正当防衛B 成立要件 | ||
正当防衛の成立要件を今日で最終回にするわね。 まずは、条文の確認と、正当防衛の成立要件の再確認からね。 六法で正当防衛を定めている刑法36条を見てくれる? |
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刑法第36条。 『(正当防衛)第36条 1項 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。 2項 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。』 |
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はい。ナカちゃん、いつもありがとね。 そして、正当防衛が成立するための要件は、次のものよね。 @『急迫』の『侵害』 A『不正』の『侵害』 B『自己又は他人の権利』 C『防衛するため』 D『やむを得ずにした行為』 今回は、最後に残ったD『やむを得ずにした行為』について理解することにするわね。 |
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ぶっちゃけ、この勉強会そのものじゃね? 『やむを得ずにした行為』・・・。 ホントは遊びたいけれど、期末試験もあるし、GPAも怖いから、やむを得ずにやっています・・・ってことだもんね。 |
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だ、だ、ダメだ、こいつ・・・ なんとかしないと・・・です・・・。 ハッ! あまりの藤先輩の発言に思わず、口に出して言ってしまったです! |
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ふ、ふ、藤さん・・・。 日々の勉強に疲れてみえるんですね・・・。 『過ぎたるは猶及ばざるが如し』と言いますし、少しお休みになられるというのも、いいかと思います。 |
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・・・ナカちゃんの気持ちはワカルわ。 ホント、なんてこと言い出すのかしら、このサルだけは・・・。 あんた、一体なんのためにロースクールに来たのよ。 さてさて。D『やむを得ずにした行為』ですが。 防衛行為は、客観的に侵害者の法益侵害に対する反撃として行われる行為であることを要するわけよね。 正当防衛は、この後の勉強会で学ぶ緊急避難と異なり『不正な侵害』に対する反撃が正と評価される(不正 対 正 という関係)ので、ここにいう『やむを得ずにした行為』とは、他にとるべき手段がないことを意味するものではないわ(補充性要件不要)。 例えば、逃げられる状況にあっても反撃することは、正当防衛の成立を否定するわけではないってことよね(退避義務なし)。 でもっ! 防衛行為は、侵害を排除するために必要な限度で許され(必要性)、法益の侵害・危険が最小限度であることを要するわ(相当性)。 また、反撃行為によって生じた結果が、たまたま侵害されようとした法益より大きくなっても正当防衛は認められるけれど、著しく均衡を失する場合には、過剰防衛となってしまうわね。 まとめると、D『やむを得ずにした行為』には、必要性と相当性という要件があるってことになるわね。 必要性については、あまり問題にならないんだけど、相当性の要件の判断については議論も多いところね。 因みに判例は、この相当性については次のように述べているわ。 『自己または他人の権利を防衛する手段として必要最小限度のものであること、すなわち反撃行為が侵害に対する防衛手段として相当性を有するものであることを意味し、その反撃行為により生じた結果がたまたま侵害されようとした法益より大であっても』よい。 とね。 (最判昭和44年12月4日) |
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な、な、なげぇーーーーっ!!!! | ||
(無視っ!) 必要性と相当性について少し質問で考えてみる? 質問! 足が不自由で動けない豆腐屋の御主人が、豆腐泥棒にあったので銃で、豆腐泥棒を射殺しちゃいました。 さて、この豆腐屋の御主人の行為について、必要性と相当性を考えてみましょう。 |
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ちょ、ちょ、ソレ、どんな無法地帯なの!! 豆腐屋の御主人、バイオレンス過ぎんだろ、常識的に考えて! |
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藤先輩の言われることは、もっともだと思うです・・・。 ただ、質問の事案の必要性、相当性を検討するに、 豆腐屋の御主人は、足が不自由で動けないわけですから、豆腐を泥棒から守るためには、銃を使う必要があったといえるです(必要性)。 ただ、豆腐屋の御主人が、豆腐泥棒を射殺したことで保全された利益は、豆腐1丁だけです。 他方、侵害利益は、豆腐泥棒の生命です・・・。 これは、侵害利益と保全利益とに著しい不均衡があると思うです(相当性)。 つまり、相当性の要件を欠くといえることから『やむを得ずにした行為』とは言えず、正当防衛は成立しないと思うです。 豆腐屋の御主人には、殺人罪(刑法199条)が成立するです。 |
