それじゃ、占有権の基礎となる占有の態様についての勉強会の2回目ね。 占有の態様とされるもにには、どのようなものがあるのか。 また、それはどのような問題に関連してあらわれるのか、ということを前回に続いて見ていくことにするわね。 はい、それじゃ六法で条文の確認からね。 民法180条を見てくれる? |
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民法第180条 『(占有権の取得) 第180条 占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。』 |
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占有の態様とされるものには、次の5つが挙げられたわよね。 @自主占有と他主占有 A善意占有と悪意占有 B過失ある占有と無過失の占有 C瑕疵ある占有と瑕疵のない占有 D自己占有(直接占有)と代理占有(間接占有) の5つの占有態様ね。 前回は、これらのうち@自主占有と他主占有について学んだから、今日は、A、Bと、一つ飛ばしてDを見ることにするわ。 |
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こくこく(相槌) |
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まずはA善意占有と悪意占有からね。 これまで色々見てきた条文において、『善意』とか『悪意』という言葉が何度も出てきているわよね。 例えば、民法189条1項および2項には『善意の占有者』という言葉が、190条1項や、196条2項には『悪意の占有者』という言葉が、そして、191条なんかだと、その両方が出てきているわよね。 サルが好きな取得時効に関する162条2項や、即時取得に関する192条などでは、『善意』で占有を始めたってことが重要な意味を持ってくるわよね。 |
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うんうん。 そのあたりは、結構抑えているつもりだけどね、あたしも。 |
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サルは、この話は好きだもんね。 じゃあ、今更な質問で申し訳ないかも知れないけれど、大事なことだから、おさらいがてら。 質問! 民法にいう『善意』、『悪意』の意味を説明してください。 |
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『善意』っていうのは、ある事情について知らないことで。 『悪意』っていうのは、ある事情について知っていることだよ! |
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正解っ! 今の理解を前提として、『善意の占有』、『悪意の占有』についての話をするわね。 この占有の場合における『善意』、『悪意』とは、占有者に本権がないことを前提として、その事実について知っているか、知らないか、ということね。 占有者が本権がないことについて知っていれば『悪意』、知らなければ『善意』ということになるわ。 例えば、私とサルとの間で売買契約があったとして、その売買契約に基づいて、私からサルへ物の引渡しがあったとしてみてくれる? サルは、引渡しを受けて、物の占有を開始したわ。 でも、その後、私とサルとの間の売買契約が無効となり、サルが所有権を取得していない場合、サルの占有は本権である所有権を欠く占有となるわけよね。 この場合、サルが、売買契約の無効を知っていれば『悪意の占有者』。 知らなければ『善意の占有者』ということになるわ。 |
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あたしなら『悪意の占有者』にならないために、ちょっとくらい疑わしくっても、知らないことにしとくけどね。えへへへへへ。 | ||
ソレはちょっと苦しいかもね。 通説的理解では、占有者が本権のないことを知らないけれど、本当に本権があるのかどうかについて疑いをもっているというような場合は『悪意』とすべきである、とされているからね。 |
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あたしみたいな他人を疑うことを知らない純真無垢な人間は、なんでもかんでも信じちゃうんだお! 本当に自分に本権があるのかなぁ? なんて懐疑的な発想をしないんだお! |
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・・・ど、ど、どの口が言うですか。 | ||
あんたの自己評価は、どうなってるのよ・・・。 あんたが純真無垢なら、ナカちゃんやチイちゃんなんか天使飛び越えて神様になっちゃうわよ! はい、それじゃ次はB過失ある占有と無過失の占有についてね。 ココはアッサリと済ませておくわね。 『善意の占有』について、その『善意』であることについて、占有者に過失があるかないかの区別のことを言うわ。 占有者が注意を払えば、本権のないことを知り得たのに、不注意で知らないままになっていたというのが過失ある占有ってことね。 民法162条2項(取得時効の10年の善意取得)、192条(即時取得)では、善意かつ無過失で占有を始めたことが要件とされているわよね。 |
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うひょひょひょひょ! 超サクサクじゃないの! いいね、いいねっ!! よし、この調子でラストのD自己占有(直接占有)と代理占有(間接占有)いってまおーかっ! |
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それじゃD自己占有(直接占有)と代理占有(間接占有)についてね。 まずは、おさらいになるけれど・・・。 例えば下の図の場合。 |
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光ちゃんが、私にペンを貸している・・・だけですね。 この場合、ペンを直接、占有しているのは私ですが、光ちゃんは、私を代理人としてペンを占有しているということになります。 このような光ちゃんの占有を、代理占有っていうんでしたよね。 また、この代理占有ですが、光ちゃんは直接にペンを占有しているわけではないことから、このような占有を間接占有とも言いますね。 これに対して、ペンを借りている私の占有ですが、直接占有しているわけですから、直接占有とか、自己占有って言い方をしますね。 占有という言葉からは、私のような占有(自己占有、直接占有)こそ合っていると言えるでしょうけれど、間接占有についても民法は認めているわけですから、ソレは仕方ないですよね。 また、そのような間接占有であっても占有として認められているからこそ、占有改定なども『引渡し』として認められているわけですよね。 |
