動産の先取特権②

はぁーい。
今日は前回の予告どおり、動産の先取特権内容の続きを見ていくことにするわね。

まずは条文の確認からよね。
六法で民法311条を見てくれるかしら。
民法第311条

『(動産の先取特権) 第311条
 次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の特定の動産について先取特権を有する。
1号 不動産の賃貸借
2号 旅館の宿泊
3号 旅客又は荷物の運輸
4号 動産の保存
5号 動産の売買
6号 種苗又は肥料(蚕種又は蚕の飼養に供した桑葉を含む。以下同じ。)の供給
7号 農業の労務
8号 工業の労務
動産の先取特権は、民法311条に規定される種の債権につき、これらの債権と特別の関係を有する債務者の特定動産の上に成立するものだったわよね。

前回の勉強会では、当事者の意思の推測に基づくものとされる1号から3号の内容(不動産の賃貸借、旅館の宿泊、運輸)の種について見たから、今日は、その続きになるわ。
  こくこく(相槌)
それじゃ、まずは動産保存の先取特権311条4号)からね。

六法で、民法320条を見てくれる?
民法第320条

『(動産保存の先取特権) 第320条
 動産の保存の先取特権は、動産の保存のために要した費用又は動産に関する権利の保存、承認若しくは実行のために要した費用に関し、その動産について存在する。
ここにいう『動産の保存のために要した費用』というのは、例えば、自動車(動産)の修理費用等が、あたるわ。

この自動車を自動車の修理費を支払った人が占有しているときには留置権が成立するから問題はないわけだけど、修理したのに、代金の支払いを受けないままに目的物である自動車を所有者に返還してしまったときには、この先取特権を主張する実益があるといえるわけね。

だから、このような先取特権が認められる趣旨は、留置権同様公平の原則に基づくものとされているわ。
  留置権・・・ソレやったっけ?
・・・ふ、ふ、藤さん。
流石に、それは皆さんにも失礼だと思いますよ。
・・・あんた、一体なんなら憶えているのよ・・・。
ナカちゃんみたいに、ちゃんとノートとるようにしなさいよ!
えー、それじゃ、今日の本丸になるかしらね。

311条5号に規定される動産の売買の先取特権についてね。
ナカちゃん、民法321条を見てくれる? 
民法第321条

『(動産売買の先取特権) 第321条
 動産の売買の先取特権は、動産の代価及びその利息に関し、その動産について存在する』
この動産売買の先取特権は、動産先取特権の中では、実務的にも、最も重要な意義を有するものとされているわ。
  ソレは、どうしてですか?
そうね。
その理由は、この動産売買の先取特権の機能を知ることで納得できると思うわ。

それじゃ、ちょっと動産売買の先取特権主張される場面について説明するわね。

ナカちゃんが時計屋さん。サルが、その時計を買いに来たお客さんってことにしましょうか。
ナカちゃんは、サルに時計を売ったのね(売買契約)。

この場合、ナカちゃんには時計の引渡し義務が、サルには代金支払義務が、それぞれに生じるわ。このような双方に義務の生じる契約を、双務契約というのね。 
これ、時計を買いに来たのを、あたしに設定したってことは、この後、あたしは、時計の代金を支払わないっぽいね・・・。
ご明察!

この事案のサルは、時計の代金を支払おうとしなかったわ。
この場合、時計を売ったナカちゃんとしては、売買契約の目的物である時計が、相手にまだ引き渡されていなければ
「代金を支払ってもらうまで時計は引き渡さないです!」
という留置権または、まだ勉強していないけれど、同時履行の抗弁権を主張すればいいわけよね。
ですです!
相手は藤先輩なんですから、私は当然、その主張をするです!
ところが、この事案のナカちゃんは、サルの
「後から、お金は払うお!」
という言葉を真に受けて、時計の代金を受け取らないまま、時計を引き渡してしまったのよね。 
あうあうあうあう。
事案の私は、とんだウッカリ屋さんです!
あらら・・・チビッ子かわいそす。
こうなってしまうと、最早、留置権や同時履行の抗弁権の主張はできないこととなってしまうわ。

そして、「後から支払う」って約束したのに、相手は、あのサル。
当然、いくら待っても一向に払ってくれやしない・・・。 
おお・・・ってことは、あたしがマヂ飯うま! ってことになるわけ?
ゴメン、ちょっとナニ言っているのか、よくワカラナイんだけど、サルが喜ぶような話にはならないわよ?

