最判平成19年9月28日 〜学生無年金障害者訴訟〜 |
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それじゃ、事案再現の配役を発表するわね。 障害を負った学生を、チイちゃん。 国(社会保険庁)を、つかさちゃん。 ナレーターを私が務めるわね。 |
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ナレーター |
本件事件の原告らは、いずれも大学在学中の20歳以上の時点で事故等により障害を負った方々でした。 | |
えーん、えーん! 事故に遭って、障害を負っちゃったよぉ。 悲しいけど、こんなことに負けてられないよ! あ、でもチイは障害者だから、障害年金が貰えるんだよね。 ようし、ここから生活を立て直して、また頑張るよ! |
障害を負った学生 |
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東京都知事さん! チイは、事故で障害を負ってしまったので、障害基礎年金の裁定請求を御願いしたいよ! |
障害を負った学生 |
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国 |
不支給処分とさせていただきます。 | |
え? なんで、なんで? チイは、障害者なんだよ!? |
障害を負った学生 |
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ナレーター |
国民年金法は、昭和34年制定時から、平成元年の改正まで、学生等については強制適用対象外とされていました。 (※ 任意加入制度のみ可能) 初診日に、国民年金加入者であれば、一定の障害状態にあることが認められれば保険料拠出等を条件に障害基礎年金が受給されました。 また、国民年金未加入であっても、20歳前であれば、障害基礎年金が支給されることとなっていました。 しかし、学生だけは、この国民年金制度からは取り残されていたのです。 学生等については強制適用対象外とされていましたが、その理由は、学生という身分である以上、収入がないことが前提となるため、国民年金制度の対象外とされていたわけです。 もちろん、任意に加入することは可能でしたが、その場合は、保険料免除がないため全額納付しなければならないという厳しいものだったため、現実問題として、学生の約98%は加入していませんでした。 |
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国民年金未加入だから受給資格がないなんてヒドいよ! 20歳前だったら同じ未加入でも障害基礎年金は貰えるんでしょ? 学生なんて、みんな(98%未加入)国民年金未加入なのに、それで一生涯障害年金が貰えないなんてヒドいよぉ! ちゃんと審査してよぉ! |
障害を負った学生 |
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国 |
審査しましたが、棄却させて頂きます。 | |
もういいよぉっ! それならチイは裁判で訴えるよ! 学生を、強制適用対象外にして、その結果、障害基礎年金の支給対象としなかったことは憲法25条(生存権・国の社会的使命)、憲法14条(法の下の平等)に反するよ! だから、不支給処分なんて取り消すべきだよ! そして、こんなヒドい国民年金制度しかないなんて、おかしいよ! コレは国が適切な立法措置をとってこなかったせいだよ! だから、立法不作為による国家賠償を求めるよ! |
障害を負った学生 |
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そこまでで、いいわ。 | ||
あたし、この事件知らなかったけど、確かに、コレはヒドいね。 障害を受けて、その初診日において大学生だったら、障害基礎年金が一生もらえないってことになるわけだもんね。 学生の間に障害を負ったら、それだけの理由で、一生障害年金がない生活を送らないといけないなんて、もう踏んだり蹴ったりの話だよね。 |
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そうよね。 まぁ、あまり感情的にならず、この事案の争点と、判例の考え方を理解することに努めて欲しいって思うんだけど。 争点としては、チイちゃんの最後の主張部分になるわね。 改めて、ここで述べることは割愛させてもらうわね。 憲法の人権(社会権、生存権)のところで取り上げる判例でもあるんだけれど、ここで立法不作為のBの類型の場合の扱いについて見るということで紹介させてもらうことにしたわ。 |
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あ、そか、そか。 そうだった。 いかん、いかん。 どうも事案を聞いてまうと、どうなるんだろ、的な目線になってまうんだよなぁ、あたし。 |
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藤さんは、人一倍感受性が強い方ですからね。 でも、そんな優しい藤さんが大好きです! |
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・・・。 (黒田先輩も、藤先輩から違うモノを人一倍感受しているです・・・。 普段はすごく冷静で、バランスもあるというのに、一体全体どういうことなんでしょうか。) |
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それじゃ、判決文を見ていくわね。 『平成元年改正前の法の下においては、20歳以上の学生は、国民年金に任意加入して保険料を納付していない限り、傷病により障害の状態にあることとなっても、初診日において国民年金の被保険者でないため障害基礎年金等の支給を受けることができない。 また、保険料負担能力のない20歳以上60歳未満の者のうち20歳以上の学生とそれ以外の者との間には、上記の国民年金への加入に関する取扱いの区別及びこれに伴う保険料免除規定の適用に関する区別(以下、これらを併せて「加入等に関する区別」という。)によって、障害基礎年金等の受給に関し差異が生じていたことになる。』 として、先ず区別(=差異)があったことを認定しているわね。 そして、 『国民年金制度は、憲法25条の趣旨を実現するために設けられた社会保障上の制度であるところ、同条の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講じるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱、濫用とみざるを得ないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない事柄であるといわなければならない。 もっとも、同条の趣旨にこたえて制定された法令において受給権者の範囲、支給要件等につき何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いをするときは別に憲法14条違反の問題を生じ得ることは否定し得ないところである(最高裁昭和51年(行ツ)第30号同57年7月7日大法廷判決・民集36巻7号1235頁参照)。』 