構成要件要素・D故意 異なる構成要件にまたがる錯誤 | ||||||||||||||
今日は、故意の中の事実の錯誤について、後回しにした異なる構成要件にまたがる錯誤についてね。 | ||||||||||||||
事実の錯誤の諸類型
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今日は、上の表のCとDのところについて学ぶわね。 行為者の予見した事実と、発生した事実とが異なる構成要件に属する事例における故意犯の成否という論点ね。 それじゃ、まずはCからね。 難しい言い方すると、分かり難いと思うから、具体的なイメージができるように説明すると、前々回の説明で話した事案を想定してくれればいいわ。 サルが私だと思って殴りつけたら、それは私ではなくって、人形でした! Dの場合も、同様に説明できるわね。 サルが私を狙って、石を投げたら、予想外の人形に命中して壊してしまいました! いずれの場合も、サルは傷害罪を犯す気持ち(故意)で、器物損壊罪という結果を起こしているわよね。でも傷害罪と、器物損壊罪とでは、構成要件が異なるわよね。 コレが、異なる構成要件にまたがる錯誤ってことなの。 |
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こくこく(相槌) |
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サルが私を殴るつもりで殴りかかったんだけど、それは私ではなくって人形で、結果、サルは人形を壊してしまったという場合、サルに故意を認めることは出来るかしら? 考えてみてくれる? |
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むむ・・・難しいお。 傷害罪の意思はあるんだけど、その気持ちで実際には器物損壊罪を犯しているわけでしょ? 人形なんて、壊すつもりはなかったわけなんだから、そこに故意を認めるっていうのは、ちょっと苦しい気がするなぁ。 法定的符合説だって、犯人が認識した罪となるべき事実と、現実に発生した事実とが、法定の範囲内において一致する限りにおいて故意を認めるっていうものなんだから、構成要件が重ならないのなら、そこに故意を認めるっていうのは無理筋だと思うかなぁ。 うーん、あたしは故意は認められないって思うけど・・・。 |
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でも、藤先輩は現実に人形を壊してしまっているです! 明智先輩だと思って殴りつけていようが(C)、明智先輩だと思って石を投げた結果、予想外の人形に当てていようが(D)、人形を壊したことには変わらないです! 器物損壊罪に問われるべきです! |
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でも、刑法38条1項本文は、 『(故意) 第38条 1項 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。』って定めてあるからねぇ。 あたしには、人形を壊す意思なんてないんだから、故意はないってことになる気がするなぁ。 ん? ってことは、故意が認められないってことは不可罰になるってことになるの? 人形壊したのに、いいのかな? |
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よくないです! よくないです! 故意が認められないというのであれば、過失によって人形を壊したということで、過失器物損壊罪に問われるべきです! |
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刑法38条1項但書は、 『(故意) 第38条 1項 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。』ってあるけれど、過失器物損壊罪は刑法上定められていないからねぇ。 うーん、コレはどうやら不可罰っていうことでいんじゃね? |
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あ・・・。 確かに、過失器物損壊罪の条文なんてないです・・・。 うう・・・でもでも、このままでは稀代の犯罪者を野放しにすることになってしまうです・・・。 |
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ちょっとちょっと! 稀代の犯罪者って、誰の話をしてるの? |
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随分と、しっかり考えてくれていて嬉しいわ。 そうよね。サルが言うように、質問の事案のサルは、傷害罪の意思で、器物損壊罪を実現しているわけよね。 ただ、傷害罪と器物損壊罪とでは、構成要件が重なり合わないために、法定的符合説からは故意を認めようがないわね。 そうなると次に、故意が認められないんだけど、人形を壊しているのだから過失による罪を問うという考えになるわよね。 でも、サルが条文まで上げて指摘してくれたように刑法38条1項但書からは、過失による罪責を問う場合は、法律に定めが必要であるところ、器物損壊罪には過失の罪を問うという条文はないわね。 よって、サルが言うように不可罰という結論になるかな。 |
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うう・・・正義が悪に屈するなんて無常です・・・。 | ||||||||||||||
いやぁ、暴走している気がしたけどなぁ。正義厨かってツッコみたくなるくらいだったお。 | ||||||||||||||
質問の事案を判例の立場である法定的符合説で考えると、さっきのような結論になるわけなんだけど。 今2人が検討してくれていた構成要件的な符合を基準とする法定的符合説(構成要件的符合説)だけが異なる構成要件にまたがる錯誤を処理する考え方というわけではないのよ。 構成要件の制約を離れて、もっと緩やかな符合を認める抽象的符合説という考え方等もあるし、検討の際につかってくれた構成要件的符合説にも、「厳格な構成要件的符合説」と、「ゆるやかな構成要件的符合説」という考え方があるのよね。 判例・通説の立場とされるのは、法定的符合説の中でも、「ゆるやかな構成要件的符合説」とされているわね。 この考え方は、構成要件の実質的な重なり合いを要求するものなの。 それでは、構成要件の実質的な重なり合いは、どこで判断されるのか? ってことになるんだけど、それは@法益の共通性、A行為態様の共通性に着眼して判断することになるわね。 |