このような場合に、機能するのが、この動産の売買の先取特権311条5号、321条)なのよ。

一向に支払ってくれないサルに対して、売主であるナカちゃんは、自己の有する売買代金債権を担保するために、売買契約の目的物である、この時計を競売して、その売却代金から優先弁済を受けることができるのよ。

このような先取特権が認められる趣旨は、公平の原則に基づくものとされるわ。
そして、その目的とするところは、目的物引渡し後の売主保護にあるわけね。 
そうですね。
確かに、動産の売買の先取特権は、所有権が移転した後であっても、なお債務者の動産に対して効力を及ぼすものであることから、売主にとって重要な機能を果たすものですよね。

もっとも、その動産が、買主から第三者に引き渡されてしまうと、最早、先取特権は及ばないんですけれどね。

ちょっと、六法で民法333条を見て頂けますか? 
民法第333条

『先取特権と第三取得者) 第333条
 先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない。』
ですよね。

ですから、さっきの事案ですと、例えば、買主の藤さんが、その代金未払いの時計を、私に転売などによって引き渡してしまった場合には、動産の売買の先取特権は行使し得ないということになってしまうわけです。

ただ、その場合には藤さんの転売によって得た売却代金があるわけですから、そこに物上代位・・・
あ、待って、つかさちゃん!
先取特権の効力の一つである物上代位については、また後の勉強会で、しっかりやろうって思っているの。
だから、その説明の続きは今は、ちょっと待ってもらっていいかしら。 
あ、すみません。
ちょっと、でしゃばってしまいました。
ううん。ここで話しておく、というのもありかなっとも思うけれど・・・。
うーん、やっぱり改めて・・・に、しようかしらね。
ゴメンね、つかさちゃん。 
いいえ、こちらこそ、すみません。

あ、それじゃ、残りの動産先取特権については、特に論点らしい論点もないので、私から説明させて頂いてもいいでしょうか? 
あ、いいわよ。
それじゃ、タッチ、タッチ!
 
えーっと、動産先取特権も後は3種ですね。

正直、この3種は内容的には似たようなものなので、条文の確認と整理だけでいいかと思います。

まずは、種苗または肥料の供給の先取特権311条6号)ですね。
六法で322条を見てもらっていいでしょうか。 
民法第322条

『(種苗又は肥料の供給の先取特権) 第322条
 種苗又は肥料の供給の先取特権は、種苗又は肥料の代価及びその利息に関し、その種苗又は肥料を用いた後一年以内にこれを用いた土地から生じた果実(蚕種又は蚕の飼養に供した桑葉の使用によって生じた物を含む。)について存在する。』
この規定は、公平の原則、そして、農業経営の保護から定められたものですね。

ただ、農業経営の安定のためには、この民法の規定だけでは不十分ということもあって、農業動産信用法という特別法によって、農業金融については、別途、先取特権制度が設けられているみたいですね(農業動産信用法4条以下。)。

それでは、続いて農業労務の先取特権311条7号)ですね。
こちらは、六法で民法323条を見てください。
民法第323条

『(農業労務の先取特権) 第323条
 農業の労務の先取特権は、その労務に従事する者の最後の一年間の賃金に関し、その労務によって生じた果実について存在する。』
 
ここにいう『労務に従事する者』とは、民法306条にいう『雇用関係』にある者よりも広い概念である、とされていますが、雇用されて労務を提供しているような場合には、賃金債権一般の先取特権も併せ持つという理解でいいかと思います。

この規定は、賃金保護を目的とした社会的政策考慮からのものですね。

この趣旨と同じくするものが、次の工業労務の先取特権311条8号)です。
六法で、民法324条を読んで頂いていいでしょうか。
民法第324条

『(工業労務の先取特権) 第324条
 工業の労務の先取特権は、その労務に従事する者の最後の三箇月間の賃金に関し、その労務によって生じた製作物について存在する。』
323条農業労務を、そして、この324条工業労務についての先取特権を定めていますね。

えーっと、動産先取特権の内容としては、以上になるでしょうか。 
ん?
ちょっと待ってよ。
なんで、農業労務の場合は『最後の1年間の賃金』って、なっているのに、工業労務の場合は『最後の3ヶ月間の賃金』って、なってんの?
工業労務の場合は、厳しくない? 
え?
・・・そ、そ、それは・・・どうして・・・でしょう。 
農業労務と工業労務とで、賃金の範囲に差がある理由については、支払期の慣行の違い、と説明されるみたいよ。

正直、私も、いずれの慣行も知らないから、あ、そうなんだってくらいでしか抑えてはいないんだけどね。
ふぅ~ん。
・・・って言うか、光ちゃんは農業労務とか工業労務の慣行以前に、アルバイトの経験さえなさそうだよね。
あたしやチイは、小さい頃から実家が米作りしてるから、手伝いや、父ちゃん達の仕事を見て、農業労務の厳しさは垣間見てるし、実際、あたしも大学生の頃はアルバイト三昧だったしなぁ。 
オネーちゃん、すっごい働き者なんだよ!
・・・サボると父ちゃんが頭突きしてくるからねぇ。
いやぁ・・・アレは痛かったなぁ。
・・・藤先輩の「木下頭突き」は、お父さん譲りだったですか。
アレは木下家に代々伝わる一子相伝の必殺技だからね。
・・・。
(チイちゃんが使える時点で、一子相伝とは言わないです。
 ・・・あ。でも北斗神拳も、一子相伝のはずなのに、やたらと使える人が多かったです・・・。) 

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