登記を必要とする物権変動C

登記を要する物権変動、そして、登記を要しない物権変動について、物権変動の原因となる相続や、取得時効について、それぞれ見てきたわね。

今回は、不動産に関する物権変動の原因となった法律行為ないし契約が、無効、取消、 解除になった場合のうち、百選掲載判例である取消の場合について学びたいと思うわ。
成程です。
無効取消については既に民法総則で勉強済みですが、解除については債権法をまだ勉強していないので、後回しにされるということですね。
そうね。
解除の場合の取り扱いについては、百選T6版52事件 7版54事件が掲載されてはいるんだけれど、解除自体を知らないと、ちょっとね、って思うし。
そうしようかと思うわ。  
  カイジョは、デッカイじょ!
・・・。
(わざわざ口に出して言う洒落ではないです。)
  カイジョはデッカイじょっ!
カイジョはデッカイじょっ!! 
あうあうあうあう。
(まさかのノリノリです・・・。
 明智先輩といい、チイちゃんといい、勉強のデキる人は、おかしな洒落にやたら反応しているです・・・どこかネジが外れているのではないでしょうか・・・心配です・・・。 ) 
あ、ゴメンね。
ちょっと、つかさちゃんと相談してて頓挫しちゃったわね。

今日は、不動産に関する物権変動の原因となった法律行為ないし契約が、取消しになった場合について学びたいと思うわ。
  こくこく(相槌)
 
今日の勉強では、今から話す事案を考えてもらうわね。

ナカちゃんは、5月1日に、サルに、ナカちゃんが所有するA土地を売却したの。
その際に、サルは、このA土地を担保にお金を借りて、そのお金でナカちゃんに土地の代金を支払うから、先にA土地の登記を移転して欲しいって頼んできたわけね。

ナカちゃんは、サルの言い分ももっともだって思い納得して、サルの懇請に応じて、5月2日に、A土地の登記をサルに移転したの。

ところがサルは、最初っからナカちゃんに代金を支払うつもりなんてなくって、登記移転をナカちゃんから受けたのはナカちゃんを騙していただけだったのよね!

ナカちゃんも間もなく、そのことに気付いたわ。
サルに強く抗議すると共に、ナカちゃんとサルとの間で交わした売買契約を、サルの詐欺を理由に取消す旨をサルに通知することにしたわ。
このナカちゃんからサルへの通知は、5月20日にサルのとこに到達したわ。

でも困ったことに、サルはナカちゃんからの取消しの前の5月10日に、とっととA土地を、つかさちゃんに転売して、さらには移転登記まで済ませてしまっていたのね。

さぁ、この場合、ナカちゃんはサルから登記を取り戻すことができるのか、っていうのが今日考える問題になるわ。 
んんんんんんっ!?
漢・黒田の1軍登録抹消(2015.5.3)のショックの影響かな?
前世の記憶かな・・・それともデジャヴュかな・・・。
なんか、あたし、この問題に出会った記憶が微かにあるんだよね・・・。
ひょっとして、コレはあたしが、前世は辣腕弁護士だった可能性を示すものなのではないか・・・と。
多分違うよ、オネーちゃん。
この問題は、春休みの答案勉強会で検討した事案と似ているんだよ。
でも、あの事案では「オネーちゃんから、つかさおねーちゃんへの転売が、ナカちゃんの詐欺取消の」っていう違いがあったよね。
さっすがチイちゃんっ!
そうね。

詐欺による取消と第三者との関係においては、第三者の登場が、詐欺取消の「」なのか「」なのかで取扱いが異なるわ。

実は、本来ここでの勉強は、詐欺取消と登記の問題を検討するのであれば、詐欺取消「」の第三者を問題にすべきなんだけれど、その問題については、答案勉強会で予習方々学んだわけよね。

ということで、ここでは、登記の問題とは直接関わりはないんだけれど、詐欺取消「」の第三者の場合はどうなるのか
ということを考えてもらおうって思って事案形式で聞いてみたのよね。

ちょっと物権法の勉強会での論点とは違うんだけれど、詐欺取消「後」だけやって「前」はやっていないっていうんじゃ片手落ちだしね。
ということで、詐欺取消「」の第三者との関係については、春休みの答案勉強会を見て復習しておいてね。
あの勉強会の際には、しっかり物権法の問題を検討しているし、判例を離れて学説による救済の途についても考えたものね。
うんうん!
チイは、
判例の考え方は抑えていたけれど、94条2項類推適用説については不勉強だったから、あの勉強会は、すっごく良かったよ!
今は、ドッチの考え方も説明できると思うよ!
ということで、今日の勉強会はドチラかと言うと、物権法というより、むしろ民法総則の勉強会みたいになっちゃうけれど、民法の勉強には違いないわけだし、勉強において大事なことは、何よりも基礎論点の反復だからね。

