最高裁平成10年12月1日大法廷決定
〜寺西事件〜
この事件が、寺西事件と呼ばれているのは、この裁判の原告となった方が、寺西和史という名前の判事補(当時)の方だったからなのよね。

それじゃ、配役からね。
寺西判事補を、ナカちゃん
寺西判事補の赴任していた仙台地方裁判所の所長を、つかさちゃん
ナレーターを、私が務めるわ。
令状によって盗聴を可能とする組織的犯罪対策法案盗聴法案とも呼ばれる)には、私は反対です!
寺西判事補 
  とぅるるるるん
とぅるるるるん
 
むむ? です!
電話です!
え? 近々行われる組織的犯罪対策法案反対する市民集会に、パネリストとして参加して欲しいって話ですか? です!
ワカッタです!
反対する立場として、パネリストとして意見を言うです!

寺西判事補

仙台地方裁判所所長
ちょっといいかな。  
  なんですか? です!
寺西判事補

仙台地方裁判所所長
君は、今度開催される組織的犯罪対策法案に反対する市民集会にパネリストとして参加するそうだが、そのような行為は、裁判所法52条1号に抵触するおそれがある。

第52条 (政治運動等の禁止)  
 裁判官は、在任中、左の行為をすることができない。
1号 国会若しくは地方公共団体の議会の議員となり、又は積極的に政治運動をすること。


との規定の『積極的に政治活動をすること』にあたるおそれがあるわけだからね。
となると、懲戒処分を受ける可能性も考えられるわけだし、自重してもらいたい警告)。
  ワカッタです!
寺西判事補

ナレーター
警告を受け、寺西判事補は、市民集会にパネリストとして参加することを断りました
市民集会当日、反対集会の会場に、寺西判事補は、一般参加者として出席しました。
発言させてもらうです!
 仙台地方裁判所判事補をしております寺西というです!
 今日は、本来であればバネリストとして参加するところでしたが、所長から懲戒処分の対象となるとの警告があったので、ソチラは辞退させて頂いたです!

 私は、この法案には反対の立場です!
 個人的には、このような発言をしたとしても、積極的政治活動にあたるとは思わないですが、パネリストとしての発言は辞退させてもらったです!」

寺西判事補

仙台地方裁判所所長
君・・・。
私の言葉が伝わっていなかったのかね・・・。
大変、遺憾ではあるが、君を分限裁判にかけさせてもらうよ。
一般参加者として発言しただけです!
私は、裁判官として処分を受けるようなことはしていないです!

寺西判事補

ナレーター
しかし、分限裁判の結果、寺西判事補は、裁判所法49条所定の職務義務違反を理由に戒告処分とされてしまいました。
納得いかないです!
抗告するです!
私は『積極的に政治活動はしていないです!
それに、そもそも積極的な政治活動を禁止することは、裁判官の表現の自由を侵害するもので認められないと思うです!

寺西判事補
 






はい、そこまでね。
  熱い人だね。
寺西判事補。
今は、判事補じゃないから寺西裁判官って呼ぶべきだけどね。
ほむほむ。
これは、最高裁の判断が気になるところだね。
ドッチなんだろ・・・。
最初にも伝えたと思うけれど、この事件は猿払事件、本件、堀越事件とつながっていく、公務員の表現の自由が問題となった判例として、極めて重要判例の一つだわ。

本来なら、ここで猿払事件判例検討もしたいくらいなんだけど、話がズれてしまうから、ここでの検討は、この寺西事件だけになってしまうんだけど、その分、しっかり読み込んでおきたいって思っているからね。
・・・ということは、ソレはグリーンマイル宣言と思っていいのでしょうか?
私、サルのいう、その言葉に付き合う気はないからね?

