最判昭和53年6月16日
〜余目町個室浴場事件〜
今回の事案は、関係者が多いので・・・。
しっかり全員に配役を割り当てるわね。

えーっと。

個室付公衆浴場の経営をしようとしていた会社を、サル。
その浴場営業の地域住民を、ナカちゃん。
山形県知事・山形県当局(=行政)を、つかさちゃん。
私が、余目町(=行政)と、ナレーター
で、いくわね。

ナレーター
昭和43年。
山形県余目(アマルメ)町にある会社(サル)は、個室付公衆浴場を、同地で営業しようと思い立ちました
ふむふむ。
ライバル競合店もいないし、ここにトルコ風呂を開けば、お客さんもつきそうだ。
200メートル規制にも抵触しなさそうだし、いっちょ頑張りますか!

会社

ナレーター
会社(サル)が心配している、いわゆる「200メートル規制」とは、旧風営法4条の4第1項に定めるもので、商業地域ではない住宅地域などでは児童福祉施設から200mの区域内における性的営業を、施設設置前に許可を得て営業していた場合を除いて禁止する法律でした。

因みに、本件の会社が営業しようとしているトルコ風呂とは、現在では一般にソープランドの名前で呼ばれる性的サービスを提供するお店のことです。
うん。
それじゃ、県に個室付浴場業用建物の建築確認を申請するとしますか。

会社

山形県知事
建築確認の申請ですか。
まぁ、特に問題もないと思いますので、建築確認を致します。 
よーし!
建築確認も下りたことだし、早速、建物を作ることにしますか!
しかし、そうなると、色々必要な申請があるから忙しくなるなぁ。

会社
ふむふむ。
個室付浴場の営業には、公衆浴場法の許可がいるわけか。
よし、じゃあ、コレも申請しないとな!

会社

山形県知事
公衆浴場法に基づく許可申請ですか?
わかりました。
申請は受理しておきます。
ただ許可までは時間がかかりますから、そのおつもりで。 
まぁまぁ。
こっちも色々準備あるし、肝心の建物もまだ未完成だからさ。
許可下りたら、すぐに営業開始できるように準備しとくよ。

会社

余目町地域住民
あれ?
なんだか見慣れない建物が建築中です。
 

余目町地域住民
あうあうあうです!
コレは、なんともいかがわしいお店です!
こんな、いかがわしいお店は、この町は認めないです! 
地元では、トルコ風呂なんて反対です!
あんな、いやらしいお店は断固反対です!
なんとか営業できないようにするべきです!

余目町地域住民

余目町
地元では、そんな反対運動が起きているのですか。
それでは、対処を検討します。 
ということで、地元住民は、トルコ風呂の営業に猛反対でね。
なんとかならないものだろうか

余目町

山形県当局
うーん、ここは、いわゆる200m規制を逆手にとるというのは、どうだろうか。
営業しようとしている店の200mの範囲内に、児童福祉施設を作ってしまうんだよ。
そうすれば、風営法に引っ掛かるから、営業なんて出来ないからな。 
ソレは妙案だ!
それじゃ、余目町では児童遊園を設置することにするよ。
申請するから、設置の認可は任せることにするよ。

余目町

山形県当局
よし。
それじゃ、認可はしておくから、児童遊園の設置は、そちらがちゃんとやっておくようにな。 
わーい、わーいです!
私達の反対運動を受けて、児童遊園が設置されたです!
これで、トルコ風呂なんて、いかがわしいお店は、もう営業できないです!

余目町地域住民
よっしゃぁっ!
建物完成っ!
さらに、建築確認通りの建物であることを認める検査済証も発行されたし、さらにさらに、待ちに待ってた公衆浴場法の許可も下りましたっ!
コレで、店に女の子を集めて、営業できるぞぉ!

会社

ナレーター
しかし、会社の営業店舗は、余目町の児童遊園の設置により、許可の下りた時点では、禁止地域となっていたのです。
そのため、会社は、43年8月頃から翌44年2月頃まで、当該禁止地域での、女性従業員(=いわゆるトルコ嬢)による男性客相手の営業を理由に、起訴されることとなってしまいました
 この起訴は、刑事事件であるため、刑事訴訟です。
ちょ、ちょ、ちょっ!
おかしいやろ?
この児童遊園は、厚生大臣の定める最低基準にも達してない施設じゃないか!
しかも、うちの浴場の建設開始や、トルコ風呂の許可申請があったことを知った上で、こんな認可しとるなんて、最早、うちの営業妨害目的としか思えへんやないか!
絶対、おかしいわ!! 
こんなんで営業規制かけるなんて、許されへんことやないか!?

