それじゃ、今日は留置権の成立要件について勉強するわね。 | ||
・・・。 (自分だけ課題終わってスッキリした顔しよってからに。 あたしは、まだ終わってないんだお・・・どうしよ。) |
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成立要件は、条文が根拠になるわけよね。 というわけで、まずは留置権について規定した民法295条を見てみましょうか。 |
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民法第295条。 『(留置権の内容) 第295条 1項 他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。 2項 前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない。』 |
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留置権の成立要件は、次の4つになるわ。 @留置権者が『他人の物を占有』していること(295条1項本文) A『その物に関して生じた債権を有する』こと(295条1項本文) (=物と債権の牽連性の問題) B『債権が弁済期』にあること(295条1項但書き) C『占有が不法行為によって始まった』ものではないこと(295条2項) の4要件になるわ。 この4つの成立要件のうちAとCについて取り上げることにするわね。 |
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んみゅ? なんで@とBはスルーしてまうの? |
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特に問題にならないからね。 でも、AとCは、そうはいかないわ。 少し論点も多いところだし、ここは丁寧に見ておく必要があるからね。 とりあえず、今日の勉強会では、留置権の成立要件のA『その物に関して生じた債権を有する』こと、という「物と債権の牽連性」の問題について説明することにするわね。 |
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ソレって、そんなに難しい話かなぁ・・・。 「修理してもらった時計と修理代金の関係」ってことでしょ? |
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どうかしら。 そんなに簡単な話かしらね。 えーっと、留置権の成立要件には、Aその債権が『その物に関して生じた債権』であることが必要(295条1項)よね。 このことを「物と債権の牽連関係」というわ。 この「物と債権の牽連関係」が認められるのは、 @債権が物自体から生じたものである場合 または A債権が物の返還請求権と同一の法律関係または同一の生活関係(事実関係)から生じたものである場合 をいうわ。 |
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あ、あの・・・@、Aの場合を、それぞれ具体的な例を出して教えて欲しいです。 | ||
そうね。 例えば、物に加えた必要費や改良費など。 その物に費やした費用の償還請求が@の場合にあたるわね。 あ、『ドラえもん』で、よくのび太達が、野球で遊んでいて、神成(かみなり)さん家の窓ガラスを割っていたじゃない。 ボールがガラスを割って飛び込んで来た場合の、ガラスの割れたことによる損害賠償債権、これなども@『債権が物自体から生じた場合』にあたるわね。 |
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あれ? 光ちゃんが、留置権の説明の際に話してくれた、あたしとナカたんの時計の修理の場合は、@の場合じゃないの? |
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あの時計屋の事案の場合はAの債権が物の返還請求権と同一の法律関係から生じた場合にあたるわ。 物の修繕をした場合の修繕代金債権や、物の売買における代金債権、これらの債権は、物と同一の法律関係から生じているわけでしょ? この場合には、同時履行の抗弁権と留置権が、同様の機能を営むことになるわけね。 |
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成程・・・言われてみれば、物自体から債権が生じているわけではないね。物の返還請求権と同一の法律関係から生じているもんね。ふむふむ。 じゃあじゃあ、Aの債権が物の返還請求権と同一の生活関係(事実関係)から生じたものである場合っていうのは、どういう場合をいうの? |
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例えば、傘置き場から、サルが私の傘を間違えて持って帰ってしまった場合、さらに、私もサルの傘を間違えて持って帰ってしまった場合が、そうよね。 この場合、私とサルは相互に、相手の持っている自分の傘に対して返還請求権を持つわけよね。 この場合、私は、サルが私の傘を返すまで、サルの傘を返さないって主張することができるわ。 コレが、Aの債権が物の返還請求権と同一の生活関係(事実関係)から生じた場合よね。 |
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ふむふむ。 成程ねぇ。色々な場面で留置権の主張ができるってことだね! |
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うーん、そう簡単には言えないかもよ? この留置権の成立要件である「物と債権の牽連関係」については、認められる場合と、認められない場合とがあるのよね。 今から、少し事例を幾つか出すから、留置権が成立するか否か、この「物と債権の牽連関係」の視点から考えてみてくれる? |
