最判平成21年12月17日判決
〜たぬきの森訴訟事件〜
この判例なんだけど、毎回恒例の事案再現は無しにして、私の説明で事案を伝えることにするわね。
理由としては、引用する条文も多いことや、事実の概要として、説明で話した方が、いいかな、っと思ったからなんだけどね。
いいよね?
勿論構わないよ。
光ちゃん。
早く始めよう、始めよう!
(そして、サッサと終わらせてトルコ料理に行こう!) 
あら、随分とやる気見せてくれているじゃないの。
嬉しいわ。
それじゃ、説明を始めるわね。 

本件の舞台は、東京都新宿区下落合って場所にある、地域住民から「たぬきの森」と呼ばれる約2000平方メートルの土地なのね。
この場所には、樹齢200年以上の大木もあったり、タヌキが棲んでいる等の背景から、地域住民は公園にして欲しいという思いから、区に、この土地を買い取ってもらって、公園にしてもらおうと基金を募ったり、活動していたの。

でも、そこに、ある一部上場のマンション業者による地上3階、地下1階のマンション3棟を建てようという建設計画が持ち上がったわけ。
マンション建設においては、まず、安全認定という行政処分(先行行為)、そして、その後に、建築確認という行政処分(後行行為)が続くのね。

それじゃ、これらの行政処分にあたって、本件で、実際に適用された条文と一緒に、それぞれ見ていくことにするわね。

まずは、建築基準法43条に定める接道義務からね。

(敷地等と道路との関係) 第43条 
1項 建築物の敷地は、道路(次に掲げるものを除く。第44条第1項を除き、以下同じ。)に2メートル以上接しなければならない。ただし、その敷地の周囲に広い空地を有する建築物その他の国土交通省令で定める基準に適合する建築物で、特定行政庁が交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めて建築審査会の同意を得て許可したものについては、この限りでない

 1号 自動車のみの交通の用に供する道路
 2号 高架の道路その他の道路であつて自動車の沿道への出入りができない構造のものとして政令で定める基準に該当するもの(第44条第1項第3号において「特定高架道路等」という。)で、地区計画の区域(地区整備計画が定められている区域のうち都市計画法第12条の11の規定により建築物その他の工作物の敷地として併せて利用すべき区域として定められている区域に限る。同号において同じ。)内のもの

2項 地方公共団体は、特殊建築物、階数が3以上である建築物、政令で定める窓その他の開口部を有しない居室を有する建築物又は延べ面積(同一敷地内に2以上の建築物がある場合においては、その延べ面積の合計。第4節、第7節及び別表第3において同じ。)が1000平方メートルを超える建築物の敷地が接しなければならない道路の幅員、その敷地が道路に接する部分の長さその他その敷地又は建築物と道路との関係についてこれらの建築物の用途又は規模の特殊性により、前項の規定によつては避難又は通行の安全の目的を充分に達し難いと認める場合においては、条例で、必要な制限を付加することができる。』

としているわね。
建築基準法43条1項は、接道義務を。
そして、同法同条2項は、条例による制限の付加を定めているわね。

そして、この付加に基づいて、東京都建築安全条例4条があるわけね。

『 (建築物の敷地と道路との関係) 第4条 
1項 延べ面積(同一敷地内に二以上の建築物がある場合は、その延べ面積の合計とする。)が千平方メートルを超える建築物の敷地は、その延べ面積に応じて、次の表に掲げる長さ以上道路に接しなければならない。

2項 延べ面積が三千平方メートルを超え、かつ、建築物の高さが十五メートルを超える建築物の敷地に対する前項の規定の適用については、同項中「道路」とあるのは、「幅員六メートル以上の道路」とする。

3項 前二項の規定は、建築物の周囲の空地の状況その他土地及び周囲の状況により知事が安全上支障がないと認める場合においては、適用しない。』

本件の建築予定のマンションは、延べ面積が2820平方メートルであったことから、本件建物の敷地は、本来であれば、8メートル以上道路に接していなければならない東京都建築安全条例4条1項)こととなるんだけど、東京都建築安全条例4条3項は、知事が、安全上支障がないと認める場合においては、その限りではないとしているわよね。
本件では、特別区における東京都の事務処理の特例に関する条例によって、知事から安全認定に係る事務を処理することとされた区長が、安全上支障がないと認めることで、この安全認定をクリアしたわけ。

