるわ。 つまり、所有者が変わっても、抵当権者は抵当権を実行することができるわ。 これを、抵当権の追及力っていうのね。 この抵当権の追及力が働く場面で、抵当権付きの不動産を買い受けた者のことを、抵当不動産の第三取得者(又は単に、第三取得者)というわ。 |
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こくこく(相づち)。 | ||
それじゃ、ここで一つ質問ね。 質問! 物上保証人と、第三取得者は、共に他人の債務のために、自己の不動産に抵当権がついているという点で似通った地位にあるといえるわよね。 じゃあ、何処が違うと思う? |
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うーんと・・・。 | ||
ドコでしょう・・・。 | ||
チビッ子共はダメだねぇ。 こんな簡単な問題もワカんないわけ? |
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藤さんが、ヒントを差し上げたら、いかがでしょうか? | ||
いやぁ、こんな簡単な問題だと、ヒントが、まんま答えになっちゃわない? | ||
オネーちゃぁん、ヒントが欲しいよぉ。 | ||
あ、甘えるんじゃないっ! | ||
えーー・・・あっ!! そっか、物上保証人は、自ら抵当権を設定しているけど、第三取得者は、抵当権設定行為をしていないよね! ソコが違うんじゃないのかな? |
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そうね。 両者の違いは、自らが抵当権設定行為をしたか否かという点にあるわね。 |
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チイちゃん、ナイスファイトでしたよ! | ||
えへへへへ。 | ||
抵当権設定者には、債務者と、第三者との場合があるわけだけれど、これに対して、抵当権者は必ず債権者になるわ。 抵当権には、付従性があり、債権のないところには抵当権は存続し得ないからね。 つまり、抵当権者と債権者が分離することが可能であれば、その抵当権者は債権者ではない、ってことになるだろうけど、そういうことは許されないわけね。 このことから、債権が譲渡されれば、抵当権もこれに伴って、その債権を譲り受けた新しい債権者に移転することとなるわ(抵当権の随伴性)。抵当権だけが、債権を譲渡した元の債権者のところに残るってことはないわけね。 |
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付従性や、随伴性って言葉についての説明はないのかお? | ||
藤さんは、竹中さん達のことを御心配して下さってみえるんですよね。 でも、以前の勉強会で話していますから大丈夫だと思いますよ。 |
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さ、さよか。 (あたしの心配もしてくんないかな?) |
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・・・。 (散々、知ったかをしておいて、そんなムシのいいことは通らないです!) |
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もう少し話を進めるわね。 抵当権設定契約は、物権契約になるわ。 つまり、抵当権設定契約によって、抵当権という物権が発生することになるわけね。 売買契約は、債権契約だから、売買契約によって所有権が移転するのか? という問題を生じるけれど、抵当権設定契約においては、このような問題は生じないこととなるわ。 ただし、抵当権は物権ではあるけれど、登記をしないと第三者に対抗できないわ。 対抗できない、ということは、第三者に対しては、抵当権を主張できないってことよね。 抵当権は、そもそも他の債権者(第三者)に対して、債権の優先権を主張するところに意味があるわけなんだから、登記をしない抵当権には、ほとんど意味がないっていっていいわ。 |
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成程、成程。 ソコは大事だね。 抵当権設定契約によって抵当権自体は発生するわけだけど、登記がないと第三者に対抗できない(177条)から、登記しないと抵当権を設定した意味がないってことね。 |
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抵当権の登記についてですが、不動産質権、先取特権の登記とあわせて、担保権の登記として、不動産登記法83条以下に詳しい規定がありますね。 また、民事執行法では、担保権の実行にあたっては、抵当権の登記のある登記簿謄本を提出することによって実行するのが、最も簡便な方法とされますね(民事執行法181条参照)。 |
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つかさちゃん、民事執行法勉強しただけあって詳しいわね。 ちょっと私は、そのあたりの説明は出来ないわ。 抵当権の成立にあたり、抵当権の目的物についても話しておきたいところだけれど、今日の段階では、抵当権が設定される目的物は原則、不動産(369条1項)、この他に、地上権と永小作権(同条2項)ってくらいでいいわ。 (※ 特別法で、自動車(自動車抵当法)、航空機(航空機抵当法)などの動産については、抵当権の目的物となりうること、また、工場施設などを一括して抵当権の目的物とする、いわゆる財団抵当法の存在については、先の紹介の通りです。) |
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ただ、不動産といっても、土地であれば、その土地には石垣があったり、庭木が植えられていたり、庭石や、石灯籠なんかもあるかも知れないですよね。 土地と建物は別個の不動産ですから、土地上の抵当権は、その土地の上にある建物には及ばないわけですから、建物自体は、独立の不動産として、また別個に抵当権の目的物になるわけですよね。 ただ、その建物だって、屋根には瓦が葺かれているでしょうし、雨戸や網戸、室内には建具や、畳があったりするわけですよね。 これらの物に、抵当権の効力がどこまで及ぶのか、という問題がありますよね。 |
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あ、その話については、改めて別の勉強会で考える機会を設けたいって思うわ。 抵当権の効力の及ぶ目的物の範囲の問題ってことで、改めて勉強することにするつもりだから、今はそこまででいいわ。 そうそう、一つの抵当権のために、複数の不動産を担保にするという共同抵当という方法があるのね。 この共同抵当という方法は、1個の不動産だけでは、被担保債権額をカバーできない場合や、不動産の値下がりに備えて、抵当権者が余分に担保をとっておくなどの理由から利用されているわけだけど、この共同抵当が設定された場面において生じる問題については、これもまた改めて後の勉強会で話すことにするわね。 |
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むむむむ・・・。 なにやら、幾つか後回しになっとるけど、色々な論点がありそうだね、抵当権は・・・。 |
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だから最初に言ったじゃないのよ。 抵当権は、大物だって・・・・って、アラ? 柴田さん? |
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おいおい。 お前のオツムは空っぽかっ!? さっき、やったばっかの手口に、このあたしが引っ掛かるとでも思ってんのかお? |
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『お嬢様への暴言は、許しませんよ?』 | ||
・・・な、な、なんで・・・!? なんで、ここに柴田さんが来るわけ・・・? ・・ふ、ふ、振り向けない・・・。 |
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え? え? 柴田おねーちゃん!? ドコドコ!? |
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あはははははは。 もうサルは、ホント、柴田さんが苦手なんだからっ!! じゃぁーん。 柴田さんの声の正体は、つかさちゃんに借りたボイスレコーダーでしたぁ。 |
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・・・・・。 | ||
明智先輩・・・藤先輩、気絶してるです。 | ||
藤さぁーーーんっ!!! | ||
あら・・・。 これは、ちょっとネタバレすると、うるさそうだから、今のうちに解散しちゃいましょうか。 |
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藤さん、藤さん、藤さぁーーーんっ!! | ||
・・・。 (黒田先輩に口止めしとかないと、黒田先輩から情報漏洩してしまいそうです・・・。 うーん、でも藤先輩にだけ内緒になるってことを考えると、このことを明智先輩に伝えるべきか、黙っておくべきか、悩ましい問題です・・・。) |
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柴田おねーちゃぁーんっ! ドコドコぉ!? |