最決昭和55年11月13日 〜保険金詐取目的同意傷害事件〜 |
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登場人物の都合上、事案を簡略化して、登場人物を減らしての再現をすることにするわね。 まぁ、事案の骨子は変わらないから心配いらないわ。 それじゃ、配役ね。 私がナレーター。 保険金詐取を企てた人を、サル。 そのサルから依頼を受けた人を、つかさちゃん。 って配役でいくわね。 |
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ナレーター |
サルは、交通事故を装って、保険金を保険会社から騙し取ることを計画し、その計画の協力者として、つかさちゃんに依頼しました。 | |||
保険金詐取目的 |
へへへへ・・・。 自動車事故を装って、保険会社から金を騙し取ろうと思うんだ。 まぁ、ついては、自動車事故を起こす必要がある。 俺の運転する軽自動車に、お前が車を追突させて、交通事故を装おうと思うから協力してくれよ。 (※ 実際の事件では、より事故らしく見せるために、サルとつかさちゃんの間に乗員2名の車をもう1台挟んで玉突き事故を偽装しましたが、省略しています。) |
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ソレは、面白そうだな。 詳しく聞かせてくれないか? |
依頼された者(被告人) |
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保険金詐取目的 |
なぁーに、別に難しいことはないって。 俺の車が赤信号で停車しているとこに、後ろから、お前の車を追突させてくれればいいだけだ。 俺は、事故の影響のムチ打ちや耳鳴りを訴えれば、それだけ保険金も頂けて、ウマーってわけだ。なぁ、やってくれるよな? |
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まぁ、他ならぬ、あんたの頼みだからな。 よし、任せてくれよ。 |
依頼された者(被告人) |
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保険金詐取目的 |
よーし。 バッチコーイっ!! |
依頼された者(被告人) |
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任せとけぇーっ! バックアタァーーっク! |
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保険金詐取目的 |
よしよし。 コレで、いい感じに治療が必要な怪我を負うことができたよ。 ありがとうな。 |
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なぁーに。 お安い御用だ。 |
依頼された者(被告人) |
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・・・そこまでかな。 なんか2人が、あまりにノリノリで怖くなっちゃったんだけど。 |
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いえ、私はあくまでも役に徹するよう努めただけですよ? | ||||
あたしも、あくまでも役に徹しただけだお? | ||||
2人で、交通事故を偽装して、保険金を騙しとったのですから、詐欺罪が成立するです! 黒田先輩は、藤先輩には甘いから、なんでもやっちゃうです!! |
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ヒドい言われようですけれど、本件においては詐欺罪の成立は争点ではないですね。 この事故では当初、私の追突行為に関して、業務上過失致傷罪が成立したのですが、後に、私達の企みはバレてしまい保険金詐取について詐欺罪の有罪判決を受けることとなったわけです。 しかし、そうなると、藤さんへの私の追突行為による傷害については、保険金詐取のための藤さんの同意による傷害であったということになりますよね。 被害者である藤さんの同意があるのであれば、私の追突行為による傷害は、同意傷害ということになります。 ですから、業務上過失致傷罪の有罪判決を受けた私は、同意傷害であることから、同罪は成立しないとして再審請求をしたわけです。 |
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うーん、そもそも被害者である、あたしが「やれ」って言って、自分から傷害を負っているんだし・・・。 クロちゃんは、あたしに言われて協力したわけでしょ? それなら、傷害罪は成立しないんじゃないのかな? |
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藤さんは、私に優しいんですね。 有名判例ですから、藤さんだって結論は御存知だと言うのに、私を庇って下さるんですもの・・・。 |
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え!? (アレ? じゃあ、これ傷害罪成立しちゃうわけ?) |
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まぁまぁ、判決文を見ることにしましょ。 『被害者が身体傷害を承諾した場合に傷害罪が成立するか否かは、単に承諾が存在するという事実だけでなく、右承諾を得た動機、目的、身体傷害の手段、方法、損傷の部位、程度など諸般の事情を照らし合わせて決すべきものであるが、本件のように、過失による自動車衝突事故であるかのように装い保険金を騙取する目的をもって、被害者の承諾を得てその者に故意に自己の運転する自動車を衝突させて傷害を負わせたばあいには、右承諾は、保険金を騙取するという違法な目的に利用するために得られた違法なものであって、これによって当該傷害行為の違法性を阻却するものではないと解するのが相当である。』 として、傷害罪を成立させているのよね。 |
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あれま・・・。 被害者の同意は、違法性阻却事由だってのに、つれない結論だお。 でも、これって、さっき光ちゃんの説明していた学説で考えると、社会的相当性説だと説明しやすそうな判決だよね。 |
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そうですね。 社会的相当性説ですと、被害者の同意が違法性阻却事由とされる根拠については、国家・社会倫理規範に照らして相当な場合のみに違法性を阻却する、と説かれますからね。 保険金詐取という目的での行為については、社会的に相当といえるものではないことから、違法性を阻却しない、と言えそうですよね。 |
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ただ、あまり詐取目的を強調し過ぎちゃうと、刑法がそもそも予定していない詐欺予備罪ってことになっちゃいそうだけどね。 目的だけではなくって、手段の相当性、という点も着目して考えるべきだと思うわね。 実際、判例も同意を得た目的の違法性だけではなく、諸般の事情に照らして判断すべきである、としているわけだしね。 この判例で抑えて欲しいのは、同意傷害についての判例の考え方よね。 判例は、 『被害者が身体傷害を承諾した場合に傷害罪が成立するか否かは、単に承諾が存在するという事実だけでなく、右承諾を得た動機、目的、身体傷害の手段、方法、損傷の部位、程度など諸般の事情を照らし合わせて決すべき』 としているってことよね。 |
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ですよね。 少し言葉足らずでしたね。 |
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あうあうあう。 議論に参加できなかったです。 |
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大丈夫。 今、検討した判例の考え方を前提として、今日は幾つか判例の事案を見るつもりだから! |
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わーい、わーい! 次の事案では、頑張りたいです! |
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私も頑張ります! | ||||
よし。 あたしの分までガンバレお! |
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あんたも頑張りなさいよ! |