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やなこった。 | ||
え? 今なんて? | ||
・・・・。 | ||
もう一度言ってみなさいよ。 そんな態度だと、もう勉強会やらないわよ? |
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・・・。 (お、お、思わず本音が口をついてまったお。 ヤバス、ヤバス。 ) |
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・・・ぱ・・ぱ・・・「パンナコッタ」って、藤さんはおっしゃったんですよね。 そ、そうですよね? | ||
え? ナニ、それ? 頭はいいけど恥知らずな奴? (JOJO第6部登場人物 パンナコッタ・フーゴ) |
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なんで、この流れで、いきなり「パンナコッタ」なんて言うのって、つかさちゃんは疑問に思わないの? | ||
え? ・・・あ、あのぉ、急に食べたくなられたとかでは・・・。 |
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そ、そ、そうそうそうそう。 そうなんだよね。 ナンテコッタが、あたしは無性に食べたくなったんだお! |
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・・・言えてないし。 まぁ、いいわ。 サルと問答してても仕方ないし、じゃあ、質問を出すから、次の場合に留置権が成立するか考えてみてくれる? 下の図を見てくれるかしら。 |
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図について説明するわね。 この図の事案では、サルが、最初にナカちゃんに家(不動産)を売ったわけ。 そして、家を引き渡したんだけれど、登記は移転していなかったわ。 その後、サルは、その家を今度は、つかさちゃんに売ってしまい、さらには、登記も、つかさちゃんに移転してしまったのね。 ここまでは、いわゆる二重譲渡の話よね。 |
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まぁた、あたしは二重譲渡をしているわけね、はいはい。 | ||
この場合、つかさちゃんから、家を渡すように言われたら、ナカちゃんは 「この家は、私が買ったのだから、私の物です!」 って、つかさちゃんに主張できる? |
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で、できないです。 私は、藤先輩から最初に家を買っていますが、登記を備えていないです。 私と、黒田先輩とは、藤先輩を起点とする二重譲渡による対抗関係にあるので、所有権の帰属は、登記の先後によって決することになります(177条)。 黒田先輩は、登記を具備していて、他方、私には第三者対抗要件の登記がない以上、買った家について所有権を主張することはできないです。 |
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そうね。 そうなると、つかさちゃんからナカちゃんへの家(不動産)の明渡し請求については、ナカちゃんは従わなければならないってことになるわけよね。 ここで今日の勉強会の質問になるわ。 質問! この場合、ナカちゃんはサルに対して、2人の間の売買においては、債務不履行があったわけなんだから、これを理由とする損害賠償請求ができるわけよね(民法415条)。 では、この損害賠償請求権を被担保債権として、ナカちゃんは、つかさちゃんに対して、留置権を主張することができるでしょうか? |
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むむむ・・・面白い問題だねぇ。 コレが「物と債権の牽連性の問題」ってことかぁ。 どうなんだろ・・・チビッ子は、あたしに損害賠償してもらうまで、家を渡しませんって言いたいわけなんでしょ? でも、ソレを、あたしじゃなくって、クロちゃん相手に言ってるんだよね。 うーん、でも、留置権が成立するのなら、留置権は物権なんだから、誰に対しても言えるってことなんだから、それはいいわけか・・・。 どうなんだろうなぁ。あたしとしては、もう売った家だし、あたしの物じゃないんだから、別にドッチが持っていようが、どうでもいい気がするんだけどなぁ。 でも気にはなるね。 コレ、答えってあるの? |
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実は、この質問の事案は判例の事案をベースにしているのよね。 最判昭和43年11月21日が、そうなんだけどね。 この判例では、次のような判断が示されているわ。 『ナカちゃん主張の債権はいずれもその物自体を目的とする債権がその態様を変じたものであり、このような債権はその物に関し生じた債権とはいえない』 と述べているわ。 つまり、契約不履行の場合における損害賠償請求権と、その留置しようとしている物の関係には、牽連性は認められないと言っているわけね。 「物と債権との牽連性」は、留置権の成立要件である以上、これが認められないということは、当然、留置権の成立は認められないということになるから、ナカちゃんが留置権を主張して、つかさちゃんに家の明渡しを拒むことは認められないってことになるわね。 |
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あらら・・・チビッ子かわいそす。 | ||
