被害者の同意A 同意の効果 推定的同意
それじゃ、違法性阻却事由である被害者の同意の効果について今日の勉強会では、まとめることにするわね。

被害者の同意の効果としては、犯罪の違法性阻却事由であることから、犯罪の成立を妨げるものとなるわ。
でも、同意の有無は決定的なものではないって話はしたわよね。
つまり、被害者の同意による行為は、必ずしもその行為の違法性を阻却するものではないってことなの。

この被害者の同意を正当化する根拠には、学説にも対立のあるところなのね。
法益性欠如説(優越的利益説)、社会的相当性説という学説があるわ。

ザックリまとめちゃうと・・・。
法益性欠如説からは、被害者の同意があれば、原則として犯罪が不成立とされるわ。
ここで「原則として」という付言がつくのは、前回条文でも確認した13歳未満の者については同意があっても尚、成立する強姦罪や、同意殺のような同意があっても成立する犯罪があるからよね。

社会的相当性説からは、被害者の同意があっても、社会的相当性を欠けば犯罪が成立する、と解されるわ。
  こくこく(相槌)
少しザックリ過ぎる気がしますので、補足しておきますと・・・。

法益性欠如説優越的利益説)からは、被害者の同意により保護すべき法益が存在しないこと、あるいは、自己決定権の価値が優越することを理由に、生命に危険のある重大な傷害を与えた場合を除き違法性を阻却する、と説かれます。

社会的相当性説からは、国会・社会倫理規範に照らして相当な場合のみに違法性を阻却する、と説かれます。

また、被害者の同意によって違法性が阻却される要件ですが、
@被害者の処分しうる個人法益に関するものであること
A同意能力のある者の真意による同意の存在
B同意が実行行為のときに存在すること(=事後の同意は無効)
C同意が外部に表明されていること(=被害者の内心だけでは足りない)
D行為の方法・程度が社会観念上是認されるものであること
E行為者が被害者の同意を認識していること

が挙げられますね。

法益性欠如説は、この要件のうち@〜Bを。
社会的相当性説は、この要件のうち@〜Eを求めることとなります。
  ひぃぃぃぃ。
補足説明なげぇーーっ!
つかさちゃん、丁寧な解説ありがとうね。
ここで特に問題となるのは、傷害罪刑法204条)における被害者の同意なのね。
というわけで、今日の勉強会では、この同意傷害について判例から、どのように考えるべきかを学ぶことにするわね。 
  面倒くさそうだなぁ・・・。
復習はしないわ、判例検討は嫌がるわ、もう少し真面目にやりなさいよね!

最初に検討する判例は、平成24年司法試験予備試験の論文でも問われた保険金詐取目的同意傷害事件を見ることにしましょうか。
最決昭和55年11月13日 百選T 22事件
試験で扱われるくらいだから、大事な事例だからね。
成程です。
判例は、被害者の同意が違法性阻却事由となるか否かについては、『同意を得た目的等、諸般の事情に照らして判断すべき』としているんですね。
次の事案では、私も答えたいです!
明智先輩、問題を御願いしたいです!
ナカちゃん、やる気ね!
それじゃ、少し難しい質問出してみようかしら。

質問

Xは、Yの依頼に応じて、快感を増すために首をしめて性行為を行ったところ、Yが死亡してしまったの。
勿論、このXには、殺意(殺人の故意)がなかったことを前提に考えて欲しいんだけど、この場合、Xには、どのような罪が成立すると思う?
大阪高判昭和40年6月7日をベースとした事案)
ナニも、そんな判例質問に出されなくても・・・。
  いわゆるSMプレイってやつかぁ。
まぁ、やり過ぎだよねぇ。
  エスエムプレイ?
ソレはなんですか? 
コレだお。
フリーソフトだから、欲しかったらダウンロードして利用すればいいお。
あんた、紛らわしい嘘つくのはやめなさいよ。
まぁ私も、説明は差し控えさせてもらいたいところだけど・・・。
 
