最判昭和28年2月18日 〜別府農地買収処分事件〜 |
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少し難しい事案なので、先に、本件事案を整理した図を用意しました。 まず、図を見てから配役言いますね。 |
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上の図で、配役ワカルかな? 元所有者が、ナカちゃん。 そのナカちゃんから土地を買った土地購入者がサル。 市の農業委員会が私。あ、ナレータもやりますね。 県の農地委員会を、黒田さんでお願いします。 事案の流れについては、いつものように判例再現で理解しましょ。 |
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ナレーター |
1943年3月2日。 まだ農地改革の前まで話は遡ります。 |
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住む土地が欲しいから、あんたの土地を売ってくれんかね? | 土地購入者 |
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土地元所有者 |
わかったです。 土地を売るです。 |
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ありがとな。 それじゃ、この土地に住むとしますか。 まぁ、所有権移転登記は面倒だからしなくっていいか。 |
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あの土地を買った人、所有権移転登記してないです。 名義は私のままだけど、どっちでもいいです。 |
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ナレーター |
その後、日本の敗戦を受けて、GHQの指導の下、日本政府は大量の農地買収が求められる農地改革に乗り出します。 | |
市の農業委員会 |
農地改革で、土地の買収計画が必要だなぁ。 大量の土地を購入しないといけないから大変だ。 えーっと、この土地は・・・っと。 |
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不在地主の土地だな。 買収計画に組み込んでおくか。 |
(土地所有者サル・ 土地登記名義ナカちゃん) |
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おいおい。 なんで、いもしない人を相手に勝手に買収計画立ててるんだ? 持ち主であるオレに対して、買収計画せんとアカンやろ? |
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は? 登記名義人は、あなたじゃないですよ? あくまでもコッチは、登記簿を頼りにやっているんで。 |
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所有者相手に、そんな言い分が通ると思っとるんか? 異議申立じゃい! |
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民法177条を知らないんですか? 177条 『不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法 (平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。』 あなたには登記がないんだから、そんな主張は認められませんよ。 従って、その異議は却下します! |
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ナニ言うとるんや。アカンわ。 あんなヤツ相手にしとってもラチあかんで。 市じゃなくって県に文句言うか。 オイ、市の連中のやっとることは認められんことやろ? |
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県の農地委員会 |
訴願提起されても、その訴願には理由がないですよ? 市の説明のとおりですよ。 ですから市の買収計画は正当なものです。 よって、あなたの訴願は却下します。 |
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なんじゃい、寄ってたかって、コイツら。 そんな却下採決は取消じゃぁ。 訴えたるわい! |
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・・・ハイ。そこまで。 ちょっと複雑な事案だけど、先に事案の流れを図示してあったから、よくワカッタんじゃない? 今、もう一度あの図見てもいいよ。どう、整理できた? |
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最初に配役を言うだけじゃなくって、最初の登場の際に、下に役名入れることにしたんですね。 | ||
名案だよね。 誰の提案? ひょっとして、あたし? |
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判例再現するの見てて、コッチのほーが、よりワカルかな? って。私が思ったの。 |
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あたしの提案じゃなかったんだ・・・てっきり、あたしのアイデアだとばかり思ったよ。 | ||
なんで、そう思えるのか全くワカラナイけど、別に誰だっていいじゃないの。 | ||
こくこく (相槌) |
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今回は、事案のポイントを、まとめる前に、最高裁の判断を見てから事後的に検討をするってことにするわね。 私法の適用(民法177条の適用)が問題となる今回の事案において、最高裁はどのような判断をしたのか。 そこには、公法私法二分論の採用があったのか、検討する点は多いわよ! |
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頑張ります! | ||