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うえぇぇ。 なんか急に話の難易度上がってない? |
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異なる構成要件にまたがる錯誤は、難しい論点だからね。 ちょっと刑法38条2項を確認してくれる? |
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OKっ! ナカたんロボ発進っ!! 至急、六法で刑法38条2項を確認せよ! |
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そのあだ名はイヤです! そんな名前で呼ばれて六法開いたら、私がロボだってこと肯定したみたいになっちゃうです! |
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・・・ロボは整備不良のようだお。 スクランブルだってのに、動きゃしねぇお。 |
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刑法38条2項。 『(故意)第38条 2項 重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処罰することはできない。』 この条文は、軽い罪を犯す意思で、思い罪の結果を発生させたときは、重い罪での処罰を禁じているのよね。 でも、この条文は、その反対の場合、すなわち重い罪を犯す意思で、軽い罪の結果を発生させたときについては定めていないのよね。 |
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明智先輩、すみません。 でもでも、あんな呼ばれ方されたら六法開けなかったんです。 |
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やり取りは見ていたから、ナカちゃんを責めるつもりはないわよ。 そんなことで謝らなくっていいからね。 それじゃ、この条文を抑えた上で、次の質問を考えてみてくれる? 質問! サルが落し物だと思って万年筆を拾って持って行こうとしたんだけど、その万年筆は、私の物だったの。 しかも、その万年筆の傍には私がいた・・・。 っていう場面を考えてみて。 まだ各論で勉強していないから分からないかも知れないけれど、このサルの行為は、占有離脱物横領罪(刑法254条)の意思で、窃盗罪(刑法235条)の罪を実現してしまっているのよね。 占有離脱物横領罪は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金。 窃盗罪は、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金。 つまり、サルは軽い罪を犯す意思で、思い罪の結果を発生させたってことになるわね。 さっき説明した、ゆるやかな構成要件的符合説で、サルにいかなる罪が成立するかを考えてみてくれる? |
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いやぁ、ゆるやかな構成要件的符合説で検討したいんだけどさぁ。 Aの行為態様は、ドッチもあたしが光ちゃんの物を持って行くってことなんだから重なっているなぁってことはワカルんだけど。 @の法益が共通するのかどうかは、肝心の占有離脱物横領罪と、窃盗罪のそれぞれの保護法益がワカラナイから共通かどうかはワカラナイんだよね。 |
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あ、そっか。 やっぱり各論を勉強しないと、それぞれの保護法益はワカラナイわけよね。 ゴメン、ゴメン。 万年筆は、私の財物なので、私の所有権という法益の侵害があると言えるわね(窃盗の場合は、保護法益は所有権か、占有権か、という争いはあるけれど、まぁ、ここは所有権説をとったという仮定で)。 つまり占有離脱物横領罪と窃盗罪は、いずれも財物を奪うことで、私の所有権を侵害するものといえることから法益の共通性が認められるわけ。 コレなら答えられるかな? |
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ゆるやかな構成要件的符合説の立場からは、構成要件の実質的な重なり合いが要求されるのですが、@法益も共通で、A行為態様も共通なので、両者は構成要件が実質的に符合すると言えます。 ですから故意が認められると言えます。 よって、藤先輩には、刑法38条2項から、占有離脱物横領罪(刑法254条)が成立すると思います。 |
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あ、ナカたんロボめ! 美味しいとこだけ持って行きよって! |
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一緒に勉強しているんだから、美味しいとこもナニもないじゃない。 うん。でも、そういうことよね。 じゃあ、次は変化球の質問ね。 覚せい剤輸入罪の意思で、麻薬輸入罪を実現した場合、どうなると思う? 因みにこの2つの罪は、それぞれ別の法律で規定されているものなんだけど、法定刑は同一なのよね。 |
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あのね。光ちゃん。 あたし、覚せい剤も麻薬もやったことないから、この2つの違いがワカラナイんだけど、別物なのかな? |
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聞き方に気を付けてよね! そんな聞き方されて、私が答えたら、答えられる私は、まるで薬物やっているかのような誤解を受けるじゃないのよ! 私も勿論経験はないんだけど。 まぁ、一般に覚せい剤は、興奮剤のイき過ぎた物。 麻薬は、鎮痛剤のイき過ぎた物って説明されるわね。 この質問必要だったの? |
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ううん。 ただの知的好奇心。 |