ぐぬぬぬぬぬぬ。 なんだか無性に悔しいです! |
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難しい質問だったね・・・。 もう1つくらいやってみたいんだけど、いいかな? |
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いいわよ。 私も質問は2つ用意していたからね。 それじゃ今度は、下の図を見てくれるかしら? |
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図を説明するわね。 チイちゃんが、サルから土地を買ったの。 ところが、その土地はサルの所有物ではなくって、ホントは、つかさちゃんの土地だったのね。 この売買を知った、つかさちゃんは、土地を買ったチイちゃんに対して「ソレは私の土地だから返して下さい」って言ってきたと考えてみてくれるかしら。 まだ勉強していないんだけれど、民法は他人の物であっても売買の目的物とできることを規定しているわ、いわゆる他人物売買ね。 でも、今回の事案では、真の所有者であるつかさちゃんが、売買の目的物の返還を求めてきているわけなんだから、他人物の売主サルの義務は履行不能となっているわけよね。 この場合、サルから土地を買ったチイちゃんは、他人物の売主であるサルに対して、履行不能による損害賠償請求権が認められるわ(民法561条)。 問題は、この後の話よね。 つまり、チイちゃんはサルに対して有する損害賠償請求権によって留置権を主張することができるでしょうか? って質問ね。 |
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・・・うーん、さっきと同じような話に見えるなぁ。 コレ、チイが土地を返さないことで困るのは、つかさちゃんであって、そもそも、この土地はつかさちゃんの物なんだから、あたしは関係なくない? |
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なかなかサルの指摘はいいとこ突いていると思うわよ。 実は、この事案も、ある判例をベースにしているのよね。 最判昭和51年6月17日が、そうなんだけど。 最高裁は、次のような判断を下しているわ。 『他人の物の売買における買主は、その所有権を移転すべき売主の債務の履行不能による損害賠償請求権をもって、所有者の目的物返還請求に対し、留置権を主張することは許されないものと解するのが相当である。 蓋し、他人の物の売主は、その所有権移転債務が履行不能となっても、目的物の返還を買主に請求しうる関係になく、したがって、買主が目的物の返還を拒絶することによって損害賠償債務の履行を間接に強制するという関係は生じないため、右損害賠償債権について目的物の留置権を成立させるために必要な物と債権の牽連関係が当事者間に存在するとはいえないからである。』 とね。 |
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あらら・・・チビッ子2号もかわいそす。 | ||
意味はよくワカラナイけれど、オネーちゃんが感じ悪いのは間違いないよね! | ||
ですです! | ||
物と債権の牽連性ですが、実質的な判断基準として判例は、 『目的物の返還を拒絶することによって損害賠償債権の履行を間接に強制するという関係』 にあるか否かで判断していると言えますよね。 少しわかりにくいかも知れないので、言葉を補いますと、留置権は担保物権ですよね。 ですから少なくとも、その成立時点において、留置権を行使(すなわち引渡しを拒絶)することにより、被担保債権の弁済をうながすという担保的関係の認められる場合に、牽連関係が肯定され、それが認められない場合には、牽連関係が否定される、ということですね。 |
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そういうことね。 さっき、サルが言っていた「土地を返さないことで困るのは、つかさちゃん」っていう指摘は、そういう意味では鋭いわ。 留置権の成立時点において、被担保債権の債務者と、引渡し請求権者が、同じ人でなければ、「物と債権の牽連性」は認められない・・・つまり留置権は成立しないってことを、ここでは抑えて欲しかったわけだからね。 判例のいう 『目的物の返還を拒絶することによって損害賠償債権の履行を間接に強制するという関係』 は、留置権の成立時点において、被担保債権の債務者と、引渡し請求権者が、同じ人でなければ、そもそも生じない関係になるわけだからね。 |
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よくワカッタです・・・。 でも、なんだか藤先輩に、してやられた気分です。 |
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あらら・・・チビッ子かわいそす。 | ||
かわいそすじゃないです! 大体、私はチビッ子じゃないです!! |
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判例検討をしたかったんだけれど、ちょっと今日は長くなっちゃったから、ソレは次回に廻しましょうか。 サルっ! あんた、その言い方は、みんなが嫌がっているんだから、やめなさいよね! |
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・・・。 (嫌がっているからこそ、余計にやりたくなる。 あたしって、ホントいい性格してんだおなぁ。) |
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・・・。 (ツチノコパンダみたいな顔してイヤなことばっかり言ってくる藤先輩が許せないですっ!) |