最判昭和50年2月25日 〜自衛隊員事故国賠請求事件〜 |
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それじゃ、配役からね。 今回は私はナレーターを。 サルは車両整備をしてて、ひかれて死亡した自衛隊員。 ナカちゃんは、そのサルの両親役。 訴えられた国側を、黒田さんでお願いします。 |
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ナレーター |
1965年。 青森県八戸市の自衛隊自動車隊車両整備工場。 自衛隊員(サル)は、この工場で車両整備をしていました。 |
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トンカン、トンカン! 整備、整備、整備! トンカン!トンカン! |
事故死した自衛隊員 |
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キキキィィィィッ!! | ドカンっ! | |
あ・・・もうダメぽぉ。 ガク・・・ |
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ナレーター |
車両整備中に、自衛隊員(サル)は工場内の同僚の車にひかれ死亡してしまいました。 1969年(自衛隊員の事故から4年後)。 サルの両親ら(ナカちゃん)は、国(黒田さん)に対して、自賠法3条に基づき、損害賠償請求をすることにしました。 |
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息子が死んだ責任を取って欲しいです! 裁判に訴えるです! |
死んだ自衛隊員の両親ら |
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国 |
不法行為責任ですか・・・ ただ、民法724条がありますからねぇ。 民法724条 『不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。』 申し訳ないですが、既に4年経過していますので、御両親の請求権は、時効によって消滅していることになりますね。 |
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ナレーター |
一審は、国側の時効の抗弁を認容。 自衛隊員の両親らの請求を棄却しました。 そこで、1972年(自衛隊員の事故から7年後)。 両親らは、損害賠償請求権に加えて、国の安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求を追加して控訴しました。 |
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息子が働く環境を安全なものにするという義務(債務)が、自衛隊にはあったはずです! その義務を守らなかったから息子は死んだです! 債務不履行に基づく損害賠償請求をするです! |
死んだ自衛隊員の両親ら |
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御両親の御気持ちは解りますが、息子さんは自衛隊員ですから、通常の雇用関係ではなく、いわゆる特別権力関係に服する立場だったんですよ。 一般社会では、一般権力関係が働きますが、我々の社会(職場)では、そのような義務はないものと思われます。 したがって、安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任はないですね。 |
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ナレーター |
控訴審(二審)では、国側の主張を認めて、両親らの控訴を棄却。 そこで、両親らは上告したのでした。 |
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お疲れ様ぁ。 いつもと違って、一審から再現しちゃったね。 この事案では、時効の問題が絡むから、時系列を追わないといけないかなぁ、って思ってね。 |
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もっと、頑張りたかったです。 | ||
あたしのためにガンバってよね! | ||
藤先輩が死んじゃったら悲しいから、絶対に負けたくないです! 泣き寝入りはしたくないです! |
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(・・・なんか私が悪者みたいになってる気が・・・。 いっつも行政側なんだもん・・・。) |
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それじゃ、事案のポイントまとめますね。 民法の論点は、また民法の勉強の際に改めてするってことで、ここでは行政法上の論点に絞っての検討にしますね。 控訴審での裁判所の判断は、公法私法二分論を採用しているわよね。 公法私法二分論から、自衛隊の雇用関係は、典型的な権力関係である以上、私法の適用は排除されるから、安全配慮義務(民法415条)はないとしているのよね。 じゃあ、この判断に対して最高裁は、どのような判断を下したのか。 ちょっと今回は、判例の引用長めだから、ポイント整理は短めにして判例を見ちゃいましょ。 |
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最高裁の判断は、次のものです。 (※ 改行・段落ちは管理人編集) (※ 赤太文字算数字は管理人編集) 『1.国と国家公務員(以下「公務員」という。)との間における主要な義務として、法は、公務員が職務に専念すべき義務(国家公務員法一〇一条一項前段、自衛隊法六〇条一項等)並びに法令及び上司の命令に従うべき義務(国家公務員法九八条一項、自衛隊法五六条、五七条等)を負い、国がこれに対応して公務員に対し給与支払義務(国家公務員法六二条、防衛庁職員給与法四条以下等)を負うことを定めているが、国の義務は右の給付義務にとどまらず、国は、公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、施設もしくは器具等の設置管理又は公務員が国もしくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたつて、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負つているものと解すべきである。 2.もとより、右の安全配慮義務の具体的内容は、公務員の職種、地位及び安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によつて異なるべきものであり、自衛隊員の場合にあつては、更に当該勤務が通常の作業時、訓練時、防衛出動時(自衛隊法七六条)、治安出動時(同法七八条以下)又は災害派遣時(同法八三条)のいずれにおけるものであるか等によつても異なりうべきものであるが、国が、不法行為規範のもとにおいて私人に対しその生命、健康等を保護すべき義務を負つているほかは、いかなる場合においても公務員に対し安全配慮義務を負うものではないと解することはできない。 3.