憲法判断回避の準則 | ||
法令違憲、適用違憲についての勉強会を終えたことで、そろそろ憲法の司法の勉強会も終わりが見えてきたわね。 | ||
よ、よ、ようやく・・・か。 いや、半端ないキツさがあった・・・。 あたしだけじゃなく、この気持ちはアホの管理人も同様の思いでいると思うけど・・・。 |
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まぁ、そうかもね。 何しろ難しいところだし、検討する判例も難解なものが多いわけだし、でも、だからこそサルにも、そのアホの管理人? その人にとっても、いい勉強になったんじゃないのかしら。 |
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ウワっ!! あたしはともかく、お前まで「アホ」呼ばわりかよ!! |
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だって、そういう名前なんでしょ? だったら仕方ないじゃないのよ。 |
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むむむ・・・まぁ、確かに・・・。 | ||
メ・・・メタメタです・・・。 |
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それじゃ、今日の勉強会では、憲法判断回避の準則について学ぶことにするわね。 憲法判断回避の準則というのは、憲法判断は、事件の解決にとって必要な場合以外は行わない、という必要性の原則から導かれる準則をいうわ。 この憲法判断回避の準則の論拠としては @権力分立の観点から 裁判所は立法権に介入することをできる限り差し控えるべきであること A民主政の観点から 国民の直接的代表者である国会の判断は最大限尊重されるべきであること B裁判所の能力の観点から 伝統的な司法過程は、憲法判断に必要な広範囲の社会的利害に関係した資料を入手するのに適合的には構成されていないこと C実際的な観点から 憲法上の争点についての公権的解決は、社会の中で様々な観点からの議論が煮詰まり明確化するのを待ってから行った方がいいこと (高橋和之『憲法判断の方法』有斐閣 1995年 53頁) 等が挙げられるわね。 |
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ふむふむ。 敢えて憲法判断なんて、しなくてもいいんじゃね? の理由ってことね。 |
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相変わらず乱暴な抑え方してくれるわね。 もう少し、しっかりした言い方をするなら・・・そうね・・・付随的違憲審査制をとる我が国においては、当該事件の解決に必要な限りにおいて憲法判断が行われれば、それで足り、裁判所は必要以上に政治部門の判断に介入すべきではないことの理由って理解でいいと思うわ。 因みに、この憲法判断回避の準則は、そもそもはブランダイズ・ルール(アシュバンダー・ルールとも呼ばれる)が起源となっているのよね。 |
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ナニナニ!? その厨二心をくすぐる名前は!! |
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ちゅ? ちゅうにごころ? えーっと、ちょっと藤さんのおっしゃられてみえる言葉の意味は解かりかねるのですけれど、1963年のアメリカのアシュバンダー判決で述べられたブランダイス裁判官の補足意見で説かれたことから注目を浴びるようになった考え方なので、当該裁判官の名前を付して、この名称で呼ばれているんですよね。 |
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なんだ・・・ただの外国の人の名前なのね。 | ||
ナニを期待してんのよ、サルは。 このブランダイズ・ルールは7つあるのよね。 |
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暴食、傲慢、憤怒、強欲・・・とかだね。 | ||
ソレは7つの大罪じゃないのよ! | ||
おお、珍しい! 光ちゃんが、的確なツッコミしてんお! ナニナ二? ハガレン(『鋼の錬金術師』)は見てたわけ? |
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え? ブラピの出演映画『セブン』の話じゃないの? |
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あ、ソッチなのね・・・。 | ||
えーっと、ちょっと脱線されてみえるようなので、私から説明させて頂きますが、このブランダイズ・ルールは7つあるのですが、そのうち重要なのは2つ(CとFのルール)といわれています。 (芦部信喜『憲法訴訟の理論』有斐閣 1973年 293頁) その重要な2つのルールを述べますと C『裁判所は、憲法問題が記録によって適切に提出されていても、もし事件を処理することができる他の理由が存在する場合には、その憲法問題には判断を下さない』 F『議会の法律の効力が問題になった場合は、合憲性について重大な疑いが提起されても、裁判所がその憲法問題を避けることができるような法律の解釈が可能かどうかを最初に確かめることは、基本的な原則である』 の2つです。 Fのルールにいう『憲法問題を避けることができるような法律の解釈』には、さらに次の2つがあります。 1つ目は、法律の合憲性に対する疑いを回避するため、憲法判断を回避できる解釈があれば、それに従うという場合です。 2つ目は、問題となっている法律について、幾つかの解釈の可能性が存在し、ある解釈によれば合憲となり、また別の解釈によれば違憲となる場合には、合憲となる解釈を選択する、という場合です。 この、Fのルールの1つ目の考え方と、Cルールを合わせたものが、憲法判断自体の回避、ということになります(狭義の憲法判断回避)。 そして、Fのルールの2つ目の考え方が、合憲限定解釈ということですね。 |