判旨は、次のとおりですね。 (※ 段落ちの赤太文字算数字は、管理人挿入) 1.『自作農創設特別措置法(以下自作法と略称する)は、今次大戦の終結に伴い、我国農地制度の急速な民主化を図り、耕作者の地位の安定、農業生産力の発展を期して制定せられたものであつて、政府は、この目的達成のため、同法に基いて、公権力を以て同法所定の要件に従い、所謂不在地主や大地主等の所有農地を買収し、これを耕作者に売渡す権限を与えられているのである。 2.即ち政府の同法に基く農地買収処分は、国家が権力的手段を以て農地の強制買上を行うものであつて、対等の関係にある私人相互の経済取引を本旨とする民法上の売買とは、その本質を異にするものである。 従つて、かかる私経済上の取引の安全を保障するために設けられた民法一七七条の規定は、自作法による農地買収処分には、その適用を見ないものと解すべきである。 3.されば政府が同法に従つて、農地の買収を行うには、単に登記簿の記載に依拠して、登記簿上の農地の所有者を相手方として買収処分を行うべきものではなく、真実の農地の所有者から、これを買収すべきものであると解する。 そのことは、自作法一条に明らかにせられた前叙同法制定の趣旨からしても十分に理解せられるところであるのみならず、同法が農地買収についての基準を、いわゆる不在地主の農地であるかどうか即ち農地の所有者が実際に農地の所在市町村に居住しているかどうか、又は、地主が農地を自作しているか、小作人をして、小作せしめているか等所有者とその農地との間に存する現実の事実関係にかからしめている等、自作法に定められた各種の規定自体から推しても、同法の買収は、真実の農地所有者について行うべきであつて、登記簿その他公簿の記載に農地所有権の所在を求むべきでないことが窺い知られるのである。 4.もとより、本事業はわが国劃期的の大事業で、短期間に全国一斉に、大量的に農地の買収を行うものであつて、かかる大量的な行政処分において、個々の農地について登記簿其の他の公簿をはなれて真実の所有者を探求することは事実上困難であり、公簿の記載は一応真実に合するものと推量することは、極めて自然であるから政府が右の買収を行うに当つては一応登記簿その他の公簿の記載に従つて、買収計画を定めることは、行政上の事務処理の立場から是認せられるところであるけれども、右買収計画に対して真実の所有者が自作法に規定せられた異議を述べるときは、この計画の実施者たる農地委員会は、その異議者が真実の所有者なりや否やの事実を審査して、その真実の所有権の所在に従つて、買収計画を是正すべきものであつて、同委員会は、民法一七七条の規定に依拠して、異議者がその所有権の取得についての登記を欠くの故を以て、その異議を排斥し去ることは許されないものと解すべきである。 論旨は、これと反対の主張をするものであつて、採用することはできない。』 1.では、自作法とは、どのような法律かという点について詳細に述べているわね。 2.では、公法私法二分論の理屈が明確に読み取れる内容となっているわ。 3.が、この判旨の肝の部分だと思うわ。 この内容の検討については、後でまとめるわね。 4.は、結論部分になるわね。農地改革事業の行政側の負担は考慮すべきと言えるものの、自作法の趣旨に鑑みれば、行政の対応は認められるものではないという結論を述べているわね。 この最高裁の判断は、公法私法二分論によって民法(177条)の適用を排除したものと思うかしら? |
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うーん・・・ 確かに、2.を読むと、これって、公法私法二分論の話をしてるよね。 ってことは、公法私法二分論で、農地買収処分は、国家が権力的手段をもって、農地を買い上げる強制的なものなんだから、私人相互に適用される私法の出番はないって結論でいいんじゃないのかな? |
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私も、藤さんと同じように考えることができるものと思います。 公法私法二分論からアプローチして、私法である民法177条の適用を排除するという結論でいいかと思います。 |
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確かに、そういう考え方もありえると思います。 ただ、私はこの判決文の3.の部分に注目したいなぁ、と思うんです。 3.の部分では、個別法が、登記と現実の事実関係との、いずれを重視する趣旨なのかを検討し、そして、個別法の趣旨は後者であるという評価をしています。 つまり、個別法の趣旨は、登記よりも現実の事実関係を重視した買収をすべきことを求めているものと読み取れるからこそ、177条の適用を排除したという結論が導かれるんだと思うんです。 |
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自作法(自作農創設特別措置法)1条および3条5項2号は、次のものです。 『自作法1条 この法律は、耕作者の地位を安定し、その労働の成果を公正に享受させるため自作農を急速且つ広汎に創設し、又、土地の農業上の利用を増進し、以て農業生産力の発展と農村における民主的傾向の促進を図ることを目的とする。』 『自作法3条5項本文 第一項の農地の外左に掲げる農地で、都道府県農地委員会又は市町村農地委員会が、命令の定めるところにより、自作農の創設上政府において買収することを相当と認めたものは、政府が、これを買収する。』 『自作法3条5項2号 自作地で当該自作地に就いての自作農以外の者が請負その他の契約に基き耕作の業務に供してゐるもの』 農地買収処分だから、権力的手段である、従って、公法私法二分論から私法の適用は排除する・・・と考えるのではなく、これらの個別法から、登記よりも現実の事実関係を重視した買収をすべきことを法が求めているものとする趣旨を読み取って177条の適用を排除するという結論を導いてこそ、公法私法二分論の克服という今回の勉強のテーマに沿うものだと私は思います。 |
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そうですね。 私自身、この判例検討の前には、公法私法二分論を採用せず、それぞれの法律関係の個別的・具体的性質を実定法に即して考えるべき、という話をしていたことを失念していました。 実際に事案に直面してみると、難しいものですね。 |
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そうですよね・・・ 仮に、実際の試験で出題されたとしたら、与えられた資料に上がっている条文から、そんな趣旨まで読み取れるのかなぁ、って不安になっちゃいますよね。 ただ、論述しなければ、ううん、できなければならないんですものね。 |
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・・・やべぇ、置いてけぼり喰らっとる気ぃする。 | ||
あ、藤さん、すみません。 私が理解足りないせいで、御迷惑お掛けしちゃってますね。 |
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お、お、おう! 気にしなくってええで! |
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ムズカシイです・・・。 | ||
ナカちゃんは、まだ学部生だから公法私法二分論で私法の適用を排除するってことで、今は理解しておいても、いいんじゃないかな? | ||
せっかく一緒に勉強してるんだから、私も共通の理解を持ちたいです! | ||
あたしも共通の理解を持ちたいです! | ||
あんたは持ちなさいよ! 甘えてんじゃないわよ! |
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・・・・。 (この女ぁ! 露骨に態度変えやがってからに。ムキィィィっ!) |