けだし,右のような安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入つた当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものであつて、国と公務員との間においても別異に解すべき論拠はなく、公務員が前記の義務を安んじて誠実に履行するためには、国が、公務員に対し安全配慮義務を負い、これを尽くすことが必要不可欠であり、また、国家公務員法九三条ないし九五条及びこれに基づく国家公務員災害補償法並びに防衛庁職員給与法二七条等の災害補償制度も国が公務員に対し安全配慮義務を負うことを当然の前提とし、この義務が尽くされたとしてもなお発生すべき公務災害に対処するために設けられたものと解されるからである。 4.そして、会計法三〇条が金銭の給付を目的とする国の権利及び国に対する権利につき五年の消滅時効期間を定めたのは、国の権利義務を早期に決済する必要があるなど主として行政上の便宜を考慮したことに基づくものであるから、同条の五年の消滅時効期間の定めは、右のような行政上の便宜を考慮する必要がある金銭債権であつて他に時効期間につき特別の規定のないものについて適用されるものと解すべきである。 5.そして、国が、公務員に対する安全配慮義務を懈怠し違法に公務員の生命、健康等を侵害して損害を受けた公務員に対し損害賠償の義務を負う事態は、その発生が偶発的であつて多発するものとはいえないから、右義務につき前記のような行政上の便宜を考慮する必要はなく、また、国が義務者であつても、被害者に損害を賠償すべき関係は、公平の理念に基づき被害者に生じた損害の公正な填補を目的とする点において、私人相互間における損害賠償の関係とその目的性質を異にするものではないから、国に対する右損害賠償請求権の消滅時効期間は、会計法三〇条所定の五年と解すべきではなく、民法一六七条一項により一〇年と解すべきである。』 1.〜3.は、民法の論点の話だから、ここでは、安全配慮義務が認められたんだぁってことくらいでいいわ。 安全配慮義務が、具体的にどのようなものかについては、また民法の勉強の際に、しっかり理解することにしましょう。 さて。行政法上の問題は、この先からよ! 控訴審では、公法私法二分論から、典型的な権力関係(特別権力関係)であるため私法の適用は排除されるから、ないと判断された安全配慮義務が、3.までの話では、適用されるってことになっちゃったわよね? そこで、4.以下の問題が生じるわけ。 つまり、民法上の条文と、行政法上の条文のドチラが優先されるのか、という問題よ。 ここで、先に会計法30条を確認しましょ。 |
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会計法30条かぁ。 うわっ! あたしの六法載ってないっ!! |
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藤さん、私のスマホ見てください。 会計法30条。 『金銭の給付を目的とする国の権利で、時効に関し他の法律に規定がないものは、五年間これを行わないときは、時効に因り消滅する。国に対する権利で、金銭の給付を目的とするものについても、また同様とする。』 |
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ええなぁ。スマホ。 ソレ、あたしにくれない? |
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いえ・・・ いくら藤さんの御願いでも、ソレはちょっと無理です・・・ |
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ナニ、黒田さん困らせてんのよ! どうせ、あんたなんかスマホ持ってもゲーム機能しか使わないんだから、ガラパゴス携帯で十分でしょ? 会計法30条の時効は、5年。 これに対して、安全配慮義務は民法415条を根拠とするものであるから、民法上の債権の時効は、民法167条1項から10年。 あ、一応条文チェックしとくわね。 民法167条1項 『債権は、十年間行使しないときは、消滅する。』 この消滅時効の期間が違うために、安全配慮義務が認められるという前提があっても、4.以下の問題が生じることとなるわけね。 ここで、なんのために会計法30条があるのか? という問題について、当該個別法の趣旨を、4.では述べ、5.で、その上で、いずれを使うべきかの結論を導いているのよね。 |
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国の安全配慮義務違反は、偶発的なものであり、かつ、多発するものではないから、会計法30条の趣旨である行政上の便宜を考慮する必要はないというところですね。 そして、国が安全配慮義務違反により責任を負うことは、私人相互間における損害賠償の関係とその目的性質を異にするものではないとして、会計法の適用を排除して、民法の適用を認めているんですね。 |
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ねぇねぇ。 クロちゃぁ〜ん。 スマホ、ちょうだい、ちょうだい。 |
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いえ、ですからソレは・・・ | ||
大事にするから! もう、クロちゃんだと思って大事にしちゃうから! |
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え? そこまで大事にして頂けるんですか? そ、そ、ソレなら・・・ |
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ちょっと、あんた判例検討も聞かずに、ナニ黒田さんにタカってんのよ! ちゃんと聞いてたの? |
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・・・うんとね・・・。 スマホを大事にするならくれるかもってとこまでは聞いたお。 |
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そんな話してないわよ! ちゃんとやらないなら、もう勉強会やらないわよ!? |
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藤先輩・・・ 明智先輩に謝るべきです。 |
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ゴメンね・・・光ちゃん。 でも、あたし、いつもみんながイジッてるスマホ見るたびに、羨ましいなぁって思っているんだよ。 あたしも欲しいなぁ・・・って。 |
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そうなんだ・・・ サルがそんなに欲しいのなら、私が誕生日プレゼントで買ってあげるってことでもいいよ? |
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え? マヂで買ってくれんの? だったら、その金は現金でくれお。 別にガラパゴス携帯でも、特に不便ないしさぁ。 ぶっちゃけスマホよりPS3のほーが欲しいんだおね。 |
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・・・ふ、ふ、藤先輩。 | ||
ナニよ! やっぱりゲーム目当てだったんじゃないのよ! 不便がないって言うのなら、一生そのガラパゴス携帯使ってればいいんじゃないの? あんたにはお似合いよ! |
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しょぼぉ〜ん。 |