相隣関係

それじゃ、今日の勉強会では、土地の所有権に対する制限として、民法が定める、いわゆる相隣関係について学ぶことにするわね。
ソウリンカンケイ?
ふむ、九州の雄として名高い、あの大友宗麟(オオトモ ソウリン)の一族について学ぼうってことか。
うんうん。
歴史音痴を自認する、あたしだけど戦国大名は好きなんだお!
賛成、賛成っ!!
ナニそれ? ボケてるの?
言っとくけど、突っ込まないからね!

土地は、人為的に区画を区切って、その区画ごとに所有権が認められるものなのね。
でも、そうすると隣地との関係で、その利用について一定の制限を設けることが必要となるわ。この関係を、相隣関係っていうの。

民法は、この相隣関係について、次のような場合に分けて規定しているわ。

@隣地利用に関する相隣関係民法209条〜213条
A水および流水に関する相隣関係民法214条〜222条
B土地の境界に関する相隣関係民法223条〜237条

つの場合ね。
ちょっと、ここは条文数も多く、規定も詳細にわたるんだけれど、内容自体は概ね条文を一読すれば理解できるところだから、細かく見ることはしないわ。
各自、六法で条文を読んで整理しておくってことにさせて貰うわね。
あれ?
ってことはナニ、ナニ?
コレでおしまい?
そんなわけないでしょうに。
この相隣関係において、実際にも問題になることの多い隣地通行権民法210条〜213条)について今日の勉強会では学ぶことにしたいと思っているわ。

それじゃ、早速六法で民法210条を見てくれる? 
民法第210条

『(公道に至るための他の土地の通行権) 第210条

1項 他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。

2項 池沼、河川、水路若しくは海を通らなければ公道に至ることができないとき、又は崖があって土地と公道とに著しい高低差があるときも、前項と同様とする。
210条1項にいう『他の土地に囲まれて公道に通じない土地』のことを袋地というのね。
そして、210条2項にいう『池沼、河川、水路若しくは海を通らなければ公道に至ることができない又は崖があって土地と公道とに著しい高低差がある』土地のことを準袋地というの。

そして、これらの土地の所有者は公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる』のね(210条)。
この公道に通じない袋地などの所有者に認められた他の土地の通行権のことを囲繞地通行権イニョウチ通行権っていうの。
  なんて、なんて?
少し図をつかって説明した方がいいかしら?
下の図を見てくれるかしら。
サルの持っている土地赤地の土地)が、袋地ということになるわ。
サルの土地は他の土地に囲まれて公道に通じない土地』になっているでしょ?

そして、サルの土地(袋地から見たA、B、Cの土地が囲繞地ということになるわけ。
サルは、公道に出るためには他の所有者の土地を通らないことには不可能よね?

この場合のサルが『公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる権利を、囲繞地通行権(イニョウチ通行権)っていうわけ。
ソレって、あたしが公道に出るために、他人の土地を好き勝手に通っていいってこと?
それとも、決まった道を、ここをあたしは通路に使いますね!って契約とか予め結んでおく必要があるわけ? 
袋地の所有者であるサルは、隣地所有者との間の契約によって、通行地役権の設定を受けて、その契約によって設定された土地を、公道に至る土地(通路)として利用することもできるわ。
でも、それは地役権であって、囲繞地通行権とは違うの。

ちょっと六法で民法280条を確認してくれるかしら?
  よし。
ナカたん、早くひきなさい。
民法第280条

『(地役権の内容) 第280条
 地役権者は、設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利を有する。ただし、第三章第一節(所有権の限界)の規定(公の秩序に関するものに限る。)に違反しないものでなければならない。
あんた、たまには自分でも六法ひきなさいよ!

えーっと、今、ナカちゃんが読んでくれたのが地役権なんだけど。
さっきも言ったように、地役権囲繞地通行権とは違うわ。

地益権は『自己の土地の便益』(この便益の内容は、通行に限られない)のために『他人の土地』(承役地という)を利用する権利のことをいうの。
この権利は、それぞれの土地の所有者間の契約によって設定される独立の物権であって、今日の勉強会で学ぶ囲繞地通行権とは異なる権利なのね。

ただ、間違えやすいとは思うから、ここで説明したわけなんだけど。
ほうほう。
ってことは、囲繞地通行権ってのは『公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる権利なんだから、他人の土地を好きに通っていいってことだね?
ナニ言っているの、オネーちゃんっ!