さあ、誰でもいいから事案を、どう考えるべきか答えてみてくれる?
何故だろう・・・。
あたしには、この事案を法的に解決する答えが導き出せる気がするんだ。
思うに、あたしの中の前世の記憶が、あたしを正しい答えへと導こうとしているんじゃないだろうか・・・と。 
はたまた黒田の魂が、あたしを導いてくれているんじゃないだろうか・・・と。
・・・・・・。
(答えを導き出せるのは、民法総則の勉強会で、勉強した論点だからです。
 そもそも黒田選手は、1軍登録抹消されただけなので、魂は今季のペナント制覇に向けて燃やしているはずです、藤先輩のところに来るはずもないじゃないですか。
 一体全体、藤先輩はさっきからナニを言っているですか・・・。) 
うんうんうん・・・何故だろう・・・。
法律的解決を導く一本の糸のようなものが、あたしには見えるよ・・・。
ちょっと、悪いんだけど、詐欺取消条文を見てくれない?
民法第96条ですね。

『(詐欺又は強迫)  第96条
1項 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。

2項 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。

3項 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。
成程ね・・・。
詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
と規定されているわけか(民法96条1項)。

ということは、事例のナカたんは詐欺によって売買契約をしたんだから、A土地を売るという意思表示を取消すことができるってことになるね。
そして、取消すと・・・ちょっと悪いんだけど、取消条文を見てくれない? 
民法第121条本文ですね。

『(取消しの効果) 第121条
 取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。
そうなんだよ・・・。
取り消すと、その意思表示は初めから無効だったことになるんだ。
取消の遡及効
と、なるとだよ・・・「売る」というナカたんの意思表示が無効だったのなら、その売買契約は成立していないってことになるんだよね・・・。
売買契約は「売る」という意思表示と、「買う」という意思表示とが一致することによって成立するんだから、取引の片方であるナカたんの意思表示が無効だって言うのなら、当然、契約は成立しないってことになるからね。
・・・・。
(す、す、すごく重厚な雰囲気で話していますが、ソレは全部民法総則で学んだことです・・・藤先輩。) 
うんうん。
いつものサルらしからぬ法律的に、しっかりした表現で話しているじゃない。
ソレから、ソレから? 
売買契約が成立していない・・・。
そのことがナニを意味するのか・・・ということだね。
あたしの中の前世の記憶が伝えるには、売買契約が成立しなければ、ナカたんの所有権は、あたしに移転することはないということになるね。
176条意思主義
すなわち、A土地の所有権は、まだナカたんに残っていると言わなければならないね。
ということはだよ?
ということは?   
ナカたんにはA土地の所有権があるのだから、所有権に基づいて、事案のあたしに対して「A土地を返還せよということが出来るということだね。
当然、「登記名義も返せって言えるということになるんだ。
これは、ナカたんの有する所有権の作用だからね(物権的請求権)。
そして、物権である所有権は、何人(ナンビト)に対しても主張できる絶対効を有するということは、ナカたんは、クロちゃんに対してもA土地を返還せよって言えるはずだよ。 
・・・・。
(あ・・・でもいつの間にか物権法の話になっているです・・・。
 え? まさか本当に、ナニか不思議な力が藤先輩に? )  
クロちゃんは、あたしからA土地を買ったわけなんだけど、あたしが無権利者である以上、「無から有は生じない」とする「無権利の法理」が働く場面といえるね。
つまり、クロちゃんはA土地の所有権を取得することはできないってことになるんだ。
確かに、クロちゃんは、あたしのとこに移転していたA土地の登記を信頼したのかも知れない。
でもいい? 
日本の民法は、不動産については公信の原則をとっていないよね。
つまり、クロちゃんはあたし名義のA土地の登記を信頼してA土地を買ったのかも知れない。
でも公信の原則をとっていないということは、不動産の公示方法である登記を信頼したとしても、無権利者である、あたしからはA土地の所有権を取得することはできない、という結論になるんだよ。
な、な、なんだか、今日の藤さんは、いつにも増して素敵ですっ!!
この帰結を「登記には公信力がないから」という言い方もできるよね。
いや、それはいいか。
ただね、ナカたんがクロちゃんに対して、A土地を返還せよ、A土地の登記名義を返還せよ、と主張できると断じていいかは、まだ一つクリアしなければならない壁があるよね。
さっき、ナカたんが読んでくれた条文には、3項があるからね。
あっ、す、すみませんです!