ただ、都度、都度、注釈を入れて、読みやすくなるよう配慮はするつもりだから心配しなくていいと思うわ。

それじゃ、まずは決定文を見る前に、本件の争点からね。

本件の争点は、寺西判事補役のナカちゃんが、最後に主張していた部分ね。

つまり、裁判所法52条1号にいう積極的に政治活動をすることとは、どのような行為をいうのか
そして、仮に、そうであったとして、そのような行為を禁止することは、表現の自由を保障した憲法21条1項に反するものなのではないか

という点ね。
しっかり決定文読むなんて、なんかドキドキするね。
・・・あたしは、違う意味でドキドキしている。
短くなりますように、短くなりますようにっ!!
それじゃ行くわね。

「積極的に政治運動をすること」の意義及びその禁止の合憲性
1 
憲法は、近代民主主義国家の採る三権分立主義を採用している。
 その中で、司法は、法律上の紛争について、紛争当事者から独立した第三者である裁判所が、中立・公正な立場から法を適用し、具体的な法が何であるかを宣言して紛争を解決することによって、国民の自由と権利を守り、法秩序を維持することをその任務としている。

 このような司法権の担い手である裁判官は、中立・公正な立場に立つ者でなければならず、その良心に従い独立してその職権を行い、
憲法と法律にのみ拘束されるものとされ(憲法76条3項)、また、その独立を保障するため、裁判官には手厚い身分保障がされている(憲法78条ないし80条)のである。

 裁判官は、独立して中立・公正な立場に立ってその職務を行わなければならないのであるが、外見上も中立・公正を害さないように自律、自制すべきことが要請される。

 司法に対する国民の信頼は、具体的な裁判の内容の公正、裁判運営の適正はもとより当然のこととして、外見的にも中立・公正な裁判官の態度によって支えられるからである。』

公務員の表現の自由が問題となることは少なくないわ。
本件でも、
裁判官という公務員の表現の自由が問題となっているわけなんだけど、判例単に「公務員」という一括りで捉えているわけではないわけね。
まず、ここでは
「公務員」のうち「裁判官」とは、どのようなものか、ということを、しっかり認定しているわ。

『司法に対する国民の信頼は、具体的な裁判の内容の公正、裁判運営の適正はもとより当然のこととして、外見的にも中立・公正な裁判官の態度によって支えられる

としているわよね。

つまり、裁判という裁判官の職務の上での公正さ等だけではなく、外見的にも、中立・公正な態度・・・いうなれば、中立・公平な裁判官像を保たなければならない、としているわけ。
アイドル像みたいなものか・・・。
アイドルに対するファンの信頼は、ステージ上でのパフォーマンスは当然、外見的にも清純なアイドル像が保たれなければならないってことなんだな。きっと。
お泊り熱愛報道や、喫煙スキャンダルは、駄目ってことなんだよね。 
ナニ、そのどうでもいい相づちは・・・。
続けるわよ?

したがって、裁判官は、いかなる勢力からも影響を受けることがあってはならず、とりわけ政治的な勢力との間には一線を画さなければならない。

 そのような要請は、司法の使命、本質から当然に導かれるところであり、現行
憲法下における我が国の裁判官は、違憲立法審査権を有し、法令や処分の憲法適合性を審査することができ、また、行政事件や国家賠償請求事件などを取扱い、立法府や行政府の行為の適否を判断する権限を有しているのであるから、特にその要請が強いというべきである。

 職務を離れた私人としての行為であっても、裁判官が政治的な勢力にくみする行動に及ぶときは、当該裁判官に中立・公正な裁判を期待することはできないと国民から見られるのは、避けられないところである。

 身分を保障され政治的責任を負わない裁判官が政治の方向に影響を与えるような行動に及ぶことは、右のような意味において裁判の存立する基礎を崩し、裁判官の中立・公正に対する国民の信頼を揺るがすばかりでなく、立法権や行政権に対する不当な干渉、侵害にもつながることになるということができる


そして、裁判官とは、ここに述べられるような強い権限を有している者であるから、このような強い要請が働くものなのだと述べているわけね。
そして、

これらのことからすると、裁判所法52条1号が裁判官に対し「積極的に政治運動をすること」を禁止しているのは、裁判官の独立及び中立・公正を確保し、裁判に対する国民の信頼を維持するとともに、三権分立主義の下における司法と立法、行政とのあるべき関係を規律することにその目的があるものと解される