民法第211条
『1項 前条の場合には、通行の場所及び方法は、同条の規定による通行権を有する者のために必要であり、かつ、他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
 2項 前条の規定による通行権を有する者は、必要があるときは、通路を開設することができる。


って規定があるんだよ!
確かに囲繞地通行権には、地益権みたいな両者間の設定契約は必要とはされないよ。
でも、囲繞地通行権は、袋地の所有者が、その所有権を拡大することが認められ、他方、その通行の対象となる囲繞地所有者が、その制限に服するものである以上、その土地の利用の制限は、あくまでも通行に必要な範囲に限られ、かつ、その利用される隣地の所有者にとって損害が最も少ないものを選ばなければならない』とされているんだよ!

ナニ、よそ様の土地を好き勝手に通ろうとしているの!
ダメだよっ!
チイちゃん、ナイスツッコミっ!
サルは、ちょっと甘い顔見せると際限なくつけ込んで来るとこあるから、しっかり伝えておかないとね!

さらに、この条文もあるのよね。
六法で、民法212条もみてくれる?
民法第212条

『(公道に至るための他の土地の通行権) 第212条
 第210条の規定による通行権を有する者は、その通行する他の土地の損害に対して償金を支払わなければならない。ただし、通路の開設のために生じた損害に対するものを除き、一年ごとにその償金を支払うことができる。
囲繞地通行権によって他人の土地を利用する者は、償金を支払う必要があるってことよね(212条本文)。
また、通路を開設211条2項)して、他人の土地に損害が生じた際には、その損害については一度で支払わなければならないとされているわ(212条但書き)。
・・・なぁんだ。
じゃあ、袋地なんて、いらないよ。
普通は、敢えて好んで買う土地ではないからねぇ。
まぁ、あんたみたく、他人様の土地を無断で通過し放題って最初に思う人も珍しいとは思うけれどね。

でも、元々は袋地じゃなかったけれど、土地の分割や一部譲渡によって、後に袋地や準袋地が生じる場合もあるのよね。
この場合を想定して規定されているのが民法213条ね。

ちょっと六法で確認してくれるかしら。
民法第213条

『(公道に至るための他の土地の通行権) 第213条
1項 分割によって公道に通じない土地が生じたときは、その土地の所有者は、公道に至るため、他の分割者の所有地のみを通行することができる。この場合においては、償金を支払うことを要しない。

2項 前項の規定は、土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する。
例えば、このサルの所有する袋地が、もともとはA土地の一部で、それを分割した結果、生じた土地(袋地だったとした場合なんだけど。

この場合のサルは、分割された他方の土地(A土地)のみを通行することができるっていうことになるわ(213条)。
いくら公道への近道だからって言って、C土地に対しては囲繞地通行権を有しないのね。

でも、コレは考えてみれば当たり前よね。
そもそも問題なく公道に出られる土地だったところを、わざわざ袋地になるような分割をしておいて、その結果、公道に出られないからって言って、他人の土地を通ることを認めることは妥当ではないわ。

そして、分割(譲渡)に際して、袋地が生じることを当事者は把握しているわけなんだから、その後、袋地からの囲繞地通行権を認めることは、A土地の所有者にとっても過大な負担とは言えないものね。

だから、この場合の囲繞地通行権については、償金を支払う必要もないとされているわけ(213条)。
この条文との関係で百選掲載の判例もありますよね。
最判平成2年11月20日百選T 6版69事件 7版70事件)ですね。

事案を簡単に紹介しますと・・・。
えーっと、まず上の図のA土地と藤さんの袋地が、そもそもは同じ一つの土地だった、と仮定して下さい。
その後、その土地が分割されて、上の図の状態に至った、という経緯を辿ったわけです。
A土地の所有者は光ちゃん、分割された土地(袋地)の所有者は藤さんってことにしましょうか。

しかし、その後、光ちゃんのA土地は売買されました(特定承継)。
新たにA土地の所有者となったのは、光ちゃんから、この土地を買い受けた竹中さんでした。

藤さんは、213条を根拠に、A土地に対して無償での囲繞地通行権を主張しました。

この藤さんの主張に対して、竹中さんは、私はA土地を新たに買った第三者で、A土地の分割については関与していないのだから、210条を根拠に有償囲繞地通行権しか認められない、と主張したわけです。
ほうほう・・・なかなか面白い話だね。
ドッチの言い分も、納得できちゃいそうだけど・・・判例ってことは、少なくとも最高裁の見解はあるわけか・・・ドッチだったんだろ。
最高裁は、

共有物の分割又は一部譲渡によって公路に通じない土地(以下「袋地」という)を生じた場合には、袋地の所有者は、民法213条に基づき、これを囲繞する土地のうち、他の分割者の所有地又は土地の一部の譲渡人若しくは譲受人の所有地(以下、これらの囲繞地を「残余地」という)についてのみ通行権を有するが、同条の規定する囲繞地通行権は、残余地について特定承継が生じた場合にも消滅するものではなく、袋地所有者は、民法210条に基づき残余地以外の囲繞地を通行しうるものではないと解するのが相当である。

