東京高裁平成9年6月18日判決
〜国民投票法事件〜
それじゃ、配役からね。

法案を提出した国会議員らナカちゃんとチイちゃん
衆議院事務局を、つかさちゃん
ナレーターが務めるわ。

ナレーター
1993年6月14日。
当時、日本社会党所属の衆議院議員だったナカちゃんは、衆議院議員の賛成者92名を含む法案に連署して、衆議院事務局に、当該法案を提出しました。
この「国政における重要問題に関する国民投票法案」を、なんとしてでも今国会で審議したいです!
志を同じくする賛同者も大勢いることですし、受理してもらいたいです!

衆議院議員A
私もナカちゃんの意見に賛同しているよ!
衆議院事務局さん、この法案提出を受理して欲しいよ!

衆議院議員B

衆議院事務局
この提出法案には、所属会派の機関承認(国会対策委員長の印等)がなされていませんね。
法律案提出には、所属会派の機関承認を得ること、という確立された先例があることを御存知ないのですか?
このような先例の要件を欠いた法案提出は認めるわけには、いきませんね。
チイちゃん・・・先例って、なんですか?です!
衆議院議員A
えーっとね、先例っていうのは、議事関係法規には規定のない事項ではあるものの、その解釈に関する事項その他議院の運営に関する事項についての前例であって、議院の運営につき議事関係法規とともによりどころとなっているものだよ。
民法で言うところの慣習法みたいなものと思ってくれていいと思うよ。

衆議院議員B
成る程です!
ということは、先例は、衆議院規則にはないということです!
だったら、そんな先例を理由に、法案提出の受理を認めないのは、おかしいです! 

衆議院議員A

衆議院事務局
あなたの認識は知りませんが、先例として確立したものである以上は、従うべきでしょう。
そんなことでは、この法案は受理できませんからね!

ナレーター
そうこうするうちに、衆議院が解散されてしまいました(6月18日)。
あうあうあうあうあうです!
衆議院が解散されてしまったです!
私が審議して欲しかった法案は、審議手続されないままになってしまったです!

衆議院議員A
先例なんかを理由にして、法案を受理しないなんてヒドいよね。
衆議院議員B
ですです!
私は訴えるです!

衆議院議員A

ナレーター
国会議員のナカちゃんは、このような議員の発議権を制約する先例そのものが違憲違法であり、この取り扱いによって精神的苦痛を被ったとして、国家賠償を求めて訴えました
 






そこまでで、いいわ。

この事件の争点は、大きく2点あるところだけれど、今日の勉強会との関係では、次の内容になるわ。
すなわち、議院における法律案受理手続きの違法を理由とする国家賠償請求は法律上の争訟といえるか
ってことね。  
うーん、議院自律権があるからダメなんじゃないの?
この争点に対する裁判所の判断は、次のものだわ。

控訴人の本訴請求は、前記のとおり国家賠償法に基づく損害賠償請求として金100万円の慰謝料及び民法所定の遅延損害金の支払を求める金銭請求であり、衆議院事務局が本件法律案について受理法律案の取扱いをしなかったことの違法性の存否、更にはその前提としての本件先例の存否及びその存在が認められる場合の本件先例そのものの違法性の存否等、前記議院の自律権能をめぐる問題は、本訴請求の前提問題であるにすぎず、これらの問題を直接の訴訟の目的とするものではない。

 そして、後に述べるように、右前提問題そのものについて衆議院の自律性を尊重するべき観点等から裁判所の審判権が及ばない場合においても、右前提問題に裁判所の審判権が及ばないとされる結果、当該違法性の存在について判断し得ない(当該違法性の立証がない場合と同視される。)ことを前提に請求の当否を判断すれば足りるものである。