として、堀木訴訟(最大判昭和51年7月7日)を紐解き、裁判所の立場を述べているわね。 堀木訴訟については、また憲法の人権のところで改めて判例検討の機会を持てればって思っているわ。 この事件での原告は、憲法25条(生存権・国の社会的使命)だけではなく、憲法14条(法の下の平等)違反を主張しているわ。 この14条を問題とする主張が出てきた際には、ナニとナニの区別が問題になっているのかを、しっかり確認することが大事になってくるわ。 事実、本件判決文においても、先ずこの区別の認定から入っているのは、そのためね。 あと、少し余談になるかも知れないんだけど、25条については 『国民年金制度は、憲法25条の趣旨を実現するために設けられた社会保障上の制度であるところ、同条の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講じるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱、濫用とみざるを得ないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない事柄であるといわなければならない』 とあるように、国に広い裁量が認められているわ。 そのため、訴訟においても、勝ちにくいということは言えるわけよね。だから、単純に25条違反だけを主張しても厳しいといえるわ。 そこで、14条違反も主張しているわけよね。 |
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裁量か・・・。 行政法の勉強会を思い出すなぁ。 |
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そうね、行為の性質がどのようなものか、そして、その行為についての行政の裁量の広狭は、という視点は、行政法でも求められる視点だものね。 そうやって関連付けて考える姿勢は大事よ。 |
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こくこく(相づち)。 | ||
そして、次に続くわ 『平成元年改正前の法が、20歳以上の学生の保険料負担能力、国民年金に加入する必要性ないし実益の程度、加入に伴い学生及び学生の属する世帯の世帯主等が負うこととなる経済的な負担等を考慮し、保険方式を基本とする国民年金制度の趣旨を踏まえて、20歳以上の学生を国民年金の強制加入被保険者として一律に保険料納付義務を課すのではなく、任意加入を認めて国民年金に加入するかどうかを20歳以上の学生の意思にゆだねることとした措置は、著しく合理性を欠くということはできず、加入等に関する区別が何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いであるということもできない。』 として、 『平成元年改正前の法における強制加入例外規定を含む20歳以上の学生に関する上記の措置及び加入等に関する区別並びに立法府が平成元年改正前において20歳以上の学生について国民年金の強制加入被保険者とするなどの所論の措置を講じなかったことは、憲法25条、14条1項に違反しない。』 と、しているわ。 そして、 『無拠出制の年金給付の実現は、国民年金事業の財政及び国の財政事情に左右されるところが大きいこと等にかんがみると、立法府は、保険方式を基本とする国民年金制度において補完的に無拠出制の年金を設けるかどうか、その受給権者の範囲、支給要件等をどうするかの決定について、拠出制の年金の場合に比べて更に広範な裁量を有しているというべきである。 また、20歳前障害者は、傷病により障害の状態にあることとなり稼得能力、保険料負担能力が失われ又は著しく低下する前は、20歳未満であったため任意加入も含めおよそ国民年金の被保険者となることのできない地位にあったのに対し、初診日において20歳以上の学生である者は、傷病により障害の状態にあることとなる前に任意加入によって国民年金の被保険者となる機会を付与されていたものである。 これに加えて、前記のとおり、障害者基本法、生活保護法等による諸施策が講じられていること等をも勘案すると、平成元年改正前の法の下において、傷病により障害の状態にあることとなったが初診日において20歳以上の学生であり国民年金に任意加入していなかったために障害基礎年金等を受給することができない者に対し、無拠出制の年金を支給する旨の規定を設けるなどの所論の措置を講じるかどうかは、立法府の裁量の範囲に属する事柄というべきであって、そのような立法措置を講じなかったことが、著しく合理性を欠くということはできない。 また、無拠出制の年金の受給に関し上記のような20歳以上の学生と20歳前障害者との間に差異が生じるとしても、両者の取扱いの区別が、何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いであるということもできない。 そうすると、上記の立法不作為が憲法25条、14条1項に違反するということはできない。』 として、そもそも立法裁量の範囲内の問題であるとして、 『著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱、濫用とみざるを得ないような場合』 でなければ、 『裁判所が審査判断するのに適しない事柄である』 として、本件は立法裁量の範囲内の問題であると認定しているわけね。 イメージ図のBの類型の権利の場合、このように国の裁量が広いため、入り口でストップさせられてしまう、ということもあるということね。 同じ立法不作為を争う事案であっても、まずは侵害される権利がナニか、という視点が重要といったのは、このためね。 再度、イメージ図を示しておくから、このイメージを大事にして欲しいわ。 |
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学生無年金の人たちは、どうなるんだお! コレは、どげんとせんといかん問題やないかお! |
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その気持ちはワカルわ。 この問題の推移については、興味があるなら見てみるといいんじゃないかしら。 |
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チイは、こんな重大な事件も知らなかったよぉ。 勉強していくと、社会が抱える様々な問題も見えてくるんだね。 チイはもっともっと勉強して、色々な問題を知って、考えられるようになりたいよ! |
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よくぞ言ったお! それでこそ、あたしの妹だお! |
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オネーちゃんも一緒に頑張ろうね! | ||
『だが断る!』 | ||
えぇぇぇぇぇっ!! | ||
・・・。 (ダメだ、こいつ。 早くなんとかしないと・・・です。) |