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竹中さんっ! すっごくよく検討できていますよ! たしかに正当防衛においては、害の均衡は不要とされています。 以前の勉強会の話ですと、殴られてアザを作られそうになったので、相手を骨折させた、というような場合でも正当防衛は成立する、ということでしたよね。 でも、害の均衡が不要とはいえ、著しい不均衡であれば相当性を欠くことになるわけです。 |
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うーん、どうかしら。 ワカッているか少し不安な感じがしちゃうんだけどなぁ。 じゃあ次は、この質問を考えてみてくれる? 質問! 女性(私)が駅のホームで電車を待っていたところ、酔っ払い男(サル)が来たの。 酔っ払っているサルは、しつこく私に絡んできて、私を罵ったり、遂にはコートの襟まで掴んできたので、私は「あんたなんか死んじゃえばいい!」って言ってサルを突き飛ばしたのね。 サルは酔っ払っていたこともあって、3mくらいよろめいて、その結果、ホームから線路上に転落して、やってきた電車とホームとの間に挟まれて死亡しちゃったの。 (西舟橋駅事件 千葉地判昭和62年9月17日をベースにした事案) さて、私の行為に正当防衛は成立するでしょうか? |
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・・・うわぁ、ないわぁ。 あたしは、これは殺人罪だと思うけどなぁ。 |
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私も、藤さんと同じ意見ですね。 侵害された利益は、酔っ払い男性の生命、これに対して、保全利益は、女性の身体の自由です。 これは、侵害利益と保全利益とに著しい不均衡があると思います。 したがって、相当性の要件が欠けるといえるから、正当防衛は成立しないと考えます。 |
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私も同じです。 明智先輩には正当防衛は成立しないと思うです。 |
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そう思ってくれたのなら、検討のし甲斐があるわ。 残念かも知れないけれど、この質問のベースにした西舟橋駅事件では、女性の行為について正当防衛の成立を認めているのよね。 |
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な、な、なんだってぇぇーーーっ!? ちょ、ちょ、悪ふざけ大好きなあたし、大ピンチじゃないの! ちょっと執拗に絡んだくらいで、殺されてまったなんて有り得ないって思ったら、正当防衛成立なんて、さらに有り得なくね!? |
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人の嫌がることばかりする藤先輩が悪いです・・・と思うところですけれど、正当防衛が成立するとは思いませんでした。 どうして、そのような判断になるのですか? |
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ナカちゃんや、つかさちゃんは、少し「結果」の法益間の比較衡量を重視し過ぎかな、と思うわ。 相当性の判断では、行為の選択において、法益の侵害・危険が必要最小限度であることが求められるのよね。 例えば、事案の私には、酔っ払いの男性から身を守るために取り得る選択肢として、 素手で殴る、突き飛ばす、逃げる、といった手段があるとしてよ? 先の説明のとおり、正当防衛には退避義務はないわけよね。 だから私が、逃げなくてはならない、ということにはならないわ。 そうなると、か弱い女性である私が酔っ払って執拗に絡んでくる男性を撃退して自分を守るためには、突き飛ばす、という行為をとることは必要最小限度のものと言えると思うわ。 裁判所も、女性の男性に対してとった突き飛ばすという行為について 『必要にして相応な程度を越えていたとは到底いえない』 として、相当性の要件を満たすものであるという判断を下しているわね。 |
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でも、男性を殺してしまっているわけでしょ? それでも、著しく不均衡があったってことにはならないわけ? |
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侵害回避の方法が最小限度の方法・手段であるならば、男性の死亡という結果は、その行為の後の事情なんだから、行為の相当性を否定するものではないと考えるべきじゃないかしら。 判例の考え方を、どのように理解するのか、ということだと言える問題よね。 相当性の判断をしている判例は多いから、もう少し検討してみるのもいいかもね。 ただ、いつまでも正当防衛の論点ってわけにもいかないから、まぁ、ここではコレで終わろうと思うけれど。 (※ 需要あれば、もう少し判例検討を行います。その場合は百選掲載判例を優先することになるかと思います。) |
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あ!! まだ終わってもらっては困るです!! 武器対等の原則について、まだ教えてもらっていないです! |
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あ、ホントね。 「武器対等の原則」というのは、行為の相当性の問題で論じられる考え方なのね。 この原則を考えるにあたっては「素手」対「素手」だったら、「武器対等の原則」から相当性が肯定される・・・と考えるべきではないのね。 「武器対等の原則」は、形式的に考えるのではなくって、実質的に判断すべき問題なのね。 |