 そうすると、本件訴訟は
裁判所法第三条にいう「法律上の争訟」に当たらないものであるとはいえず、本件請求が裁判所の審判の対象となり得ないものであるということもできない。
 したがって、本件訴えが不適法であるという被控訴人の主張は採用することができない
むむむ?
議院における議案受理手続の違法を訴える訴訟は法律上の争訟にあたるって言ってるね。 
そうね。
判決文にある
後に述べるように、右前提問題そのものについて衆議院の自律性を尊重するべき観点等から裁判所の審判権が及ばない場合においても、右前提問題に裁判所の審判権が及ばないとされる結果、当該違法性の存在について判断し得ない(当該違法性の立証がない場合と同視される。)ことを前提に請求の当否を判断すれば足りるものである。
 そうすると、本件訴訟は
裁判所法第三条にいう「法律上の争訟」に当たらないものであるとはいえず、本件請求が裁判所の審判の対象となり得ないものであるということもできない。
という部分よね。

裁判所の判断の及ばない事項が、本件請求の大前提となっているとしても、それをもって、訴え全体を不適法却下とはしない、ということを言っているわけよね。 
ふむふむ・・・。
一応、話は聞いてやるから言ってみろってことだね。
どんな感じの悪い裁判所よ、それは。
そして、判決文は、次のように続くわ。

国会は、国権の最高機関であり、国の唯一の立法機関である(憲法第41条)。
 そして、
憲法は、立法権を衆・参両議院をもって構成される国会に(憲法第41、第42条)、行政権を内閣に(同第65条)、司法権を裁判所に(同第76条)それぞれ帰属させ、権力分立の原理に立つことを明らかにしているところから、各議院は、議院の組織、議事運営、その他議院の内部事項に関しては、他の国家機関から干渉、介入されることなく自主的に決定し、自ら規律する権能(いわゆる議院の自律権)を有していると認められる

 
憲法が、各議院に、議長その他の役員選任権(第58条第1項)、会議その他の手続及び内部の規律に関する規則制定権、議員懲罰権(同条第2項)、議員の資格争訟の裁判権(第55条)を規定しているのはこの趣旨に出たものと解され、国会法も、憲法の規定を受けて、議事運営における各議院の自主的な決定権を広範囲に認めている(国会法第55条以下)。

 したがって、議院の自律権の範囲内に属する事項について議院の行った判断については、他の国家機関が干渉し、介入することは許されず、当該議院の自主性を尊重すべきものと解するのが相当である。

 当事者間の具体的権利義務ないし法律関係の存否をめぐる訴訟の前提問題として議院における法律の議決の有効、無効が争われた事案につき、最高裁判所が、当該法律が「両院において議決を経たものとされ適正な手続によって公布されている以上、裁判所は両院の自主性を尊重すべく同法所定の議事手続に関する所論のような事実を審理してその有効無効を判断すべきでない」と判示したのは(前記・警察法改正無効事件判旨)、まさにこの趣旨を示したものというべきであり、この理は、衆議院における議員の発議にかかる法律案の受理手続の適法性が争われている本件にも妥当するものというべき
である。
あぁ、これはさっき見た警察法改正無効事件規範だね。
適正な手続きに則ってなされたものである以上、その判断の是非については、議院自律権を尊重する以上、裁判所は口出ししませんよってことだね。 
まぁ、すっごくザックリ言うと、そうなるわね。

そして、先例について、本件で問題となった先例が確立されたものであることを認定して、こう述べているわ。

そうだとすれば、裁判所としては、衆議院の右自律的判断を尊重すべきであって、本件法律案につき受理法律案としての取り扱いをしなかったことについて独自に適法、違法の判断をすべきではなく、その結果、本件では国家賠償法1条1項にいう『違法』が認められないことになるから、原告の本訴請求は理由がないというべきである

とね。 
いや、それ、あたしが先に言った結論じゃないの。
ソレは、あんたがフライング気味に言っちゃっただけじゃないのよ。
判決文の途中途中に割り込んでくるし、判決文は一気に読ませてよね! 
いや、グリーンマイルになると読む気が失せるから、あたしなりに対処方として考えた結果だお。 
警察法改正無効事件と、同様の判断枠組みを捉えるという意味では、見ておくといいかなって思って紹介したげたのに。 
似たような判例、幾つも見せてんじゃねぇよ、とマヂレス。
え? 今、なんて?  
  ううん。
あたし、なんも言ってないお。
ホント、ホント。
  (ジトォ〜)
  ほらっ!
コッチ見ないのっ!!

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