徳島地判昭和48年11月28日
〜森永ドライミルク事件〜
それじゃ、いつものように配役からね。

私がナレーター。
ナカちゃんが、被害者の乳幼児。
サルが、森永のドライミルク工場の製造課長さん
ね。

ナレーター
昭和30年当時。
森永乳業では、ドライミルク(粉ミルク)を、乳幼児用に製造販売していました。
ドライミルクには、安定剤として第二燐酸ソーダを使用すればいいのだ。
まぁ、本来工業用の物なんだけど、コスト考えれば、安いに越したことないからな。

森永の製造課長

ナレーター
ところが、本来食用ではない第二燐酸ソーダを、外注によって納入しているにも関わらず、森永乳業の徳島工場では、その品質検査さえしていませんでした。

乳幼児(被害者)
だぁ〜。
だぁ〜。
 

乳幼児(被害者)
だぁ〜。
だぁ〜。
 

乳幼児(被害者)
だぁ〜。
だぁ・・・・・・・。

すみません。
私は誰からミルクを頂けばいいんでしょうか? 
  あ・・・じゃあ。
ハイ、ミルクの時間ですよぉ?

被害者の親 

乳幼児(被害者)
ばぶぅ。
ング、ング。
ング、ング。
 

乳幼児(被害者)
ングっ!!   

ナレーター
なんと、森永乳業・徳島工場で製造された同社のドライミルクには、製造過程において使用された安定剤の第二燐酸ソーダにヒ素が入っていたのでした。
そのため、同社のドライミルクを飲んだ乳幼児を中心に、多くの死傷者を出すこととなってしまったのでした。
(昭和31年当時の厚生省の発表では、被害者の数は12000人以上。そのうち死亡者130名という被害を出した。)
え、え、えらいこっちゃ。
でも、過失はないで?
そもそも、ドライミルクにヒ素が入るなんてこと予見できると思うか?
せやろ?

森永の製造課長
     






つかさちゃんが来てくれて、助かっちゃった。
ありがとうね。 
小腹が空いたから、購買に菓子パンでも買いに行こうかと思いまして・・・。
通りかかったら、聞き覚えのある声がしてたので何事かと思いまして。
 
チビッ子だけに、乳幼児に退行してたんだお。
見逃してくれて、よかったのに。
ウソです!
ウソです!
判例検討の役の乳幼児になり切っていただけです!
いつも楽しそうですね。
刑法の勉強会をされるのなら、私も誘って欲しいんですけど・・・
(サルをチラ見)
んみゅ?

(なんかコッチ見とるけど、菓子パンくれるのかな?
 まだ買いに行くとこだって言ってたように思ったけど、もう買って来てんのかな?)
藤先輩は、いつも私のことをチビッ子って言うのを、やめて欲しいです!
あの・・・私も刑法の勉強会に誘っていただきた・・・
ナニ?
つかさちゃん、刑法の勉強会に参加してくれるの?  
え?
え?
光ちゃんは、私を刑法の勉強会に入れてくれるのでしょうか?
あまりレベルの高い話をしていないから、つかさちゃんの勉強の邪魔になっちゃ悪いかなぁ、って思っていたんだけど、つかさちゃんさえ、よければ是非。  
  入会費は、菓子パンね!
  ハイっ!
ソレは、どちらに収めれば?
ないからっ!
つかさちゃんも、サルの冗談なんか真に受けなくっていいから!  
菓子パン食べたかったのになぁ。
なんか菓子パンって聞いたら、お腹空いてきちゃったしなぁ。
  じゃあ、今日の勉強会頑張ったら、つかさちゃんの刑法勉強会の参加歓迎会を兼ねて、ネージュ・ブロンシュでご馳走したげるわよ! 
  え? マヂ!?
カタラーナ食べてもいいの?
頑張ったら・・・だからね。   
ってことは、いつも通りにしてれば大丈夫ってことだね!
あうあうあう。
それじゃ、カタラーナは絶対にご馳走してもらえないです・・・。
ところで、検討判例は一体なんなのでしょうか?
「森永」や「ミルク」という単語から察するに、森永ドライミルク事件かとは思うのですが。
流石、つかさちゃん。
そうよ。

今回、この判例を検討判例に挙げたのは、前回の勉強会では説明しなかった過失犯の構造を説く学説の一つ、新・新過失論の考え方を知るためなのね。

森永ドライミルク事件判決には、この新・新過失論の考え方である危機感説と呼ばれる考え方が取り入れられているの。
ただ、裏返すと、危機感説の考え方を取り入れたと言われる判例は、正直これくらいしか挙げられないのよね。

危機感説とは、予見すべき危険の程度は、結果発生の具体的な危険でなくても、無視できない程の不安感があれば、結果回避義務が生じるという考え方をいうの。

過失を基礎づける予見可能性としては、判例・多数説は、具体的予見可能性説とされているわ。
具体的予見可能性説によれば、構成要件結果の予見は必要となるわけなんだけど、そうなると、本件では予見可能性でキレそうと言えるわよね・・・。

森永ドライミルク事件では、森永乳業の徳島工場の製造課長が罪に問われたんだけど、彼に過失を問おうにも、具体的予見可能性説であれば、予見可能性がないということになるんじゃないかしら。
だって、粉ミルクにヒ素が混入していて大量の死傷者が出る事態を予見できるのか、っていうことになるからね。

でも、これだけの大勢の被害者を出しておいて、過失責任さえ問えない、というのも結論としては妥当とは言い難いわ。

そういう意味では、本件で取り入れられた危機感説は、一般的抽象的な危機感さえあれば予見可能性を認める、というものなのよね。
この危機感説を取り入れれば、被告人に過失を問うことは可能と言えるわ。

ただ危機感説に対しては、学説からの批判も強いところだから、紹介せずに済ませようかとも思ったんだけど、一応見ておくべきかと思ってね。

結論としては、妥当だとは思うんだけれど、危機感説による過失の認定が妥当だったのかは難しいところかもね・・・。
  あれ?
判決文は見ないの?
伝えたいことは言っちゃったから、今回は、いいかな。
森永乳業の外注で納入してもらっていた安定剤が、本来食用のものであれば、予見可能性でキってしまって、過失は否定されることになりそうですが・・・。
本件では、本来食用ではない第二燐酸ソーダを使用しているわけですから、ソコに予見可能性を認めるという考え方もありかと個人的には思っていました。
あぁ。ソレは、あり得る考え方よね。
あまり私も危機感説を取り入れた本件については考えたことなかったものだから、今、つかさちゃんに言われてみて、気付かされた感じなんだけどね。
まぁまぁ。
ムズカシイ話は、ネージュ・ブロンシェ行ってから、2人でしてくれればええから、次いこ、次!
なんで勝手に終わらせようとしてんのよ。
でもまぁ、危機感説の説明は済んだから、まぁ、次行きましょうか。  
  あ、私も参加してていいんですよね?  
うんうん。
んで、今日は最後に一緒に、ネージュ・ブロンシェで美味しいカタラーナ食べよう! 
頑張ったらだからね!
チャンとやる気見せてよ? 
 

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