行政行為の取消
お疲れぇ〜。 
 
  どったお?
なんか心なしか元気なくね?
心なしどころか、普通に元気なさそうです。
明智先輩どうされたのですか?
普段あんまり食べなれていないラーメンを食べたせいか、胃もたれしちゃったみたい。  
少し言い難いんですけど、替え玉を2回も頼まれていたせいではないでしょうか?
食べ過ぎじゃないかなぁ、とは思ったのですけど。
あたしでさえ替え玉しなかったのに、2回も替え玉かぁ。
そりゃ、胃もたれもするよねぇ。
藤先輩は替え玉こそ、していませんでしたけど、大盛りラーメン全部乗せを、10杯も平らげていたです!
しかも、替え玉用のトッピングまで、入れまくっていたじゃないですか!
替え玉してないのは当たり前です!
麺ばっかり食べると栄養が偏るかんね!
あとスープも、具も全部食べたいじゃないの!
替え玉なんてダメ、ダメ! 
久し振りのラーメンが、あんなに美味しいなんて思わなかったわぁ。
ついつい食べ過ぎちゃったのが、よくなかったみたいね。  
そうだね。
腹八分目って言うし、もうちょっと・・・って気持ちが、また美味しさを引き立てるんだよねぇ。
大盛りラーメン10杯食べた人に、そんなこと言われても、説得力ないです。
ナニ言ってんの!
あたし、お腹一杯食べていいっていうのなら、あの倍は食べたからね!
横で、あんたが美味しそうに食べたせいで、私も、つい食べ過ぎちゃったのよ!  
うわっ!!!
まさかの責任転嫁っ!!
そんなの知らないよ!
光ちゃんが勝手に注文したのまで、あたしのせいにしないでよね!
  でも美味しかったですよね!
また、是非行きましょう!
もやしが、スッゴイ一杯乗ってたしね!
チャーシューも山盛りだったし、ホント美味しかったよね!!
そうね。
また、みんなで行きましょ。
・・・私も、今度は替え玉は1回にしておくわね。

えーっと、前回は無効の行政行為について学んだわよね。

今日の勉強会では、行政行為の取消について学ぶことにするわね。

取り消される行政行為は、瑕疵のある行政行為なの。
でも、処分の効力は取り消される時点まではあるって話はしたわよね。
そうよね。これは、サルの大好きな公定力が働くためよね。
但し、取り消されると、取消の効力である遡及効が働くわ。
したがって、行為時に遡って効力がないものとなるわけよね。

ここまでは、復習の話になるわけだけど、大丈夫よね?
  うん・・・。
大丈夫・・・かな?
  ラーメン大盛りのお代わりの時の、はつらつとした藤先輩がいないです・・・。
なにか不安にさせる返事ねぇ。

行政行為の取消には、大きく分けてつあるわ。

@争訟取消  と  A職権取消   ね。

@争訟取消は、訴訟による取消裁判所による取消)と、行政不服申立てによる取消行政庁による取消)とがあるわ。

そして、A職権取消は、行政庁が、その職権で取消すものなのね。
ん?
争訟取消のうちの行政不服申立てによる取消しと、職権取消は、ドッチも行政庁が取消してんだけど、どう違うんだお?
争訟取消は、私人からの訴え、ないしは申立てがあってからの取消なのね。
これに対して、職権取消は、私人からの訴えも、申立てもないけれど、行政庁が、その職権で取消すという違いがあるわ。 
うーん、どうなのかなぁ・・・。
行政行為には、公定力が働くから、違法なものであっても取消されるまでは、一応有効ってことになるわけでしょ?
それを、実際に行政行為をやった行政庁側が、私人の訴えもないのに、勝手に取消すっていうのは、許されるのかなぁ?
なかなかいい指摘をしてくれるじゃない。