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うわっ!! 7つの大罪って、ナニがあったっけ・・・って思い出してたら、なんかえらい話が進んどるお!! |
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もう! ちゃんと聴いてないオネーちゃんが悪いんだよ!! えーっとね、まとめちゃうと、憲法判断回避の準則には、 憲法判断自体の回避 と 合憲限定解釈 の2つの手法があるってことだよぉ。 |
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ふむふむ。 短くて、よろしい! |
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長い説明で、すみません! | ||
つかさちゃんが謝ることなんてないわよ。 いきなり、憲法判断回避の準則だけ挙げても、理由も根拠もワカラナイじゃないのよ。 ごめんね。私も、つい脱線しちゃっていたわね。 それじゃ、つかさちゃんの説明してくれた憲法判断自体の回避、そして、合憲限定解釈の2つの手法が、実際の判例の中で、どのようにとられているのか、ということを見ることにしましょうか。 先ずは、憲法判断自体の回避、という手法からね。 見るべき裁判例として、恵庭(エニワ)事件ね。 (札幌地判昭和42年3月29日 百選U170事件) |
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どんな事件だったんですか? | ||
この事件の被告人らは、北海道千歳郡恵庭町(現・恵庭市)の住民だったのね。 この被告人の方々は、自衛隊の射撃練習に抗議してきたんだけれど、この抗議にもかかわらず、陸上自衛隊は島松演習場においてカノン砲の射撃練習を開始したわけ。 これに対して、被告人の方々は抗議の意味で、演習場内の通信線数箇所をペンチで切断するという行為に出たの。 もちろん、このような行為は刑法261条の器物損壊罪の構成要件に該当する行為にあたるわけなんだけれど、自衛隊法121条は 『自衛隊の所有し、又は使用する武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物を損壊した者』 については、特別法として器物損壊罪よりも重く処罰する旨を定めていたのよね。 というわけで、被告人の方々は、自衛隊の演習場内の通信線数箇所を切断した行為が、自衛隊法121条違反になる、ということで起訴されることとなったわけね。 |
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まぁ、確かにいくら抗議のためとは言え、他人の物を壊したんだから仕方ないか。 | ||
ところが、この被告人の方々は、自衛隊の存在が、そもそも憲法9条(および憲法前文)に反するものである以上、自衛隊法は違憲無効な法であるのだから、121条違反によって処罰されることはない、つまり、自分達は無罪である、と主張したのよね。 | ||
マヂかいやっ!! なかなかの展開だね、ソレは!! |
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この事件の判決文は、次のものになるわ。 『被告人両名の切断した本件通信線が自衛隊法121条にいわゆる「その他の防衛の用に供する物」にあたるか否かを検討してみるに、前判示のごとく、例示物件に見られる一連の特色とのあいだで類似性が是認せられるかどうかについては、つとめて厳格な吟味を必要とするのであるが、本件通信線が自衛隊の対外的武力行動に直接かつ高度の必要性と重要な意義をもつ機能的属性を有するものといいうるか否か、自衛隊の物的組織の一環を構成するうえで不可欠にちかいだけの枢要性をそなえているものと評価できるか否か、あるいは、その規模・構造等の点で損壊行為により深刻な影響のもたらされる危険が大きいと考えられるかどうか、ないしは、同種物件による用法上の代たいをはかることが容易でないと解されるかどうか、これらすべての点にてらすと、多くの実質的疑問が存し、かつ、このように、前記例示物件との類似性の有無に関して実質的な疑問をさしはさむ理由があるばあいには、罪刑法定主義の原則にもとづき、これを消極に解し、「その他の防衛の用に供する物」に該当しないものというのが相当である。 なお、検察官指摘のごとく、本件通信線が野外電話機、音源標定機等と用法上一体の関係にあつたと思料される点を考慮にいれても、右判断に消長をおよぼすとは考えられない。 ちなみに、本件では、検察官は、審理の全般を通じて、被告人両名に対し自衛隊法121条違反による処罰を求める態度を終始一貫し、訴因・罰条の変更等を請求する意向をまつたく表明しなかつたのみならず、弁護人側も、もつぱら、自衛隊法121条違反としての訴因に焦点をしぼり、その点にのみ防禦の措置を講じてきた本件訴訟の具体的な経過に徴すると、被告人両名の行為につき、刑法261条の器物損壊罪にあたる余地の有無に言及すべきかぎりでないのは多言を要しないところである。 