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形式的ではなく、実質的・・・に判断ですか? 少しワカリづらいです・・・。 |
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ナカたん、要はアレだお。 例えば、MS 対 MS って言われると形式的には、同じモンかも知れないけど、実際は、旧ザク 対 ユニコーンガンダム だったら、どうよ? ソレは、とても対等とは言えなくね? って話だお。 |
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ちょっと、サルっ! わけのワカラナイ例えをするのは、やめてくれない? つまり、行為者、侵害者、状況・・・。 これらを実質的に判断して、行為の相当性を判断するってことなの。 例えば、次の事案において、どんな行為者、侵害者、状況であれば相当性があるといえるかを考えてみてくれる? 質問! 怒鳴りあいの口論の際に、素手の相手方からの危害を免れるため、菜切り包丁を手にとって構えた行為は、防衛手段として相当性があるといえるためには、どのような実質的な判断がなされればいいと思う? (百選T 25事件 最判平成1年11月13日をベースとした事案) |
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判例の事案を、逆に質問にされたわけですか・・・。 面白い質問だとは思いますが・・・私は、この判例を知っているので、答えは控えさせて頂きますね。 |
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えーっと・・・あぁ・・・まぁ、あ、あ、あたしも知ってるから自重しとくね。 というわけで、ナカたん、よろ。 |
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素手 対 包丁・・・という形式的な判断で武器対等の原則を考えるのではなく、実質的に判断をするんですよね。 包丁という凶器を素手の相手に対して構えた行為が、相当性を有する、つまり、最小限度の行為選択であると言えるためには・・・えーっと、えーっと。 素手の相手に対して、包丁をもつことが対等と言えればいいわけですよね。 |
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あっ! ワカッタです!! 私が、藤先輩と口論になったとしたら、包丁を持ち出しても武器対等の原則に反するとは思えないです! だって藤先輩は、常日頃から頭突きをして来るような暴力的な人です! それに対して、私は身体も弱いし、腕力はおろか体力さえも人並み以下です。おまけに身体も、藤先輩より全然小さいです! |
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ナニ、その回答はっ!? あたしはナカたんより年上だから体力的な衰えもあるかもよ? ソレに日頃から頭突きしているからって言って、別段、腕力に自信があるわけでもないしね。 それなのに、素手のあたし相手に、包丁持ち出しておいて武器対等の原則に反しないって判断なわけ? |
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いいじゃないの。 まぁ、答えとして妥当かどうかは置いておいて、ナカちゃんの検討自体は良かったと思うわ。 そうね。 例えば、お婆さんと筋骨隆々な若者。 そうであれば、この若者の素手に対して、お婆さんが棒を所持して攻撃したとしても、ソレは武器対等の原則に実質的に反するものではないと判断されると言えるわね。 年齢や、体格、格闘経験の有無、さらには、場所や時間帯(明るい、暗い)も考慮した実質的判断をもって、武器対等の原則は考えるべきと言えるわね。 |
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ワーイです! 刑法で、しっかりと考えて答えることができたです! |
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ぐぬぬぬぬぬ。 なぁぁんか不本意だお。 |
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まぁまぁ。そんな顔しない、しない。 うん。 コレで、ようやく正当防衛の成立要件は一通り確認できたわね。 次回からは、正当防衛の個別的問題について勉強することにしましょうか。 |
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え? 次は緊急避難じゃないの? |
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言ったじゃない。 正当防衛は、論点が多いわよ? って。 |
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・・・・。 |
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なにか言いたそうね。 | ||
・・・・ホラホラぁ。 死んだ魚の目だおぉぉぉ。 |
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・・・・・。 (今、気付いたのですが、私の目はハイライトのあるものがないので、終始、死んだ魚の目ということになるのでしょうか? ) |