会社
   






そこまででいいかな。
少し、時系列の整理が必要な事案だったけど、判例再現してみて、よくワカッタんじゃない?
藤先輩が、いやらしいお店の営業にまで手を染めてしまったです。
事案のあたしね!
ところで、トルコ風呂なんて、今はもう使っていないような言葉で、表現するのは、どうかと思うよ?
トルコの人にも失礼じゃない?
違うわよ!
当時は、一般にそう呼ばれていたために、この事件を扱った判例でも、この言葉が使用されているのよ!
だから、敢えて、この言葉を使っているんだからね。
誤解しないでよね! 
成程ねぇ。
しかし、トルコの人が聞いたら、どう思うかなぁ?
気分を害するんじゃないのかなぁ。
じゃあ、どうしろって言うのよ。
判例を読む際に、「トルコぶろ」とか「トルコ嬢」って言葉が出てくるんだから、事案を再現するにも、同じ言葉を使うべきじゃないの?  
まぁ、あたしとしては、今日はトルコへの偏見がないことを、あたし達の共通認識とする意味でも、トルコ料理を食べに行って、トルコへの関心を深める、というのが、いいんじゃないかと思うわけなんだけどね。
トルコ料理・・・って、どんな料理があるんですか? 
ホラホラ、光ちゃん。
こういう不見識な子も、現実問題いるわけだよ?
そういう中での、誤解を招きかねない「トルコ風呂」なんて言葉の使用は、非常に危険だと、あたしは懸念するわけよ。
成程ね・・・。
うん、それじゃ、今日はトルコ料理を食べに行くってことで、異文化を食を通じて学ぶってことにしてもいいかもね。  
ウキっ!!

(マヂでかっ!! いやぁ、言ってみるもんだねぇ。
 しかしコイツ、ホント、チョロいっすわぁっ!)
藤先輩、藤先輩。
トルコ料理には、どんな料理があるんですか?
え?
トルコ料理?
・・・そ、そ、そりゃ、色々な料理があるよね。
  例えば、どんな料理なんですか?
いや、今は勉強会だからね。
トルコ料理の話は、そのへんにしとかないと、光ちゃんが怒っちゃうからね!

(知らないよ! トルコ料理なんて、あたしも食べたことないもん!)
料理の名前を言うくらいで、私も怒らないわよ。
教えてあげればいいじゃない。  
え?
え?
・・・えーっと、トルコパン、トルコハンバーグ、トルコバーガーなんかじゃないの?

(流石に、トルコラーメンとかはヤバそうだしなぁ、このあたりかな?)
あんた、トルコ料理って言うのなら、ちゃんとトルコの名称で言わないとダメじゃないの!
エクメク、キョフテ・・・トルコバーガーって言うのは、ケバブとピタパンを併せた物のことよね?
あんたも実は知らないんじゃないの? 
違いますぅ〜。
知らない人に、ワカルように言っただけですぅ〜。
  ・・・。

(ジトォ〜。)
ひ、光ちゃん!
トルコ料理の話は、トルコ料理食べに行ったお店ですればいい話じゃないの。
今は勉強会でしょ?

(コラ! コッチ見んな!)
やる気があっていいじゃない!
それじゃ、まずは今回の事案のポイントからね。

本件の会社(業者)は、風営法違反で逮捕されてしまったわけよね。
この事件では、行政裁量裁量権の濫用)も問題となるんだけれど、その論点の話は、また改めて勉強する際にってことで・・・。

ここでは、次の論点に絞って判例を見ることにするわね。
すなわち。

行政行為によって課された業務違反の罪に問われた刑事訴訟において無罪主張をするためには、あらかじめ、取消訴訟で当該行政行為の違法性を確定しておく必要があるか?

って話ね。

本件刑罰の前提には、児童遊園の設置、という行政行為があるわよね。
大事なことだから、何度も言うけれど、行政行為には公定力が働くわ。
公定力が働くということは、例え違法な行為であったとしても、取り消されるまでは有効ってことになるわ。
そうなると、児童遊園の設置という行政行為を有効なままとして、本件刑事罰について争うことができるのか? っていう話になるわけね。
うーん、確かに気になる。
正直、業者を演じた、あたしとしても、こんなことで逮捕ではやり切れないからなぁ。
  判旨は、次のものね。

所論にかんがみ職権により調査すると、原判決及び第一審判決は、次の理由により破棄を免れない。

 原判決の是認する第一審判決の認定事実の要旨は、「個室付公衆浴場の営業を営む被告会社は、浴場施設から一三四・五メートル離れた地域に余目町児童遊園(
児童福祉法七条に規定する児童福祉施設で、被告会社に対する山形県知事の公衆浴場経営許可の日よりも五一日前に同知事の認可を受けていた。)があるため、浴場個室において異性の客に接触する役務を提供する営業(いわゆるトルコぶろ営業)ができないのに、昭和四三年八月一六日ころから同四四年二月七日ころまでの間に女性従業員五名(いわゆるトルコ嬢)による男性客相手(延七〇名)のトルコぶろ営業を営んだ。」というものである。

