最大判昭和33年12月24日 〜国有境内地処分法事件〜 |
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それじゃ、配役から伝えるわね。 係争の目的となった土地と関連して この土地の明渡しを求めたお寺を、ナカちゃん。 この土地を占有していた方を、サル。 国を、つかさちゃん。 ナレーターを、私が務めるわね。 |
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ナレーター |
この問題は歴史的沿革が、その背景にあります。 かつての明治政府は、中央集権事業の一つとして、諸侯によって治められていた領地・領民を、天皇に返還することを求めます(いわゆる版籍奉還)。 この際、旧来のままであった社寺領が、藩領整理上で障害となったわけですが、明治政府は、社寺が買い取った境内地等を除き、民有の証拠がないものについては、全て官有地としました。 その後、国有財産法(当時)24条によって、寺院境内地の無償貸付が進められました。 しかし、戦後の日本国憲法は政教分離原則を打ち出します。 この原則から、寺院境内地を無償貸付としていた国有財産法は全面改正されることとなり、国有境内地処分法が制定されました。 同法によれば、社寺境内地で、国有財産法によって無償貸付されていた土地の譲与が可能とされ、不譲与であっても、宗教活動に必要な土地については、時価の半額で売り払うことが出来るものとされました。 |
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お寺の境内として、この土地は必要です! 国有財産法24条は、寺院境内地について無償貸付を認めているです! 私は、この土地の無償貸付を求めるです! (明治初年頃) |
お寺 |
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国 |
わかりました。 求められた土地については、おたくのお寺の境内地として無償貸付しますね。 |
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助かるです! それじゃ、境内には建物も設けるです! |
お寺 |
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ナレーター |
しかし、その後、この境内の建造物は、太平洋戦争の戦火によって焼失してしまいました。 (昭和20年3月) そこに、一人の男が現れます・・・。 |
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不法占有者 |
いやぁ、戦争で家を失っちゃったよぉ。 もう焼け野原で参っちゃうよねぇ。 あ、このあたりは随分と広いじゃないのよ。 よし! あたしは、ここから再出発すんお! 戦後復興のためにも、あたしは頑張るんだお!! (境内地に、木造平屋の工場等を建築し敷地58坪を占拠) |
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あうあうあうあうです! 悲惨な戦争だったです! でも泣いてばかりもいられないです! 国有財産法が全面改正された(=国有境内地処分法が制定)わけですし、改めて、境内地の無償譲与の申請を国にするです! (昭和23年1月) |
お寺 |
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国 |
申請された土地ですが、その土地には、既に占有されている方(=サル)がいますので、その方が占有されている部分を除いた土地について譲与の許可を出しますね。 (昭和26年4月) |
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ソレでは困るです! あの土地は、代々、私のお寺が境内として使用継続してきた土地です! 訴願を申し立てるです! |
お寺 |
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国 |
それでは、あの土地については、お寺(=ナカちゃん)と、占有者(=サル)との訴訟をして、その結果、お寺が勝訴される(=勝訴判決確定)か、判決確定前であっても、占有者の方が、あの土地上の建物を撤去し、お寺に明渡したときには、お寺に譲与を許可することにします。 (裁決 昭和26年7月) |
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ワカッタです! それじゃ、私はあの土地の明渡しを求めて訴えるです! えーっと、その法律構成は・・・あの方(=サル)はなんらの権原なく、あの土地を占拠していることから、不法占拠者です! ということは、国は、不法占拠者に対して、所有権に基づく明渡請求権を有しているです! 他方、私は、あの土地を境内として使用する使用権が、あの方の占拠によって妨げられているです! この権利に基づいて、国の明渡請求権を代位行使し、あの方に対して、建物を取壊して、土地を明け渡すことを求めるです! |
お寺 |
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不法占有者 |
はぁ!? ナニ言ってんだお!! 戦前の話なら、いざ知らず、今はもう戦後なんだよ!! 政教分離原則を具体化した憲法89条は、宗教上の組織・団体への公金支出を禁止してんのを知らないの? 宗教上の組織であるお寺に、国有財産である土地を無償で貸し付けるなんて国有境内地処分法が、そもそも憲法89条に違反してんだお! ってことは、その憲法89条違反の法律である国有境内地処分法による使用権なんてのは、認められないんだお! |