 けだし、
民法209条以下の相隣関係に関する規定は、土地の利用の調整を目的とするものであって、対人的な関係を定めたものではなく、同法213条の規定する囲繞地通行権も、袋地に付着した物権的権利で、残余地自体に課せられた物権的負担と解すべきものであるからである。

 残余地の所有者がこれを第三者に譲渡することによって囲繞地通行権が消滅すると解するのは、袋地所有者が自己の関知しない偶然の事情によってその法的保護を奪われるという不合理な結果をもたらし、他方、残余地以外の囲繞地を通行しうるものと解するのは、その所有者に不測の不利益が及ぶことになって、妥当でない


と述べていますね。
つまり、最高裁の見解は213条肯定説といえます。

判例の見解の根拠ですが
@『同法213条の規定する囲繞地通行権』は『袋地に付着した物権的権利で、残余地自体に課せられた物権的負担』であるという法律構成をとり、特定承継人に対する物権的負担を認め、
A『袋地所有者が自己の関知しない偶然の事情によってその法的保護を奪われるという不合理』と『残余地以外の囲繞地』『所有者に不測の不利益が及ぶ』として、袋地所有者と、残余地以外の囲繞地所有者の不利益を考慮しているわけですね。
成程ねぇ〜。
でも、この裁判って考えたらお隣さんと最高裁まで争ったわけだよね。
なんか近所付き合いって難しいなぁって思っちゃうよねぇ。
あたしみたいな小心者だと、思っていることも言えないから、きっといつも泣き寝入りしちゃうんだろうなぁ。 
ですってよ?
竹中さん。
 
  ですってね。
明智先輩。
あ・・・また、そうやって、あたしを虐めるわけね・・・。
チイ、見てる?
オネーちゃんは、ローでは、いつもこうやって白眼視されているんだよ? 
  オネーちゃんをイジめちゃダメだよ!
チ、チイちゃんっ!
いつものやり取りを知っているのに、どうして、そんなリアクションになるですかっ!? 
よ、よくワカラナイけど、オネーちゃんをイジめちゃダメなのっ!! 
大丈夫ですよ!
チイちゃんのお姉さんには私がついて守りますからね!
  あ、ありがとうっ!
つかさおねーちゃんっ!!
・・・守ってもらいたいのは私の方だと思うです。
大丈夫、ナカちゃんには私が味方についているからね。

えーっと、今みてきたように囲繞地通行権は、使用される側の土地の所有者にとっては大きな負担となるものだから、それは通行に必要最小限の範囲に限定されるべきものということはワカルわよね。

ただ、そうは言っても、現在においては自動車での通行ということも、土地の利用については、ごく当たり前に必要となることがあるわけだから、ただ人1人が通れれば、それでいいってわけにもいかないわけよね。 
そうですよね。
この点については下級審判例も分かれるところですが、判例百選T 6版70事件が、この問題を扱っていましたよね。
最判平成18年3月6日ですよね。

判旨を読みますと
現代社会においては、自動車による通行を必要とすべき状況が多く見受けられる反面、自動車による通行を認めると、一般に、他の土地から通路としてより多くの土地を割く必要がある上、自動車事故が発生する危険性が生ずることなども否定することができない。

 したがって、自動車による通行を前提とする
210条通行権の成否及びその具体的内容は、他の土地について自動車による通行を認める必要性、周辺の土地の状況、自動車による通行を前提とする210条通行権が認められることにより他の土地の所有者が被る不利益等の諸事情を総合考慮して判断すべきである。
と、されていますよね。
いくら通行権って言っても、人が通れれば、それでいいってわけにもいかないからね、現実的な問題としては。
実際、私も通学の送り迎えには、車を利用しているわけだし。 
・・・。
(黙れ、金満豚っ!
 お前の利用している車は、一般人とは違うだろうがっ!
 ナニ、送迎車の利用を、さも当然のごとくしゃべっとるんだおっ!!
 お抱え運転士なんて、一般人は持ち合わせちゃいねぇーんだおっ!!
 いいもんばっか喰って、ろくに運動もせんと送迎されとるから、体重気にする羽目になんだおっ!
 いっそ明日っからはリアカーでも引いて学校に通えばええんだおっ!!
 ・・・と思うものの、小心者のあたしは思っていることを言えないのであった、まる。) 
・・・・。
(小心者の人は、そもそも、そんなヒドい毒は吐かないです・・・きっと。) 

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