首を絞められて死亡した相手からの要望によるものであり、かつ、首を絞めた加害者にも殺意はなかったわけよね。
殺意がなかった以上、死亡という結果に対して成立が考えられる罪状としては、過失致死か、傷害致死ということになるんだけれど。
どうかしら?
うーん、難しい問題だなぁ。
でも例え「首を絞めてくれ」って言われたからって、死ぬくらいまで絞めたからこその死亡だからなぁ。
あたしは、ナンボなんでもやり過ぎじゃね? って思うんだけどなぁ。
うーん、迷うところだけど、殺す気がなかったとしても、首絞めて人を殺してしまった以上、傷害致死になるんじゃないかなぁ?
まぁ、そう考えるべきじゃないかしら。
一審は、過失致死罪の成立にとどまるものだったんだけれど、高裁では、死亡した相手からの要望によるものであっても、そのような行為は『社会通念上許された限度を超える』として、被害者の同意による違法性阻却を否定して、傷害致死罪を成立させているのよね。 
  あうあうあうあう。
また議論に参加できなかったです!
問題の事案が、竹中さんは少し理解できなかった以上、致し方ないですよね。
光ちゃん、もう少しワカリやすい質問を出してあげて下さい。
だよねぇ。
なんでSMプレイの話なんかするんだって話だよねぇ。 
一審二審とで結論が異なる事案は、それだけ判断が難しいってことだからね。検討するのに適しているかなぁって思っただけなんだけどね。
それじゃ、次の質問はワカリやすいのにするわね。

質問

暴力団サル山組の幹部組員であるサルが、同じく暴力団サル山組の構成員であるナカちゃんに、不始末の責任のけじめとして指をつめるように言ったわけ。
組員のナカちゃんは、サルの命令に同意して、自らの指をつめたわけね。

さて。
このような暴力団員間の指つめ行為について、指をつめた被害者であるナカちゃんの同意は、傷害罪成立のための違法性を阻却すると思う?
仙台地石巻支判昭和62年2月18日をベースにした事案)
うわっ!
久々にきちゃったよ!
めっちゃ頭悪そうなサル山組の金看板っ!
  サル山組・・・って。
暴力団・・・って。
傷害罪が成立するです!
指つめ行為なんて、社会的に到底許される行為ではないです!
判例の考え方である『同意を得た目的、諸般の事情に照らして』も、けじめをとる目的として、指つめなんて手段の選択は認められるとは思えないです! 
藤先輩は、同じ組員なのに、ここでも意地悪しているです!
そうよね。
判例
被害者の同意があったとしても、被告人の行為は、公序良俗に反するとしかいいようのない指つめにかかわるものであり、その方法も全く野蛮で無残な方法であり、このような態様の行為が社会的に相当な行為として違法性が失われると解することはできない
として、傷害罪を成立させているのよね。 

先のSMプレイの場合だと、社会的不相当な同意は無効
この指つめ行為の場合だと、公序良俗に反する同意は無効
ってことで、それぞれ違法性阻却を否定しているわね。

同意傷害についての法的評価については、幾つかの事案があるところだから、どのような見地からの評価をしているのかは、しっかり見ておくといいと思うわ。
SMプレイだの、指つめ行為だの、どんだけトンでも事案を出してくれるんだお・・・。 
あたしみたいな至極まっとうな人間には、事案聞いてるだけでも酷な話だよねぇ。
人一倍正義感が強くって、お優しい藤さんならではのお悩みですよね。
分かります、分かります。
藤さんの御苦悩、お察しします!
ナニ白々しい嘘をついてんのよ・・・。

被害者の同意では、もう一つ大事な論点があるわ。
被害者の推定的同意推定的承諾)という論点ね。

被害者の推定的同意というのは、被害者の現実的な同意はないんだけれど、被害者が事情を知っていれば、当然に同意するであろうと推定される行為をいうわ。

このような行為について違法性が阻却される根拠について、学説の対立があるところなの。 
同意がないのに、同意が推定される行為・・・。
ソレは例えば、どのような行為をいうのでしょうか?
よく例に出される行為としては、意識不明者に対する外科手術よね。