七、弁護人らは、本件審理の当初から、先にも判示したように、自衛隊法121条を含む自衛隊法全般ないし自衛隊等の違法性を強く主張しているが、およそ、裁判所が一定の立法なりその他の国家行為について違憲審査権を行使しうるのは、具体的な法律上の争訟の裁判においてのみであるとともに、具体的争訟の裁判に必要な限度にかぎられることはいうまでもない。 このことを、本件のごとき刑事事件にそくしていうならば、当該事件の裁判の主文の判断に直接かつ絶対必要なばあいにだけ、立法その他の国家行為の憲法適否に関する審査決定をなすべきことを意味する。 したがつて、すでに説示したように、被告人両名の行為について、自衛隊法121条の構成要件に該当しないとの結論に達した以上、もはや、弁護人ら指摘の憲法問題に関し、なんらの判断をおこなう必要がないのみならず、これをおこなうべきでもないのである。 八、よつて、被告人両名に対する本件各公訴事実は罪とならないものであるから、刑訴336条にしたがい、被告人両名につき、いずれも無罪を言いわたすこととする。』 と、しているわ。 |
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器物損壊罪さえ成立せずに無罪になったんだ・・・。 | ||
ソコじゃないわよ。 この判決文で見て欲しいのは、あくまでも憲法判断回避の準則にいう憲法判断自体の回避という手法だからね! 本判決では 『裁判所が一定の立法なりその他の国家行為について違憲審査権を行使しうるのは、具体的な法律上の争訟の裁判においてのみであるとともに、具体的争訟の裁判に必要な限度にかぎられる』 として、我が国の裁判所が付随的違憲審査制であることを述べ、それは、つまり 『当該事件の裁判の主文の判断に直接かつ絶対必要なばあいにだけ、立法その他の国家行為の憲法適否に関する審査決定をなすべきことを意味する』 としているわけね。 そして、本判決では、切断された自衛隊演習場内の通信線は 『自衛隊法121条にいわゆる「その他の防衛の用に供する物」』 に、あたらない以上、原告らの行為は、自衛隊法121条の構成要件に該当するものではないという結論になっているのよね。 でも、それならば刑法の器物損壊罪に該当するのではないか? という問題に対しては 『検察官は、審理の全般を通じて、被告人両名に対し自衛隊法121条違反による処罰を求める態度を終始一貫し、訴因・罰条の変更等を請求する意向をまつたく表明しなかつたのみならず、弁護人側も、もつぱら、自衛隊法121条違反としての訴因に焦点をしぼり、その点にのみ防禦の措置を講じてきた本件訴訟の具体的な経過に徴すると、被告人両名の行為につき、刑法261条の器物損壊罪にあたる余地の有無に言及すべき』 ではない、としているのよね。 そして、121条の構成要件に該当しない・・・すなわち被告人らの無罪という結論が出た以上は 『もはや、弁護人ら指摘の憲法問題に関し、なんらの判断をおこなう必要がないのみならず、これをおこなうべきでもない』 として、合憲性の判断については一切行っていないのよね。 |
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おお、これまたスゴいね!! 自衛隊の憲法問題という点については、一切踏み込まなかったんだ。 なんか、すっごい肩透かし感のある判決だね、これ。 っていうか、通信線が『その他の防衛の用に供する物』ではない、という判断は妥当なのかなぁ? 正直、その物ズバリな気もすんだけどなぁ。 |
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そうね。 この判断については、憲法判断を回避するための無理な解釈である、といった批判もあるところだからね。 |
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でも、憲法判断自体の回避という手法については、よくワカッタ気がするよ! | ||
そうね。 ここでは、その点を注視して見てもらいたいって思って紹介した裁判例だから、そう言ってくれると私も嬉しいわ。 サルは、ちょっと事案の内容に興味持ちすぎよね。 |
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むぅぅぅぅ。 でも、やっぱり事案のオチは気になるじゃないの。 |
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見て欲しいのは、ソコじゃないのよね。もう・・・。 それじゃ、憲法判断自体の回避という手法については見たわけだから、次は、合憲限定解釈という手法について見ることにするわね。 合憲限定解釈とは、ある法令について違憲の疑いがかけられているときに、その疑いを除去するように法令の意味を解釈する手法をいうわ。 この合憲限定解釈には、戸松先生によれば @人権保障促進型合憲限定解釈 と A立法正当化型合憲限定解釈 の2つの機能があるとされるわ。 (戸松秀典『憲法訴訟【第2版】』有斐閣 2008年 235頁) @の例としては、 全逓東京中郵事件判決 (最大判昭和41年10月26日 百選U144事件) 都教組事件判決 (最大判昭和44年4月2日 百選U145事件) 等があるわ。 Aの例としては、 徳島市公安条例事件判決 (最大判昭和50年9月10日 百選T88事件) 税関検査事件判決 (最大判昭和59年12月12日 百選T73事件) 等があるわね。 |
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ぐわっ!! ゴッツいあるっ!! |