として、次に争点となった『積極的に政治活動をすること』の定義を述べているわ。

「積極的に政治運動をすること」とは、組織的、計画的又は継続的な政治上の活動を能動的に行う行為であって、裁判官の独立及び中立・公正を害するおそれがあるものが、これに該当すると解され、具体的行為の該当性を判断するに当たっては、その行為の内容、その行為の行われるに至った経緯、行われた場所等の客観的な事情のほか、その行為をした裁判官の意図等の主観的な事情をも総合的に考慮して決するのが相当である。

とね。 
   こくこく(相づち)。
次に、憲法21条1項にいう表現の自由と、裁判所法52条1号の関係について述べているわ。

2 憲法21条1項の表現の自由は基本的人権のうちでもとりわけ重要なものであり、その保障は裁判官にも及び、裁判官も一市民として右自由を有することは当然である。

 しかし、右自由も、もとより絶対的なものではなく、
憲法上の他の要請により制約を受けることがあるのであって、前記のような憲法上の特別な地位である裁判官の職にある者の言動については、おのずから一定の制約を免れないというべきである。

 裁判官に対し「積極的に政治運動をすること」を禁止することは、必然的に裁判官の表現の自由を一定範囲で制約することにはなるが、右制約が合理的で必要やむを得ない限度にとどまるものである限り、
憲法の許容するところであるといわなければならず、右の禁止の目的が正当であって、その目的と禁止との間に合理的関連性があり、禁止により得られる利益と失われる利益との均衡を失するものでないなら、憲法21条1項に違反しないというべきである。

ここで述べられている『裁判官に対し』以下の規範は、合理的関連性の基準とも呼ばれている、非常に重要な考え方になるわ。
同じく公務員の表現の自由が問題となった猿払事件でも述べられた基準であることから、猿払基準とも呼ばれるものね。

そして、右の禁止の目的は、前記のとおり、裁判官の独立及び中立・公正を確保し、裁判に対する国民の信頼を維持するとともに、三権分立主義の下における司法と立法、行政とのあるべき関係を規律することにあり、この立法目的は、もとより正当である。

 また、裁判官が積極的に政治運動をすることは前記のように裁判官の独立及び中立・公正を害し、裁判に対する国民の信頼を損なうおそれが大きいから、積極的に政治運動をすることを禁止することと右の禁止目的との間に合理的な関連性があることは明らかである。

 さらに、裁判官が積極的に政治運動をすることを、これに内包される意見表明そのものの制約をねらいとしてではなく、その行動のもたらす弊害の防止をねらいとして禁止するときは、同時にそれにより意見表明の自由が制約されることにはなるが、それは単に行動の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約にすぎず、かつ、積極的に政治運動をすること以外の行為により意見を表明する自由までをも制約するものではない。

 他面、禁止により得られる利益は、裁判官の独立及び中立・公正を確保し、裁判に対する国民の信頼を維持するなどというものであるから、得られる利益は失われる利益に比して更に重要なものというべきであり、その禁止は利益の均衡を失するものではない。

 そして、「積極的に政治運動をすること」という文言が文面上不明確であるともいえない
ことは、前記1に示したところから明らかである。
 したがって、裁判官が「積極的に政治運動をすること」を禁止することは、もとより
憲法21条1項に違反するものではない。

と、しているわ。
ここで用いられている『間接的、付随的な制約』という言葉は、猿払事件でも用いられたキーワードになるわ。
まぁ、同じ基準を用いているわけなんだから、同じ考え方がとられていることは自明かも知れないけれどね。
少し説明を入れておくわね。 
 
上の図を見てくれる?
意見表明そのものを制約する、ということ。
これは直接制約ということになるわ。

これに対して、意見表明に伴う行為を制約する、ということ。
これだと、間接的・付随的な制約ということになるわけね。

つまり、意見そのものを制約する直接制約ではなく、意見表明に伴う行動を制約するという間接的な制約であるからセーフだよね、ってことを言っているわけ。
・・・屁理屈に聞こえる・・・。
じゃあ、具体的に、どういう行為だったら良かったの?
って思うんだけど。
そのあたりについても、ちゃんと述べられているわ。
まだ、ちょっと先の話になるけれどね。
とりあえず、ここでは『間接的、付随的な制約とは、どのようなものかってことを説明しただけなんだから。

