最判昭和36年3月7日判決 〜課税処分賦課取消請求事件〜 |
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じゃあ、配役の発表からね。 私はナレーターを。 山林の元所有者を、サル。 その山林の元所有者から、山林の所有権を譲り受けた養子を、私。 山林の元所有者サルの相続人(=原告)をナカちゃん。 所轄税務署長を、つかさちゃんって配役でいくわね。 |
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わしが持っとる、この山林を養子である、お前に譲る(=贈与)から、お前は、わしに示談金を払っとくれ。 なぁに、示談金は、このわしがお前に譲る山林に生えとる立木を売った金から出してくれりゃええから。 |
山林の元所有者 |
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養子 |
そんな話なら、あんたが先に、立木を売却してから、山林を譲ってくれりゃ、いいじゃないか。 | |
山林なんて、立木があっての山林じゃないか。 わしに示談金を払っても、お前の手元には立木の売却代金が相当額残るんだから、その方がお前にとっても、いい話だと思うから言っているんだ。 |
山林の元所有者 |
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養子 |
そうかい。 それじゃ、そうするよ。 あんたにもらった山林の立木を売却して、そのお金から示談金を払えばいいわけだな。 |
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養子 |
よし。 立木はうまく売却できたっと。 これは売却代金からの示談金だよ。 確かに支払ったよ? |
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ふむふむ。 確かに。 これは示談書だよ。 お互い、これで納得ってことだの。 |
山林の元所有者 |
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ナレーター |
ところが、この示談書には、山林の元所有者(=サル)が所有する立木を売却した後で、その山林の土地を、養子に贈与するとする記載がなされていたのでした。 さらに、実際に売却された立木の売買契約書にも、山林の元所有者(=サル)が売主となっていたのです。 |
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相続も済ませましたし、これで安心です! | 山林の元所有者の相続人 |
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税務署 | すみません。 所得税の申告が御済ではないようなので。 |
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所得税・・・ですか? |
山林の元所有者の相続人 |
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税務署 | あなたが相続された被相続人ですが、山林の立木の売買によって所得を得ていますね。 その売買代金にかかる所得についての申告がなされておりません。 |
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あぁ。それなら、養子の方の所得になっているはずです! 課税処分をするのなら、養子の方にして下さいです! |
山林の元所有者の相続人 |
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税務署 | いや、もう貴方を対象に、課税処分はしましたから。 後は、速やかに税金を納めて頂ければ結構ですよ。 |
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だから、ちゃんと調べてから課税をしてもらいたいです! 何度も言っていますが、立木の売却代金は、養子の人が得ているんです! どうして得てもいない山林の売却代金の税金を、私が払わないといけないんですか! この課税処分には、あなた方税務署の職務怠慢による事実誤認があるです! ろくに調べもせずに、得てもいない所得に課税をするなんて、この課税処分には、重大かつ明白な瑕疵があるといえるです! 私は、この課税処分に対して、無効確認訴訟を提起するです! |
山林の元所有者の相続人 |
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お疲れ様ぁ。 | ||
えーっと・・・。 たまにはで、いいんですけど、行政側以外の配役もして欲しいかな、って思いました。 |
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あ、ゴメンね。 つかさちゃんのイメージが、このメンバーだと、少し固い感じだから、なんか自然と、そんな配役になっちゃっているみたいね。 |
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よしっ! ココは、大正義あたしが、その役を次はやってやんよ! |
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・・・。 (藤先輩が、大正義では、この世はお先真っ暗です!) |