実際には、本件マンションは、幅4メートルの通路が、34メートル伸びた先で道路と接しているという形だったわけで、東京都建築安全条例4条1項基準を満たさないものだったのよね。
だからこそ、東京都建築安全条例4条3項安全認定を受けて、そこをクリアしたわけなんだけど、本来、8メートル以上必要なところを、その半分以下の接道で安全だと判断したことには、当然、疑問が残るところと言えるわよね。

ともあれ、安全認定先行行為)をクリアしてしまったことから、その後の、建築確認後行行為)も、あっさり認められてしまうこととなったわけ。

公園建設を望んでいた住民側としては、こんな基準も満たさない安全認定の上で認められた建築確認なんて許せない、って気持ちになるのも無理ないわよね。

そこで、住民側は、本件安全認定(先行行為)は違法であるから、本件建築確認(後行行為)も違法であると主張して、建築確認の取消訴訟(後行行為の取消訴訟)を提起するに至った・・・というのが事案の概要ね。
この住民たちは、きっとタヌキが化けていたんだと思うお。
コレは、リアル『平成狸合戦ぽんぽこ』だお。
成程、成程です。
きっと、人間社会に溶け込んだ狸達の中には、法律を駆使して、自分達の森を取り返そうとする狸達もいたはずです!
私もそう思うです!
  な、な、なんの話なんですか?
正吉の子供たちが、人間と戦っているんです!
変身術をつかえない仲間たちの為にも、そして、人間との戦いの中で命を落としていった仲間たちの為にも、狸達は戦っているんです!
なんだか、そう考えると、アツい思いを感じるお!
これは、なんとしてでも狸達の森を、人間たちから取り返してやらないとダメだお!
そうです、そうです!
明智先輩、早く最高裁の判断を聞かせて下さい!
ちょっと、2人がナニ言っているのかは皆目ワカラナイんだけど、熱心に判例を聞こうとしている姿勢は買うわね・・・。

本判決の争点自体は、判例検討前に話した違法性の承継の肯否、そして、仮に肯定されるとするならば、そのために求められる要件ってことだから、争点の確認は省略するわね。

さて。
それじゃお待ちかねの最高裁の判断は、次のものね。
かなり長いから、気合入れて読んでね。

東京都建築安全条例(昭和25年東京都条例第89号。以下「本件条例」という。)4条1項は,法43条2項に基づき同条1項に関して制限を付加した規定であり,延べ面積が1000平方メートルを超える建築物の敷地は,その延べ面積に応じて所定の長さ(最低6m)以上道路に接しなければならないと定めている。

 ただし,
本件条例4条3項は,建築物の周囲の空地の状況その他土地及び周囲の状況により知事が安全上支障がないと認める場合においては,同条1項の規定は適用しないと定めている(以下,同条3項の規定により安全上支障がないと認める処分を「安全認定」という。)。

 特別区は,
特別区における東京都の事務処理の特例に関する条例(平成11年東京都条例第106号)により,安全認定に係る事務を処理することとされ,区長がその管理及び執行をしている。』

ここまでは、さっき条文を引用して話した先行行為となる安全認定に関する関連法令の話ね。
試験などで条文操作が必要な場合は、こうした条文同士の相互の関係について、与えられた条文から、その仕組みを理解する作業が求められるってことになるわね。

※ 下記の@B管理人挿入。これは本件で例外的に違法性の承継が認められる要件となった理由です。)


本件条例4条1項によれば,延べ面積が約2820平方メートルである本件建築物の敷地は8m以上道路に接しなければならないとされており,本件建築物の建築計画につき,マンション建設業者らは,その申請に基づき新宿区長から平成16年12月22日付けで安全認定(以下「本件安全認定」という。)を受け、その後,マンション建設業者らは,その申請に基づき新宿区建築主事から同18年7月31日付けで本件建築確認を受けた。

 被上告人らは,本件
安全認定は違法であるから本件建築確認も違法であるなどと主張している。

 原審は,本件
安全認定は,新宿区長がその裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してした違法なものであるから,本件建築物の敷地は本件条例4条1項所定の接道義務に違反しており,本件建築確認は違法であると判断して,これを取消した。 

 所論は,
先行処分である安全認定が取り消されていない場合,たとえこれが違法であるとしても,その違法は後続処分である建築確認に承継されないのが原則であり,本件において本件安全認定が違法であるとの主張はできないのであるから,これと異なる原審の判断には,法令解釈の誤りがあるというのである。