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あ、あ、明智先輩・・・ ドラッグの効能について詳しいなんて、ま、ま、まさか・・・。 |
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ナカたんロボが、アイドリングしとる間に、あたしが答えちゃうね。 法定刑は同一なんだから、ドッチを成立させても被告人にとって不利益はないんだから、ドッチでもOKってことでいいんじゃない? |
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違うわね。 法定刑が同一の場合は、実現した方が成立するのよ。 だから、今の質問の場合だと、麻薬輸入罪を実現している以上、麻薬輸入罪が適用されるわけね。 両者は保護法益が公益である社会保健衛生であるという共通性があり、行為態様もいずれも輸入であるという共通性が認められるわ。 他にも、取締方法が似ていること、有害性においても重なる部分があるという各種の共通点、類似点のあるものであるとして、判例は麻薬輸入罪の成立を認めているのよね。 |
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ちぇ〜っ。 当てたかったなぁ。 |
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勉強は間違えて覚えるもんなんだから、いいじゃないのよ。 じゃあ、今日の勉強のまとめの意味で、もう1問出してあげるわ。 質問! 麻薬所持罪の意思で、覚せい剤所持罪を実現してしまった場合は、いずれの罪が成立するでしょうか? 因みに、法定刑は、覚せい剤所持罪の方が麻薬所持罪よりも重たいのよね。 保護法益については、さっきと同じだと思ってくれていいからね。 説明したから大丈夫よね? さぁ、答えて、答えて。 |
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なに、そのラッキー問題は。 簡単じゃない。 保護法益は共通で、行為態様はいずれも所持で共通なんだから、両罪の構成要件は重なり合うんだから、故意は認められるわけだよね。 でも、刑法38条2項によって、軽い罪である麻薬所持罪が成立するわけでしょ? |
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うーん、ちょっと説明が言葉足らずなところはあるけれど、概ね正解ね。 答案で書く場合は、そんなザックリした説明じゃダメよ? 特に、法益、行為態様の共通性については、しっかり書くようにしてね? でも、今日の勉強は理解できていると思っていいみたいね。 実は、今の質問は、判例百選掲載の事件をベースにしたものなのよ。 質問の事案において、最高裁は次のような判断を示しているわね。 『本件において、被告人は、覚せい剤(〜中略〜)を麻薬(〜中略〜)と誤認して所為したというのであるから、麻薬取締法66条1項、28条1項の麻薬所持罪を犯す意思で、覚せい剤取締法41条の2第1項1号、14条1項の覚せい剤所持罪に当たる事実を実現したことになるが、両罪は、その目的物が麻薬か覚せい剤かの差異があり、後者につき前者に比し重い刑が定められているだけで、その余の犯罪構成要件要素は同一であるところ、麻薬と覚せい剤との類似性にかんがみると、この場合、両罪の構成要件は、軽い前者の罪の限度において、実質的に重なり合っているものと解するのが相当である。 被告人には、所持にかかる薬物が覚せい剤であるという重い罪となるべき事実の認識がないから、覚せい剤所持罪の故意を欠くものとして同罪の成立は認められないが、両罪の構成要件が実質的に重なり合う限度で軽い麻薬所持罪の故意が成立し同罪が成立するものと解すべきである。』 (最高裁昭和61年6月9日決定 百選T 41事件) どうかな? 今日の勉強の理解を、最後に判例を読んで確認しておいてね。 |
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明智先輩・・・。 ドラッグはダメです。 ダメ。ゼッタイ。 |
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ダメ。ゼッタイ。 | ||||||||||||||
ちょっとっ! だから、私やってないから! なんで2人して、そんなこと言うのよ、やめてよ! |
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言い訳は・・・ ダメ。ゼッタイ。 |
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ダメ。ゼッタイ。 | ||||||||||||||
だから話聞いてよ! やってないって言ってるのに、私はナニを責められているのよ! |
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怒るのは・・・ ダメ。ゼッタイ。 |
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ダメ。ゼッタイ。 | ||||||||||||||
いい加減にしてよね! だから、やってないって言ってるじゃないのよ! |
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やめて欲しいのなら、あたしにネージュ・ブロンシュで御馳走しないと・・・ ダメ。ゼッタイ。 |
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ダメ。ゼッタ・・・え? え? え? |
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成程ね・・・ さっきのあんたの質問は、こういう意図だったってわけね? |
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クックック。 明智君。 よくぞ見破ったと褒めておこう。 |
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藤先輩! 御世話になっている明智先輩を陥れるなんて・・・ ダメ。ゼッタイ。 |
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ダメ。ゼッタイ。 | ||||||||||||||
うわ・・・ マホカンタかっての。 跳ね返してくれてんじゃないお。 |