そうそう。
ここでは、利益衡量も図られているわね。『他面、』以下のところになるわ。その上で、得られた利益が、失われた利益よりも大であるとの認定をしているわね。

そして、
特定の法律を制定するか否かの判断は、国の唯一の立法機関である国会の専権に属するものであるところ、裁判官が、一国民として法律の制定に反対の意見を持ち、その意見を裁判官の独立及び中立・公正を疑わしめない場において表明することまでも禁止されるものではないが、前記事実関係によれば、本件集会は、単なる討論集会ではなく、初めから本件法案を悪法と決め付け、これを廃案に追い込むことを目的とするという党派的な運動の一環として開催されたものであるから、そのような場で集会の趣旨に賛同するような言動をすることは、国会に対し立法行為を断念するよう圧力を掛ける行為であって、単なる個人の意見の表明の域を超えることは明らかである

 このように、本件言動は、本件法案を廃案に追い込むことを目的として共同して行動している諸団体の組織的、計画的、継続的な反対運動を拡大、発展させ、右目的を達成させることを積極的に支援しこれを推進するものであり、裁判官の職にある者として厳に避けなければならない行為というべきであって、
裁判所法52条1号が禁止している「積極的に政治運動をすること」に該当するものといわざるを得ない。

として、『積極的な政治活動をすることになるんだよ、って、まとめているわけね。
おいおい!
さっき、その先で言うって言ってた、どんな場合なら積極的な政治活動をすることにあたらないの!?
って疑問に答えてないじゃないの!!
それは、この後だもの。
なんで、そう急かすのよ!

なお、例えば、裁判官が審議会の委員等として立法作業に関与し、賛成・反対の意見を述べる行為は、立法府や行政府の要請に基づき司法に携わる専門家の一人としてこれに協力する行為であって、もとより裁判所法52条1号により禁止されるものではない。

 裁判官が職名を明らかにして論文、講義等において特定の立法の動きに反対である旨を述べることも、その発表の場所、方法等に照らし、それが特定の政治運動を支援するものではなく、一人の法律実務家ないし学識経験者としての個人的意見の表明にすぎないと認められる限りにおいては、同号により禁止されるものではないということができる。

 また、裁判所は、司法制度の運営に当たる立場にあり、規則制定権を有していることなどにかんがみると、司法制度に関する法令の制定改廃についても、一定の意見を述べることができるものと解される。

 しかし、本件において抗告人が行ったように、特定の法案を廃案に追い込むことを目的とする団体の党派的運動を積極的に支援するような行動をすることは、これらとは質の異なる行為であるといわざるを得ない


ね?
ちゃんと、サルの疑問にも答えているでしょ?
セーフになる線引きをちゃんと示した上で、本件は、違うよね?
って言っているわけね。
  ふむ・・・。よかろう。
・・・。
(また、おかしなキャラになっているです。)
でも厳しいねぇ。
チイは、別にある特定の法案の反対集会で、意見表明をしたからって言って、裁判官像が壊れるとは思わないけどなぁ。
中立・公平な裁判官像かぁ。
むぅ。
あんまり裁判官に対して、イメージをもったことないけどなぁ。
なんか怖そう、とか、難しい顔してそう、ってイメージくらいかなぁ。
あの喪服みたいな黒い服が悪いんじゃないかな?
喪服じゃなくって、法服ね!
日本の裁判官は黒だけれど、ドイツの裁判官なんて赤い法服着ているわね。
うわ!
ド派手っ!!

うーん、こうやって見てみると、やっぱり黒い法服? 黒い法服の方が威厳があるイメージかなぁ。
別府裁判官(ドラマ『リーガルハイ』)も言っていたもんね。
『私は この黒い法服が世界の誰よりも似合うと自負しています。』って。
確かに、アレはよく似合っていた。
別府裁判官役の広末が、通常の2割増で綺麗に見えた。
まだ一緒に見てないのに、ドラマの話はしちゃダメですぅ!
うわ・・・あたしの表現の自由が制約されとる・・・。
裁判長っ!!
このような表現の自由の侵害は認められるんですか!!
誰が裁判長よ?  

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