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丁寧な説明してくれて、ありがとうね。つかさちゃん。 それじゃ、今のつかさちゃんの説明のお陰で、自己占有と代理占有、その違いについては理解できたと思うけれど、この理解を前提として、質問させてもらうわね。 質問! モンキー株式会社という会社があり、会社の代表者はサルでした。 モンキー株式会社が法人として賃借している土地がありましたが、その賃貸借は合意解除されました。 契約が解除された以上、当然、賃借権も消滅しているはずなのですが、解除後も、土地にはモンキー株式会社の代表取締役のサルが居座り続けているのです(=土地を占有している)。 この場合、土地の所有者のナカちゃんは、土地を占有しているモンキー株式会社の代表取締役サルに対して、所有権に基づく土地の明渡し請求ができるでしょうか? あ、法人名と代表者名はあくまでも私の遊び心だから、一人会社ではないからね、法人格否認の法理は使わないでね。 (最判昭和32年2月15日がモデル事案 百選T 6版7版共に63事件) |
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モンキー株式会社に、サル代表って・・・光ちゃんのネーミングセンスは底抜けだな・・・。 『猿の惑星』かよ・・・ソコは・・・。 |
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藤先輩が、私の土地に居座っているんですから、私は藤先輩に対して、土地を返すよう言えると思うです。 | ||
場合分けをして言える場合があるっていう認定をすることは出来ると思うけれど、少なくとも判例は、ナカちゃんからオネーちゃんへの明渡請求は認めていないよ! | ||
・・・そ、そうなんですか? でもでも、藤先輩が占有しているわけですし、土地を直接占有することで、私の土地の所有権を侵害している藤先輩に、どうして明渡すよう言うことができないんでしょうか? |
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ナカちゃんの疑問は、もっともだと思うわ。 最高裁の判断は次の内容なんだけど・・・。 (※ 役名に勝手に変更しています。) 『サルは訴外モンキー株式会社の代表取締役であって同会社の代表機関として本件土地を占有しているというのである。 そうすると、本件土地の占有者はモンキー株式会社であってサルはモンキー株式会社の機関としてこれを所持するに止まり、したがってこの関係においては本件土地の直接占有者はモンキー株式会社であってサルは直接占有者ではないものといわなければならない。 なお、もしサルが本件土地を単にモンキー株式会社の機関として所持するに止まらずサル個人のためにも所持するものと認めるべき特別の事情があれば、サルは直接占有者たる地位をも有するから、本件請求は理由があることとなるが、右特別の事情は原判決の確定しないところである。』 (最判昭和32年2月15日 百選T 6版7版共に63事件) としているわね。 |
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どうして最高裁は、藤先輩に対しての私の請求を認めてくれないのでしょうか? | ||
説明するわね。 モンキー株式会社の代表取締役サルが、会社の賃貸した土地を占有しているとしても、ソレは、サルが会社(モンキー株式会社)の機関として占有しているのであって、サル自身が占有しているわけではない、とみているわけ。 この場合のサルを、占有機関とか、占有補助者って呼ぶわ。 占有機関や占有補助者は、占有者ではなく、代理占有も有していないの。 したがって、モンキー株式会社が権原なく占有している土地について、代表取締役サルに対しては、土地の明渡しを求めることはできない、という結論になるわ。 ただ学説の少数説には、ナカちゃんが言うように、代表機関であるサルの占有を直接占有として捉えて、占有回収の訴えを認めるべきであるという考え方もあるわ。 でも、判例だって原則的には、会社の代表機関としての所持については、直接占有者ではないことから、土地の明渡しを求めることはできない、としているけれど、例外的に 『もしサルが本件土地を単にモンキー株式会社の機関として所持するに止まらずサル個人のためにも所持するものと認めるべき特別の事情があれば、サルは直接占有者たる地位をも有するから、本件請求は理由がある』 としているわ。 チイちゃんが場合分けによっては、明渡請求を認めることも出来るって言ってくれたのは、この部分だと思うんだけど、実際、判例においても、これらの特別事情を認めて、法人の代表者の直接占有を認めたものもあるからね。 (最判平成10年3月10日、最判平成12年1月31日) 本判決の調査官解説によれば、 『会社の機関として所持するに止まらずサル個人のためにも所持するものと認めるべき特別の事情』 としては、代表者のサル個人が、その土地に家族と共に居住しているような場合が特別事情の具体例として挙げられているわね。 (最高裁判所判例解説民事編昭和32年度) |
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成程です! 事例問題で、そのような事実があったのなら、特別事情として認定できるってことですね。 |
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そういうことね。 個人的には、判例の理解で抑えておいて、事案において例外的扱いで処理するってことでいいと思っているわ。 |
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納得できたです! | ||
よかったですね、竹中さん。 | ||
うむうむ。 よし、今日はここまでにするか。 おい、ソコのイタい格好した女っ。 モンキー株式会社の社長様は、なんぞ美味しい物を食したいぞ! いかにも! な食事の堪能できる店にでも案内せんか。 |
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イタい格好した女・・・って、まさか私のことなの? | ||
え!? あ・・・ヤバいね、うんうん、コレ、ヤバいやつやね。 ・・・ち、ち、違うお、違うお。 あのね・・・光ちゃん、えーっと・・・そ、そうっ! 猿的な美的感覚からすると、人としての美しさは理解できないから、そういう表現になるってことで、そうそう。そういうことなんだお。 |
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ふぅ〜ん。 じゃあ、猿にとっては御馳走なバナナでも奢って上げるわ。 猿的には、すっごく嬉しいんじゃなくって? |
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うわーいっ!! チイも、バナナ大好きだよっ! オネーちゃん、いいなぁ、いいなぁ!! |
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・・・と、小猿は喜んでいるようだが、大猿はさして嬉しくないのであった、まる。 |