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例示だから、これだけってわけじゃないけどね。 ちょっと事案内容を言ってしまうと、サルが話のオチを気にしちゃって肝心の憲法判断回避の手法そのものを、おざなりにしちゃっている感があるから、事案説明は割愛して、判決文だけ見ることにしちゃうわね。 まぁ、いずれも重要判例ばかりなんで、また憲法の人権の勉強会で改めて見る機会もあることだしね。 |
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あらま。 | ||
見るのは、立法正当型合憲限定解釈の判例で述べられた規範部分にするわね。 徳島市公安条例事件判決 (最大判昭和50年9月10日 百選T88事件) の判決文では、次のように述べられているわね。 『ある刑罰法規があいまい不明確のゆえに憲法31条に違反するものと認めるべきかどうかは、通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みとれるかどうかによつてこれを決定すべきである。』 そして、上記判例を受けての税関検査事件判決 (最大判昭和59年12月12日 百選T73事件) の判決文では 『表現の自由を規制する法律の規定について限定解釈をすることが許されるのは、その解釈により、規制の対象となるものとそうでないものとが明確に区別され、かつ、合憲的に規制し得るもののみが規制の対象となることが明らかにされる場合でなければならず、また、一般国民の理解において、具体的場合に当該表現物が規制の対象となるかどうかの判断を可能ならしめるような基準をその規定から読みとることができるものでなければならない(最高裁昭和四八年(あ)第九一〇号同五〇年九月一〇日大法廷判決・刑集二九巻八号四八九頁参照)。』 と、されているわね。 この規範は、要暗記の規範だから、太文字部分については、しっかり書けるようにしておきたいところね。 判例自体については、また違う機会に、しっかり検討するってことにするわね。 いずれも、憲法の人権の勉強会において学ぶことになる重要判例だから、前提となる知識をもってから見た方がいいかな、って思うところだからね。 |
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なんでもかんでも後回しにすれば、いいってもんじゃないお。 人権の勉強会で、どんだけ判例見るつもりで、いるんだお。 |
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その言葉、そっくりそのまま、あんたに返すわよ! いつも大事なことさえ、忘れた、忘れた、言って! 復習は、ちゃんとその日の分は、その日のうちにしておかないと、後から、まとめてなんて通用しないんだからね!! |
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光ちゃん、そんなこと心配してたんだ。 ソレについては大丈夫だお。 |
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あら・・・意外な返しね。 ちゃんと復習していたの? |
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うんにゃ。 あたしは、その日のうちの復習は無論のこと。 後からまとめてやるつもりさえねぇーおっ!! ウェッヘッヘッヘッへ!! |
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(ピッピッピッピッピッ・・・ピッ・・ピッピッ・・・) | ||
ん? ナニやってんの? |
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日頃の弛まぬ努力と言えば、研鑽に研鑽を積まれてみえる柴田さんだからね・・・。 年長者だし、いかに日々の努力が大切かってことを柴田さんからサルに伝えてもらおうと思ってね。 今日は警護の日だし、迎えの際に少し時間見て下さいってラインしておいたわ。 さぁ、行くわよっ!! |
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や、や、やるおっ!!!! 復習どころか予習だってやるってぇーーのっ!! 日々の努力でしょ!? もう、すっごい大切だってことは、あたしも重々知ってっから!! 御忙しい柴田さんの御手を煩わせるまでもないからっ!!! |
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・・・もう返信きちゃった。 「藤様に御会い出来るのは私も楽しみです」 だって。 柴田さん、サルが好きなんだからぁ。 もぉ〜、ちょっとジェラシー感じちゃうなぁ。 |
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光おねーちゃんっ!! チイも柴田おねーちゃんに会いたいよぉ! チイも会いに行きますってラインしといてよぉ! |
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・・・。 (ぬぁ〜にがジェラシー感じちゃうなぁ、だお!! あたしは今、恐怖しか感じちゃいねぇーーんだお!! くぅぅぅぅ、この金満豚めぇ。 ナニかって言うと、あのゴリラを召喚しおってからに!!) |
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・・・。 (藤先輩は、柴田さんが大の苦手みたいです・・・。 一体、藤先輩は、あの優しい柴田さんのナニを、そんなに怯えてみえるんでしょう。) |