職権取消は、瑕疵のある行政行為について、行政庁が職権により、その成立当初に存在した瑕疵を理由に、その効力を遡及的に失わせて、正しい法律関係を回復させることをいうのね。

この職権取消が認められる理由としては、一番には、法治主義の立場からの要請よね。
つまり、適法性の回復ってことになるかしら。
次には、合目的性の回復という理由も挙げられるわね。

そもそも成立当初に瑕疵があった行政行為を、そのままにしておくことは妥当ではないわ。
そうである以上、その瑕疵に気付いた行政庁側が、瑕疵のない法的状態への回復を図って、自ら職権によって、当該行政行為を取消すということは、法治主義の要請に応えるものといえるわよね。

したがって、この行政行為の職権取消には、法律の特別の根拠は不要、というのが、判例学説の立場とされているわ。

ただ、今のサルの指摘はあるわよね。
つまり、行政庁が取消そうとする行政行為によって、既に形成された生活関係との関係も考慮すべき、ということをサルは言っているんでしょ?
うーん、まぁ難しく言うと、そういうことになるのかな?
行政行為があったとしたら、普通、その行政行為については有効だっていう前提で捉えるよね。
それを後から、そっちの都合だけで勝手に取消されるとなると、別に取消して欲しくないっていう場合もあるんじゃないのかなぁ、って思っただけなんだけど。
うんうん。
その考えから、職権取消の制限の法理、というものがあるわけ。
これは、判例学説から産まれた考え方なのね。

行政行為が、侵害的な性格のものであれば、これを取消すことは、一般には相手方にとっては有利に働くことになるわよね。
だから、この場合は、比較的自由に認めても問題はないといえるわ。

ただ、行政行為には、受益的な性格のものもあるわけよね。
そうなると、今、サルが言ったように、そのような行政行為を取消すことは、相手方の信頼だけではなく、権利利益をも侵害するおそれが生ずるわ。
そういった相手方の保護のため、職権取消に条理上の制限がかかる場合があるわけ。
それが職権取消の制限の法理という考え方なの。 

順序立てて説明しようと思っていたのに、フライング気味で突っ込むもんだから、説明するのが後ろになっちゃったわ。
でも、いい指摘だと思うわよ。
今日は、真面目に聞いてくれているじゃない!
コレは、とんこつもやしの力だお!
うーん、あのラーメン美味しかったからなぁ。
スープともやしの相性が、抜群だったんだよねぇ。
よしっ!
今日も、また行こうっ!!
あ、ソレはパスっ!   
  藤さん、藤さん。
私でよろしければ御一緒しますよ?
うーん、クロちゃんは、あたしと同じ奨学金生活だからさぁ。
流石にクロちゃんに御馳走になるのは気がヒけるんだよねぇ。
自分の分は、自分で払えばいいじゃないの。  
大盛り全乗せは、1200円もするんだよ?
誰がお金払うと思ってんの!?
そりゃ、食べた人に決まっているじゃないの。
ナニ、意味不明なことを、さっきから言ってんのよ!  
・・・チェっ。
柄にもなく替え玉お代わりなんかしてるから、胃もたれするんだお。
あんまり言わないでよね!
私も恥ずかしくなっちゃうじゃないの!
私も、あのお店のラーメンは美味しかったって思っているから、また行くのには賛成よ?
ただ、今日はまだ、そんな気持ちにはなれないかな・・・ってね。

そんなことよりも、職権取消の制限の法理についての話をするわね。

百選T 91事件農地賃貸借解約許可職権取消事件が、この職権取消の制限の法理について扱っているわね。
最判昭和28年9月4日

この事案において最高裁は、次のような判断を示しているわ。

元来許可が行政庁の自由裁量に属するものであっても、それはもともと法律の目的とする政策を具体的の場合に行政庁をして実現せしめるために授権されたものであるから、処分をした行政庁が自らその処分を取消すことができるかどうか、即ち処分の拘束力をどの程度に認めうるかは一律には定めることができないものであって、各処分について授権をした当該法律がそれによって達成せしめんとする公益上の必要、つまり当該処分の性質によって定まるものとするのが相当である。