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そこまでで、いいかな。 | ||
まぁ、あたしが不法占拠してんのは、毎度のことなんだけど、これ不法占拠ではあるけど、違憲主張自体は、結構説得力ある気がすんだけどなぁ。 | ||
そうかもね。 サルの最後の主張が、そのまま争点になるわけなんだけど、一応整理しておくわね。 本件の争点は 国有地の社寺等への譲与を規定した国有境内地処分法は、政教分離原則を具体化した憲法89条違反になるのではないか? ということになるわね。 |
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あたしは、あたると思うお! | ||
それじゃ、判決文を見てみましょうか。 『社寺等に無償で貸し付けてある国有財産の処分に関する法律(昭和二二年法律五三号により改正された昭和一四年法律七八号)において、国有地である寺院等の境内地その他の附属地を無償貸付中の寺院等に譲与又は時価の半額で売り払うことにしたのは、新憲法施行に先立つて、明治初年に寺院等から無償で取上げて国有とした財産を、その寺院等に返還する処置を講じたものであつて、かかる沿革上の理由に基く国有財産関係の整理は、憲法89条の趣旨に反するものとはいえない。 この点に関する原判示は正当である。 又前記法律附則10条2項において,譲与又は売払をすることに決定したものについては、旧国有財産法24条の規定は、その譲与又は売払の日まで、なおその効力を有すると定められたのも、前記国有財産の整理に関する一連の経過規定であつて、すなわち、過渡的手段としてとられた立法措置に外ならないから、同条を以て憲法89条に違反するものとはいえない。 そして、右法律附則10条2項の規定は、譲与又は売払の申請がなされている土地については、その譲与又は売払の日までは、なお旧国有財産法24条の規定の効力が存続し、すなわち、無償貸付関係は継続する趣旨であると解すべきところ、本件について原判決の引用する第一審判決の確定した事実関係によれば、昭和23年1月5日被上告人のなした無償譲与の申請が不許可となり、これに対し訴願を申立てた結果同年7月31日付をもつて、前記行政処分が取消され「本件土地については、原告と被告等の本件訴訟において原告勝訴の判決が確定した後又は右判決確定前において本件土地上に所在する本件建物が完全に撤去され右土地が原告に明渡されたときは、これを原告に譲与する旨の裁決がなされた」と、いうのであるから、前記法律附則10条2項によつて右譲与の日まで国の被上告人に対する本件土地の無償貸付はなおその効力を有し、したがつて被上告人は、その使用権を有するものと解するを相当とする。』 と述べられているわね。 |
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あらら・・・。 違憲判決を期待したんだけど違うんだ・・・。 |
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学説には違憲説もないわけではないけれど、合憲説の理解が一般的ね。 その理由だけれど、判決が述べるように 『新憲法施行に先立つて、明治初年に寺院等から無償で取上げて国有とした財産を、その寺院等に返還する処置を講じたものであつて、かかる沿革上の理由に基く国有財産関係の整理は、憲法89条の趣旨に反するものとはいえない』 とする、特殊な沿革的理由が、この問題の背景にあることが挙げられるわね。 |
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そかそか・・・。 言われてみれば、そもそも政策によって召し上げた土地なんだからってことかぁ。 |
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ただ、近時の有力説は、この『沿革上の理由』ではなく、むしろ、この経緯を踏まえつつも、国有境内地処分法を、信教の自由と政教分離原則とを調和させる趣旨の法律であると解しているみたいですね。 つまり、国有境内地の無償貸付を認めないことになれば、無償貸付を受けていた社寺等の宗教活動や、その活動基盤に大きな影響が出ることとなってしまいますよね。 その観点から、両者の調和を求めた国有境内地処分法の合憲性を認めているということになります。 |
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ふむふむ。 歴史的沿革だけではなく、信教の自由と政教分離原則とのバランスが、合憲性を認める理由ってことだね。 チイは、コッチの考え方の方がシックリ来るなぁ。 |
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そうね。 サルは、違憲だと思うって言ってくれたのは、良かったけれど、結論ではなくって、何故そう考えるのか、ってことの方が大事だからね。 |
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細けぇこたぁいいんだお! | ||
いいわけないでしょっ!! ソレが大事って言ってんだからっ!! |
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ウキっ! |