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サルが、行政側じゃ、なんだかイメージ合わない気もするんだけどなぁ。 えーっと、じゃあ、その話題は置いておいて。 事案のポイントからね。 最高裁の示した重大明白説の立場から、さらに、瑕疵の明白性について、いかなる基準をもって、その明白性を判断するのか? ということを、この判例からは読み取って欲しいわけね。 それじゃ、早速、最高裁の判決文を見てみましょうか。 |
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大正義、あたしが、この眼で、ジックリ見届けてやんよ! | ||
えーっと、最高裁の判断は、次のものね。 『行政処分が当然無効であるというためには、処分に重大かつ明白な瑕疵がなければならずここに重大かつ明白な瑕疵というのは、「処分の要件の存在を肯定する処分庁の認定に重大明白な瑕疵がある場合」を指すものと解すべきことは、当裁判所の判例である。 右判例の趣旨からすれば、瑕疵が明白であるというのは、処分成立の当初から、誤認であることが外形上客観的に明白である場合を指すものと解すべきである。 もとより、処分成立の初めから重大かつ明白な瑕疵があつたかどうかということ自体は、原審の口頭弁論終結時までにあらわれた証拠資料により判断すべきものであるが、所論のように、重大かつ明白な瑕疵があるかどうかを口頭弁論終結時までに現われた証拠及びこれにより認められる事実を基礎として判断すべきものであるということはできない。 また、瑕疵が明白であるかどうかは、処分の外形上、客観的に、誤認が一見看取し得るものであるかどうかにより決すべきものであつて、行政庁が怠慢により調査すべき資料を見落したかどうかは、処分に外形上客観的に明白な瑕疵があるかどうかの判定に直接関係を有するものではなく、行政庁がその怠慢により調査すべき資料を見落したかどうかにかかわらず、外形上、客観的に誤認が明白であると認められる場合には、明白な瑕疵があるというを妨げない。 原審も、右と同旨の見解に出たものと解すべきであつて、所論は、右に反する独自の見解を前提とするものであり、すべて採用のかぎりでない。 よつて,民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。』 本判決の大事な部分は、太文字部分になるわね。 |
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こ、こ、この基準!! ぱねぇっすわ!! |
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ソレ、何語なの? でもまぁ、言わんとすることはワカらなくはないかな。 この明白性の判断基準についての最高裁の立場の考え方は、外見上一見明白説(=外観上一見明白説)と呼ばれるものなの。 本判決の判旨にもあるように 『瑕疵が明白であるというのは、処分成立の当初から、誤認であることが外形上客観的に明白である場合を指すもの』 であり、その 『瑕疵が明白であるかどうかは、処分の外形上、客観的に、誤認が一見看取し得るものであるかどうかにより決すべきもの』 とされているわけよね。 |
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このハードルは、相当高そうに思えるんだけど・・・。 だって、パッと見て、わかるような瑕疵じゃないと無効ってことにはならないってことでしょ? |
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そうですね。 藤さんの御指摘されるように、瑕疵を認めて欲しいと思う国民の側からすれば、無効と認められるハードルは、とても高いものといえると思いますね。 |
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そうよね。 因みに、本判決では、この明白性については、『外形上客観的に明白である場合を指す』として、明白性の判断は、一般人を基準に判断するものであることについても言及しているわね。 また、『行政庁が怠慢により調査すべき資料を見落したかどうかは、処分に外形上客観的に明白な瑕疵があるかどうかの判定に直接関係を有するものではなく、行政庁がその怠慢により調査すべき資料を見落したかどうかにかかわらず、外形上、客観的に誤認が明白であると認められる場合には、明白な瑕疵があるというを妨げない』として、処分庁の調査義務違反の有無は問題ではないことについても言及されているわよね。 ただ、この最高裁の考え方に対しては、学説からは、行政庁が、その調査義務を果たしていれば、その誤りが発見できるような場合は、明白性の要件を満たすのだという調査義務違反説という考え方もあるわね。 本判決のような考え方に納得できないというのなら、調査義務違反説の立場からの批判を答案に表してみる、というのもありだと思うわよ。 |
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・・・。 (調査義務違反説? うーん、でも覚えることが増えるのは面倒だなぁ。 よし! ここは外見上一見明白説で手ぇ打っとくかぁ。) |
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・・・。 (なんて脆い大正義なんですか!) |