 
本件条例4条1項は,大規模な建築物の敷地が道路に接する部分の長さを一定以上確保することにより,避難又は通行の安全を確保することを目的とするものであり,これに適合しない建築物の計画について建築主は建築確認を受けることができない。
 
同条3項に基づく安全認定は,同条1項所定の接道要件を満たしていない建築物の計画について,同項を適用しないこととし,建築主に対し,建築確認申請手続において同項所定の接道義務の違反がないものとして扱われるという地位を与えるものである。

 
平成11年東京都条例第41号による改正前の本件条例4条3項の下では,同条1項所定の接道要件を満たしていなくても安全上支障がないかどうかの判断は,建築確認をする際に建築主事が行うものとされていたが,この改正により,建築確認とは別に知事が安全認定を行うこととされた。
 これは,
平成10年法律第100号により建築基準法が改正され,建築確認及び検査の業務を民間機関である指定確認検査機関も行うことができるようになったこと(法6条の2,7条の2,7条の4,77条の18以下参照)に伴う措置であり,上記のとおり判断機関が分離されたのは,接道要件充足の有無は客観的に判断することが可能な事柄であり,建築主事又は指定確認検査機関が判断するのに適しているが,安全上の支障の有無は,専門的な知見に基づく裁量により判断すべき事柄であり,知事が一元的に判断するのが適切であるとの見地によるものと解される。

 以上のとおり,
@建築確認における接道要件充足の有無の判断と,安全認定における安全上の支障の有無の判断は,異なる機関がそれぞれの権限に基づき行うこととされているが,もともとは一体的に行われていたものであり,避難又は通行の安全の確保という同一の目的を達成するために行われるものである。

 そして,前記のとおり,
安全認定は,建築主に対し建築確認申請手続における一定の地位を与えるものであり,建築確認と結合して初めてその効果を発揮するのである。

 他方,
A安全認定があっても,これを申請者以外の者に通知することは予定されておらず建築確認があるまでは工事が行われることもないから,周辺住民等これを争おうとする者がその存在を速やかに知ることができるとは限らないこれに対し,建築確認については,工事の施工者は,法89条1項に従い建築確認があった旨の表示を工事現場にしなければならない。)。

 そうすると,
安全認定について,その適否を争うための手続的保障がこれを争おうとする者に十分に与えられているというのは困難である。

 
B仮に周辺住民等が安全認定の存在を知ったとしても,その者において,安全認定によって直ちに不利益を受けることはなく,建築確認があった段階で初めて不利益が現実化すると考えて,その段階までは争訟の提起という手段は執らないという判断をすることがあながち不合理であるともいえない

 以上の事情を考慮すると,
安全認定が行われた上で建築確認がされている場合,安全認定が取り消されていなくても,建築確認の取消訴訟において,安全認定が違法であるために本件条例4条1項所定の接道義務の違反があると主張することは許されると解するのが相当である。これと同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。


としているわ。
※ @Bが、本件で例外的に違法性の承継が認められた要件となった理由です。)
  ・・・ということは!?
  正吉の子供たちの勝利です!!
タヌキだってがんばってるんだよォ!! 
そうです! そうです!
権太もきっと草葉の陰で喜んでくれているです! 
そうだね・・・
権太も、きっと・・・。
くそぉ。権太にも、この吉報を聞かせてやりたかったよね・・・。
ちょっとっ!
ナニ2人して暴走特急を脱線させっちゃってるのよ!

本件事案では『先行処分である安全認定が取り消されていない場合,たとえこれが違法であるとしても,その違法は後続処分である建築確認に承継されないのが原則であり,本件において本件安全認定が違法であるとの主張はできない』としていながら、例外的に、違法性の承継を認めているのよね。

では、何故、例外的に違法性の承継が認められたのか・・・
その要件を、この判例から導いて欲しいわけよ。

はい。
じゃあ、盛り上がっている御二方。
是非、この要件を答えて下さい。
あ、要件は、全部引用した判例の中で述べられているからね。
はい、答えて、答えて。
@安全認定と建築確認とは、そもそも一体的に行われており、これらは同一目的を達成するためのものであり、両者が結合して、初めて、その効果を発揮するものであること。