少し言い回しが難解だから、ワカリ易く説明すると、判例は次のような分析方法をとっていると言えるわ。

瑕疵のある行政行為は、原則的には取消すべきということを前提として、まず、処分(=行政行為の性質を判断するわけ。

@そして、受益的行為であることの認定
Aこの受益的行為であるという性質から、相手方保護の要請が働く
Bそして、A法が目指す公益目的とで、比較考量的判断をする

という判断枠組みをとっているのよね。
成程、成程。
利益的な行政行為の場合は、職権取消が制限されるってことね。
うんうん。ワカル、ワカル。
まぁ、その理解でいいと思うわ。

職権取消の場合には、処分の相手方が重大な不利益を被ることもあるわけだから、相手方保護の要請から、打撃緩和措置が図られるということね。
具体的には、損失補償とか、取消の本来の効果である遡及適用がなされない等の措置が図られることになるわね。

ただ、判例の中には、利益的行政行為の職権取消でも遡及適用を認めるとしたものもあるわ。
在日韓国人老齢年金訴訟事件最判昭和57年9月22日)等がそうね。

この判決では

行政庁が一旦受益的な行政処分をした場合において、のちにそれが違法であることが明らかになったときは、処分の取消しにより被処分者が受ける不利益と処分に基づいて生じた効果を維持することの公益上の不利益とを比較考量し、当該処分を放置することが公共の福祉の要請に照らし著しく不当であると認められるときには、処分庁がこれを職権で取消し、遡及的に処分がされなかったのと同一の状態に復せしめることが許されると解するのが相当である。

という規範を示して、

被保険者資格を有しないが故に受給権を有しない者に対し裁定をし、年金の支給を容認することは、法の趣旨に著しく反することは明らかであり、かかる違法な裁定の効果をそのまま維持することは不当、不公平な結果を招来し、公益に反するものといわなければならない。
 もっとも、規定が取消されると裁定の効力が遡及的に失われるから、裁定に基づいて支給された利益が現存している限りこれを返還しなければならず、年金を受け得る期待を裏切られることになるが、それは本来保持すべきでない利益が奪われるに過ぎない。
 また前記のとおり裁定により受給権が発生するものではないし、これにより第三者との間で新たな法律関係が形成されるものではないから、既得権の侵害や第三者との間の新たな法律関係が害されることはあり得ない


として、原告の請求を棄却したわ。
また、利益的行為(年金の支給)についても、職権取消による遡及適用を認めているわけなんだけど、ここでは、最高裁第三者との関係に配慮する視点を示していることがワカルわね。
  厳しい気もするです。
うーん、でも国民年金の趣旨、目的に照らし合わせると仕方ないのかな、とも思えるわね。
憲法でも学ぶことになるんだけれど、国民年金は、『健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とする』(国民年金法1条)ものであり、同法に基づき、国庫から巨額の年金を支出するものである以上、その受給者に対しても、年齢要件だけではなく、国籍要件、国内居住要件等を課しているわけだからね。 
行政が、誤って渡してしまったからと言って、そのままでいいですよってことには出来ないというのもワカルところかな。
あれ?
そう言えば、今日の判例は、再現せんままに終わってもぉたね。
なんで?
え?
・・・・・・。 
 
・・・まさかとは思うけど、ラーメン食べ過ぎたせいで、体調不良ってわけじゃないよね?
まさか、そんな理由で、みんなの勉強の機会を奪ったわけじゃないんだよね?!
そんな言い方はやめてよぉ。   
親友として、あたしの目を見て答えてよね!
違うんだよね?
ホントのホントに違うんだよね?
・・・。
(いつも自分はサボっている癖に、ここぞとばかりに責め立てているです。ヒドい人です。)

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