民法第96条3項ですね。

『(詐欺又は強迫)  第96条
1項 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。

3項 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。
そう。96条3項
ここにいう『善意』とは、ある事情を知らないという意味だよね。
事案で言うなら、第三者であるクロちゃんが、A土地の、あたしとナカたんとの売買が詐欺によるものであり、被害者であるナカたんがこれを取消すことができる、という事実について知らなかった、ということだ。
逆を返せば、この事実を知っていたのであれば、クロちゃんは悪意の第三者ということになる。

つまり、ナカちゃんの取消96条3項によって制限されるわけだけど、ソレは、クロちゃんが善意か悪意かによって決っせられるということだね。

光ちゃんの話した事案だと、クロちゃんが善意か悪意なのかについてまでは言及されていなかったわけだから、恐らく、その点については場合分けを求める意図だった、と考えるべきなのかな。
どうだろう?
オネーちゃん、格好いいよっ!
すっごく渋かったよっ!!
民法総則物権法のここまでの勉強の、おさらいがてら出してみた事案だったけど・・・。
サルっ!
いい検討してくれていたわ!
ちょっと驚いちゃった。 
  ん? どったお?
ナニに驚いたんだお?
  あれ?
なんか藤先輩の雰囲気が・・・。
  そうですね・・・。
さっきまでとはガラリと変わってみえますね。 
そうね。
今、サルがまとめてくれたけれど、詐欺取消の第三者との関係は、今、サルが話してくれたように考えることができるわ。

これに対して、詐欺取消の第三者との関係は、春休みの答案勉強会で予習したように、判例は次のように捉えているんだったわよね。

つまり、ナカちゃんの詐欺取消によって、片方では、サルからナカちゃんへの復帰的物権変動が起き、もう片方では、サルからつかさちゃんへの新たな所有権移転が生じていると見るんだったわよね。

そうすると、この関係は、サルを起点として、一方はナカちゃんへ、もう一方はつかさちゃんへ、という一種の二重譲渡類似の関係になるわけよね。

そうであれば、ナカちゃんとつかさちゃんとの関係は、二重譲渡の対抗関係とみるべきであって、先に177条の対抗要件としての登記を備えた方が勝つということになるんだったわね。
つまり、ここでは、96条3項の問題は生じないことになるわ。
大判昭和17年9月30日 百選T 6版51事件 7版53事件) 

つまり判例の考え方に従えば、96条3項は、あくまでも、つかさちゃんがナカちゃんによる詐欺取消に登場したときにだけ適用されることになり、つかさちゃんがナカちゃんによる詐欺取消に登場したときには、ナカちゃんとつかさちゃんとの関係は177条によって決すべき問題となり、96条3項を適用する必要はない、ということになるわけよね。
おいおいおい。
ナニを、あっさりとまとめてくれちゃってんだお。
手抜きってレベルじゃねぇーぞ、ゴラァっ!! 
え?
藤先輩が、今日の勉強会の内容については、さっきまとめてくれたですよ?
ちょっと、ちょっとっ!
起きたまま寝言こいてると、あたしの木下頭突きが炸裂すんよ? 
いえ・・・でも、先程、藤さんが綺麗にまとめて下さったので、もう十分かと私も思うんですけれど・・・。 
  クロちゃんまでナニ言ってんの?
あんたこそナニ言ってんのよ。
せっかく、いいまとめとしてくれたなぁって、みんな思っているってのに。  
・・・・。
(春になると、色々おかしな人が出てくるって言うからなぁ。
 でも、コイツら集団で、おかしくなるって大丈夫かお?
 広島最下位で一杯一杯だって言うのに、あたしは心配になっちゃうお。 )
・・・・・・。
(ここ最近、オネーちゃん、広島の応援に疲れ果てて、泣き寝入りしてばっかりだからなぁ。
 ナニか、おかしなことになっているのかも知れないなぁ。
 チイは心配だよ・・・。 ) 
 解除と登記の問題については、解除の勉強会ですることとします。
  従って百選T 6版52事件 7版54事件最判昭和35年11月29日)については、物権法の勉強会では扱いません。
  需要等があれば、加筆することを善処致します。

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