A安全認定の適否を争おうとしても、周辺住民等は、安全認定の存在を速やかに知ることはできず、周辺住民等に十分な手続的保障が与えられていないこと。

B安全認定の段階では、周辺住民等が直ちに不利益を受けることはなく、そうであれば、周辺住民等が、建築確認の段階まで争訟の提起という手段をとらないことには不合理性はないこと。


3つの理由を要件として、違法性の承継を、本件では例外的に認めているといえます。
  正吉・・・
立派になったのぉ。
  鶴亀和尚っ!
見ていてくれたんですか!!
うむ・・・。
正吉!
つまり、この判例から導かれる違法性の承継が例外的に認められる要件を端的に説明してくれんかの? 
はい!
原則認められない違法性の承継が、例外的に認められるための要件とは。

@先行行為と後行行為とが同一の目的・効果をもつこと
A先行行為につき手続的保障がないこと
B後行行為で争訟提起をとることが合理的理由をもつこと


3要件だと言えます!
また、本件からわかることですが、@における先行行為が、あくまでも出訴期間に制限のある行政処分であることも必要だと言えます。
うむうむ。
オラたち、狸はヒトがいい。
人間には、くれぐれも注意せんとな。
その要件、忘れるでないぞ!
御2人の会話のやり取りが、ちっとも分からないのですが、検討してみえる内容は、すごくよく検討できています。
そうね。
まぁ、本判決で示されているB要件については、その基準が不明確であるという指摘もあるところだから、@とAのみを要件と考えるべきとする考え方もあるところだから、短く覚えておきたいのなら、@とAの要件だけで抑えておくというのもありかもね。

でも、私の質問は、この判決から導かれる要件を聞いたのだから、ナカちゃんの答えは、大正解ってことになるわね。
・・・ただ、ナニ、さっきから2人がやっている小芝居は? 

まぁまぁ、おろく婆。
みんな一生懸命やっとるんじゃ。
小言を言うでない。
ちょっとっ!!
誰が、もうろく婆なのよっ!!

違法性の承継の肯否を考える上で、大事な視点を伝えようとしたのに、そんな言い方されるなら、もう教えてあげないわよ?!
おろく婆って言っただけじゃないの。
なんで、もうろく婆なんて、空耳して勝手に怒ってんのよ・・・。
おろく婆は厳しいです。
現代化け学では、木の葉のお札を見破られて怒られたのを思い出したです。
・・・その小芝居、いつまで続けるつもりなの? 2人共。

まぁ、検討自体はしっかり出来ているみたいだから、あんまり突っ込まないけれど。

いい?
違法性の承継の肯否は、

先行行為の法的効果を早期に確定させるというメリット
          と
例外的に後行行為の段階で先行行為の違法性を争うことが原告の権利利益の救済という観点から、どの程度重要なものといえるのか

という両者のバランスから判断されるべきものとされているわ。
なかなかに難しい視点ではあるけれど、そもそも例外的に違法性の承継を認めるに足ると言えるだけの事情についても検討しないとダメってことよね。
  うんうん。
ところで、この事案のオチなんだけど、最終的にはどうなったわけ?
本判決では、住民側の全面勝訴が確定したわけだから、マンション業者のマンション建設は、その先行行為である安全認定が違法であった以上、後行行為である建築確認も違法であるとして、取り消されたわけだから、当然、建設工事は続けられなくなったわね。 
  ということは、また、ぽん吉達と一緒に宴会が開けるんだね?
いや、さっきからナニ言っているのか、ちっともワカラナイんだけど、建設工事のストップした建築中の建物自体は、まだ撤去もされずに、そのままになっているみたいよ?

まぁ、私も現地を見てきたわけじゃないから、近況は、コチラのサイトで把握したら、としか言えないんだけど。
ただ、住民側は、今も根気強く、解体・撤去を求めて、たぬきの森を取り戻そうと訴訟を続けているわね(2014.10月現在)。 
  ぐぬぬぬぬ。
人間たちめ・・・。
でも、狸は負けないよ!
  和尚っ!
最後まで戦うです!!
  よしっ!
ここは、あの掛け声で最後を締めるべきだの!!
  はい、和尚っ!!
そいやっさ!  
・・・結局、最後まで小芝居続けたわね。 
平成狸合戦ぽんぽこ』をまだ見てみえない方には謹んでお詫び申し上げます。
 内容面に若干とは言え、ネタバレの要素のありますこと平に御容赦下さい。

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