このような場合の行為の違法性を阻却する根拠としての学説には、

法益衡量説・緊急避難説
   と
社会的相当性説・許された危険説

とがあるわ。

法益衡量説・緊急避難説によれば、被害者に利益放棄の意思方向があることにより、あるいは、緊急避難に準じて違法性が阻却される、と説かれるわ。

社会的相当性説・許された危険説によれば、社会的に相当な行為として、あるいは、同意が得られる蓋然性があれば許された危険として違法性が阻却される、と説かれるわね。 

そして、この被害者の推定的同意によって行為の違法性が阻却されるための要件なんだけれど、被害者の同意と、ほぼ同じ要件ではあるんだけれど、現実的な同意がない以上、さらに厳しい要件となっているのがポイントよね。

具体的には、
@被害者の同意を得ることが不可能であること(補充性の要件)
A被害者が独自の見解を有する場合には、その意思を尊重すべきこと

が求められるとされるわね。
教室事案として、このような事案がありますよね。

隣の人が留守中に、その方の部屋の水道が漏れていて、部屋が浸水しそうになっていることに気付いたので、その隣の人の部屋に立ち入って水道の元栓を締めた。
ところが、その隣の部屋の人は、たとえ自分の部屋が浸水することになろうとも家の中を誰にも見られたくなかった・・・。

このような問題を、どう考えるのか、ということですよね。
住居侵入罪刑法130条前段)が成立するかどうかって話?
でも普通、部屋が浸水しそうになっていたら、水道の元栓締めてあげるっていうのが当たり前なんじゃないの?
そうですよね。
被害者(浸水しそうになっている隣人)の方だって、事情を知っていれば同意するであろうと考えられることから、違法性阻却を肯定する、という行為無価値論的発想もありえると思います。

ただ、事後的に同意しないことが判明した以上、違法性阻却を否定する、という結果無価値論的発想もありえるところですよね。
俗にいう「小さな親切、大きな御世話」って言葉にもあらわれる考え方と言えますけれど。
うわっ!!
浸水阻止してあげたのに、ソレかよって感じしちゃうね! 
そうですね・・・。
結果無価値論的発想から違法性阻却を否定する、というのは少し酷な感じがしますよね。 
ただ、推定的同意については、被害者が独自の見解を有する場合にはその意思を尊重すべきこと、という要件がありますから、その点には留意すべきだとは言えますよね。
具体例を挙げると、例えば、被害者が輸血を拒否しているような場合よね。
輸血をしなければ、被害者が死亡してしまう・・・というような場合であっても、その人がそれでも尚、輸血を拒否しているような人だったというような場合よね。

まぁ、このような事案についても、いずれ判例を検討することがあると思うから、そのときにまた、この話をするってことにさせてもらうわね。 
なんか久々に判例一杯見たら、お腹空いたね。
美味しい中華でも食べに行かない?
中華かぁ、いいわね。
それじゃ、あとちょっとだけ論点が残っているし、食事の話題で、その論点をやっちゃいましょうか。  
  アレ?
そうなっちゃうわけ?
そんなにボリュームもないから大丈夫よ。
検討判例も1つだし、すぐに終わるから!  
ぐぬぬぬぬ・・・。
激しく断りたいけれど、スポンサー様の意向には逆らえない・・・。
コレも美味しい中華を食べるため・・・ぐぬぬぬぬぬ。 
ナニ、ブツブツ言ってんのよ?
行くわよ? 
  中華なんて美味しそうですね。
楽しみです。 
・・・。
(エビチリ、酢豚、ホイコーロー、中華飯に天津飯・・・
 いや、めっさ久し振りの中華なんだし、こうなったらメニューを片っ端から食ってやんよ!!)

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