 本件の争点は、山形県知事の児童遊園設置認可処分(以下「本件認可処分」という。)の適法性、有効性にある。
 すなわち、
風俗営業等取締法は、学校、児童福祉施設などの特定施設と個室付浴場業(いわゆるトルコぶろ営業)の一定区域内における併存を例外なく全面的に禁止しているわけではない(同法四条の四第三項参照)ので、被告会社のトルコぶろ営業に先立つ本件認可処分が行政権の濫用に相当する違法性を帯びているときには、児童遊園の存在を被告会社のトルコぶろ営業を規制する根拠にすることは許されないことになるからである。

 ところで、原判決は、余目町が山形県の関係部局、同県警察本部と協議し、その示唆を受けて被告会社のトルコぶろ営業の規制をさしあたつての主たる動機、目的として本件認可の申請をしたこと及び山形県知事もその経緯を知りつつ本件認可処分をしたことを認定しながら、児童遊園を認可施設にする必要性、緊急性の有無については具体的な判断を示すことなく、公共の福祉による営業の自由の制限に依拠して本件認可処分の適法性、有効性を肯定している。

 また、記録を精査しても、本件当時同町において、被告会社のトルコぶろ営業の規制以外に、本件児童遊園を無認可施設から認可施設に整備する必要性、緊急性があつたことをうかがわせる事情は認められない。

 本来、児童遊園は、児童に健全な遊びを与えてその健康を増進し、情操をゆたかにすることを目的とする施設(
児童福祉法四〇条参照)なのであるから、児童遊園設置の認可申請、同認可処分もその趣旨に沿つてなされるべきものであつて、前記のような、被告会社のトルコぶろ営業の規制を主たる動機、目的とする同町の児童遊園設置の認可申請を容れた本件認可処分は、行政権の濫用に相当する違法性があり、被告会社のトルコぶろ営業に対しこれを規制しうる効力を有しないといわざるをえない括弧書き省略)。

 そうだとすれば、被告会社の本件トルコぶろ営業については、これを規制しうる
児童福祉法七条に規定する児童福祉施設の存在についての証明を欠くことになり、被告会社に無罪の言渡をすべきものである

 したがつて、原判決及び第一審判決は、犯罪構成要件に関連する行政処分の法的評価を誤つて被告会社を有罪としたものにほかならず、右の違法は判決に影響を及ぼすもので、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。


としているわね。

最高裁の認定した事実によれば、本件児童遊園施設の設置認可という行政処分には、被告会社のトルコ風呂営業阻止を主たる動機とする行政権の濫用といえる違法性があったこととされているわ。

そして、そのような認可処分には、そもそも効力がないといえるとして、この認可処分が有効であることを前提とした風営法違反による逮捕に対して、無罪を言い渡しているということね。

この事件では、被告会社は、児童遊園設置認可処分についての取消訴訟を経ていないんだけど、本判決は、この認可処分を無効なものとして無罪としているのよね。
つまり、取消訴訟の排他的管轄には刑事訴訟は触れない、という結論になるわね。

刑事訴訟における構成要件の解釈は、罪刑法定主義憲法31条の観点から独自に行われるべきものであって、ここに公定力を持ち込むことは妥当ではないという理解でいいと思うわ。

 判決とは関係ありませんが、この事件の舞台となったトルコ風呂(トルコハワイ)のあった建物や、その営業阻止のための児童遊園の写真を撮影しているブログがありましたのでリンクを貼っておきます。)
  よかった!
会社は無罪になったんだ!
事件の結末じゃなくって、判例の考え方や、ここで抑えるべき論点を理解しておいてね?  
  え?
なんだったっけ?
正直、あんま聞いてなかった。
優し過ぎる藤さんは、こういった事案だと、ついつい当事者の心情を慮ってしまわれるんですね。
そんな藤さんが素敵です!
じゃあ、判例も検討したし、無罪という嬉しい結果も得たところで、気持ちよくトルコ料理を食べに行きますか!
まだよ!
今日は、まだ検討したいメインとなる判例が残っているんだから!  
えぇぇぇぇ?
トルコ料理食べに行こうよ!
なんかご飯の話しちゃったら、もう完全に食べることで頭一杯になっちゃったんだけど。
光ちゃん。
藤さんも、こう仰ってみえることですし、食事に行ってから、改めて判例検討をするということでは、いかがでしょう?
却下します!
・・・で、でも藤さんは、もうお腹が空いてみえるようですし、食事しながらでも判例の話題は出来ると思いますよ?
確かに、判例の話は出来るけど、サルは食事の間は、食べることしか頭にないから、話は完全に右から左になっちゃうからね。
メインの判例検討が、それでは困るわ。  
  ・・・まだ、やんのか(ボソっ。 
ナニか?   
いいえ、なんでもないです。

(トルコ料理のためだお! ココは、大人しくしておくべきだお!
 くぅぅぅ。早く食べたぁ〜い!)

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